完璧なあなたと、汚すぎる私。
家に着き、冷蔵庫から食材を取り、軽食を作る。
夕食はピザ取ろう、って陽様が言ってくれた。
冷蔵庫も前来た時に、勝手に開けていいよ、って言われた。
私の料理をいつも褒めてくれるから、それが嬉しくて無駄に作ってしまう。
「希美、無理しなくていいよ」
「お口にあいませんか?」
「違う、そうじゃなくって。大変だろ」
野菜を炒める私に聞いてくる。
私が首を振ると、少し困った顔をして冷蔵庫からビールを取り出した。
「じゃあ、映画見ながら少し飲もうか」
陽様はお酒が好きだ。
頷いた私にビールを渡して陽様はソファに座ると私の肩に腕を回した。
「……希美の家って、あんまりうるさくないの?」
「え?なにがですか?」
「いや、帰ってこいとか言われないのかなって。
割と遅くまでいるし、何も言わずに泊まってる気がするから、いつも」
我が家の事情を陽様に話したことはない。
優しすぎる陽様はきっと、私の家庭の話をしたら、色んな手を無駄に尽くしてしまう。
私は何も言わずに頷き微笑んだ。
陽様は少しだけ不安そうにして、何も聞かずに私の唇に唇を重ねた。
私が素直にそれに応えて、少しだけ欲張ろうとしたら唇を離して笑う。
「映画、見てからにしようか」
夢みたいなこんな日々が、このままズット続けばいい。
いっそ、眠りに落ちて永遠に眠ってしまって、陽様と二人でいられる夢を見続けられたらいい。
「今日も泊まっていいですか」
陽様は少しだけ迷ってから私の髪を優しく撫でる。
「いいよ。
ただ普段何も頼んでこない希美が、やたらと家には帰りたがらないの、お節介な俺からするとすごく心配なんだけど。
理由は教えてくれないの?」
秘密ってほどのものじゃない。
言っても別に良いけど。
陽様の優しさに甘えたくないって、どうしても思ってしまう。
「隠しているわけではないですし、陽様に気にかけてもらう事情ではないだけです。
ただ両親と、そりが合わないだけなので」
「俺の家族とあんなに仲良くできる希美が、自分の家族と不仲なんて信じられないな」
陽様の言葉にまるで図星と言わんばかりにスマホが鳴った。
着信は兄からで、私は慌てて画面を消すけど、陽様は私のことをしばらく見つめる。
昔、誰かに言われた。
神様っていうのは願いを叶えてくれるわけじゃない。
そこにいると思うことで、心を楽にしてくれるものなんだ、って。
陽様も、私にとってそうであってほしい。
私のために尽くすんじゃなくて、私が彼のために尽くすことで、私が生きていける存在であってほしい。
「出ないの?」
「出ません」
「こういう時にお母さんじゃなくて、お兄さんから連絡来るの珍しいね」
私なんかのために、力を使わなくて良い。
「そうかもしれないです」
「……あのさ。
自分で言うのもなんだけど、俺って結構頼れると思うよ。
希美が何か困ってるなら力になりたい。
希美は俺にとって特別なわけだし」
私、これで充分。
「ありがとうございます。
その言葉だけで胸がいっぱいです」
私が生きる理由も、笑う理由も、前を向く理由も、全部陽様で良い。
私の人生はあなたで、私の道はあなた。
**
この感情に、私は名前をつけたくない
2021.11.21
私の人生がそこにいる 斗花 @touka_lalala
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