第20話 ひとりごと
「これは俺も後から知ったことなんだが、ツヴァイアサシンの放つ超音波は魔力を介さず人体に悪影響を起こすことが出来るらしい。普段魔力抵抗が高く、頑丈な人間ほどその悪影響が強く発揮されるんだとか。俺は魔力総量がそもそも少ないから気づかなかった。だから、オリヴィエが苦しむ理由も分からなかった」
突然オリヴィエが苦しみだし、不調を訴えだしたのを見て、俺はとっさに前に出た。オリヴィエは止めたし、俺だって自分で何かが出来ると思っていたわけではない。ただ、少しでも時間稼ぎが出来ればオリヴィエが倒してくれるかもしれない、そう思っていた。
「何より、悔しさもあった。せっかく冒険者になったのに俺は終始荷物持ち。ペアパレードも5日目のことだったから、結構不満がたまってたんだよな。なめんな、って、粋がってた。親父に育てられて、
ツヴァイアサシンの高速連携をはっきりと認識できたことと、その内容をオリヴィエに共有したところまでは覚えているのだ。ただ、それからは一瞬のことだった。
「オリヴィエが瞬時に1匹目をとらえたかと思えば、続けて俺に向かってきた2匹目をも仕留めて見せた。早業過ぎて、俺は目で追えなかった。それからすぐ地上に戻って、俺たちのペアは解散した。別にそこまでは良かった。オリヴィエも体調が悪そうだったから」
横目で見るとニフェルは集中した様子で本を探している。ただ、先ほどの羞恥心が消えないのか、どこか慌てているようにも見える。
「問題はそのあと。数日後、再び冒険者ギルドに行った俺に、Bランクに昇格したという旨の伝達があった。それからだな。俺は不正だなんだと言われ、そこからすぐに親父が病気になって冒険者活動を中止。借金だなんだが重なって悪評が重なって、今ではあることないこと言われてる。最初のほうこそ誤解を解こうと紛争していたが、その内そんな余裕すらなくなった。で、今に至るってわけだ」
「……だから、その原因を探るため改めて冒険者ギルド内におけるランクの定義をはっきりさせよう、ってわけですね」
「そういうことだ」
それこそ俺たちがこの資料室を訪れた理由。どういうわけか、受付では教えてもらえなかったからな。
「何か画する理由があるんですか? というか、ランクって実績によって決められるはずですよね。聞いた感じ、クロトさんにそんな実績なさそうですけど」
「そうなんだよな。四季折々におけるBランク適正階層は10階層以上。ただ、それは基本ソロ到達の時の話で、ペアパレード中は適応されないはずなんだが。だから俺のランクが上がった理由は不明。言いがかりって言い返すことも出来ない」
ランク昇格の取り消しを申し出ても拒否された。こればっかりはギルドが何がよからぬことをしているか、やんごとなき理由があるとしか思えない。
「冒険者活動はもうやめようと思っていたから、必死になって探すこともしなかったんだけどな」
「それはそれでどうかと思います。誤解を解こうとしないのは、罪を認めているようなものですよ」
「そんなことを言われてもな。昨日も言ったが今はフリーターの身だ。借金だって抱えてる。変なことに時間を割いてるわけにはいかなかったんだよ」
「なら、どうしてペアパレードは参加したんですか? 昨日から気になってたんですけど」
「それは……」
一瞬、作業の手を止めてしまった。なんとなく、言っていいのかためらってしまった。別に隠すようなものでも、ないはずなのだが。
「……諦めきれなかっただけだ」
作業を再開させると同時、ごまかすように言ってみる。もしかしたら聞こえていないかもしれないし、ニフェルは首をかしげていることだろう。ただ、無性に恥ずかしくて、正面から伝える気にはなれない。
伝えるって程、重苦しいものでもないのかもしれないが。
「……私が冒険者を目指したのはお姉ちゃんみたいになりたかったから、というのは以前も言った気がします」
俺の一人語りのターンが終わったと思ったのだろうか。ニフェルが手を止めることなく、そんなことを言った。
「でも、たぶんそれ以上に、ワクワクしていたんです。誰も知らない世界を見て回りたい。出来ることなら、誰もをあっと驚かせるような大発見がしたいっ、って。……クロトさんはどうですか?」
ニフェルは笑いかけてくる。確かにワクワクしていそうな笑顔だ。
「そうかもな。確かにそうだ。俺も、ワクワクしてた。そうでなきゃ冒険者なんてやりはしないさ」
「ですよね!」
何がそんなに嬉しいのか、ニフェルは満面の笑みを浮かべてそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます