私の人生がそこにいる

斗花

神様、仏様、陽様。

大学に行くと、明日香が私の方に寄ってきて

嬉しそうに言ってくる。



「今日この後、義旭くんとデートなの!

3週間ぶりのデート!」



そして左手薬指の指輪を私にここぞとばかりに自慢してきた。



「それ、その指につけててよく怒られないね」


「もう諦めたんじゃない?」



明日香は彼氏を日々ストーキングしている大学の友人だ。


付き合ってる、というよりストーカーなのだ。



希美のぞみは?!

なんか最近、めっちゃ会えてるって言ってたよね!」


「うん。

陽様の気分が私に向いてる気がする。

会ってもらえる内に会わないと」



そして私も明日香を笑えないほど、好きな人を崇めている。



「てゆうか、陽様?て人、希美のこと好きなんじゃない?」


「それはない!

私なんかのこと、陽様が好きになるわけない!」



断固否定する私を見て明日香は腑に落ちない、て顔をする。



「えー?

だって、キスしたり、手繋いだり、デートしたりしてるじゃん。

好きとも言われたって」


「それは!陽様の気まぐれなの!」


「気まぐれでそんなことする人に思えないけどな」



明日香は一度、陽様に会っている。

その時、陽様は私を車で迎えに来てくれる時だった。


こんな変態な明日香にも、陽様は笑顔で優しく接していた。



「むしろ気まぐれでキスとかする人のこと怒りそうじゃない?

しかも告白までされてるのに……」


「明日香も犬見たら、かわいい!って言うでしょ?


陽様にとって私はそれなの。

好きっていうのはマスコット的なノリで言ってるの!」


「いや、希美にマスコット的な要素はゼロだけど」



私たちの隣に座った男が、私たちに話しかけてくる。


明日香は笑顔で自分の待ち受け画面を見せて「彼氏いるから!」と明るく答えた。

明日香の待ち受けは彼氏を盗撮した画像である。



「私も、陽様信仰者だから」



男は苦笑して私たちから離れていく。



私はテキストを取り出して授業を真面目に受ける。

明日香に手を振り別れ学校を出た。


駅に向かうと陽様が立っていて、周りにいる女性たちの視線は陽様に向いている。



「お待たせしてしまって、ごめんなさい!」



私が近づくと、女性たちは残念そうに離れていった。



私の憧れる八代陽やしろよう、通称陽様はこの世が生んだ天才的な完璧青年だ。



容姿はもちろん、声も仕草も何もかもとにかく素晴らしい。


素晴らしい以外の言葉が見つからない。



去年の夏からお友達と会社を立ち上げて、その会社も大成功している。



「俺の家、今日やっとDVDプレイヤー届いたんだよ。

希美、映画みたいって言ってたじゃん。

一緒に選んで好きなもの見よう」



私が頷くと、笑って私の手を握って二人でレンタルDVD屋さんに向かう。


夢みたいだ……。

陽様と手をつなげるなんて……!



「希美って何見るの?」


「なんでも好きですけど、割と家族感動モノが好きです」


「そうなんだ。俺も好きだよ」



私に向けられてる好きはこの好きと同じだ。



コーヒーが好き、ケーキが好き、感動モノが好き。


希美が好き。



好きって言ってもらえるだけで十分すぎるほど嬉しい。



カゴに三本ほどDVDを入れて陽様はレンタルする。

店員の女の人がボーッと陽様を見つめる。



気持ち分かる。



「店員さん、後ろ並んでるよ」


「あっ!ご、ごめんなさい!」



陽様は店員さんに笑顔を向ける。


私に向ける笑顔もこれと同じだ。



陽様は世界を慈しんでいるから、誰に対しても笑顔を向けるのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る