失われた時間の回廊 ~虚空の影~『輪廻転生した男は何を見たのか』

神崎 小太郎

前書きにかえて

 まもなく三十五歳を迎える外資系金融マンの氷室蒼涼ひむろそうすけ


 彼は端正な容姿と莫大な財産に恵まれながらも、その心はどこか空虚で、刹那的な快楽に身を委ねることで、かろうじて生を繋ぎとめていた。


 しかし、ある日、蒼涼の身体に驚くほど急激な老化の兆しが現れた。それは若さとは程遠い、恐ろしく不可解な変化だった。


 絶望に打ちひしがれながら、彼は若さを取り戻す救いを求めた。異世界で調合された鬼灯の媚薬、真回春丸の輝きに、人知れず手を伸ばす。


 ところが、その代償の大きさに気づいたときには、もはや引き返す術はなかった。蒼涼の運命は、抗えぬ“時”の渦に呑まれ、遥か彼方へ流されていった。


 突如、時還師ラミアの描いた虚空の影が忍び寄る。過去は失われた時間の回廊の闇へと崩れ落ち、静寂のなかで儚く舞い散った。


 二千字余りの短編ミステリー『時の喪失』を、本編原稿・朗読台本・映像脚本という三重奏のスタイルで綴りました。


 一つの物語が、三つの音色で響き合う。短編連作として紡がれるこのミステリーは、どの声で聴き、どの視点で眺め、どの「時の流れ」に触れるか――その選択もまた、あなた自身の物語となる。


 最後の瞬間まで、存分に味わっていただければ幸いです。

 

 (本編原稿へ続く)

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