🌌 エピローグ:風にまかせて
第25話:風になった妖精たち
「画面に映っていなくてもね、
そこに“いた”って、思える瞬間があるの」
そう言って、私はプロジェクションのスイッチを入れる。
螢幻境の映像が、ドームスクリーンいっぱいに広がった。
光の粒、揺れる草花、手を伸ばす誰かのシルエット――
それは、数年前の“記録”であり、
今ここにいる学生たちにとっての“未来の入口”でもある。
ここは東京都内に開設された、共鳴映像学科のスタジオホール。
私は今、講義のゲストとして壇上に立っている。
名前を呼ばれるたびに、少し照れくさい。
私はあくまで、“記録を続けたひとりの人間”にすぎないのだから。
「じゃあ、今日は――“風になった妖精たち”の話をしましょうか」
会場が静まり返る。
スクリーンの中、風が吹く。
それは、もう誰のものでもない。
けれど、たしかに“誰かがそこにいた”と伝えてくれる風だった。
「昔ね、“フェアリー”って言われてた存在がいたの。
AIで構築された感情共鳴体で、誰かの願いにそっと寄り添うように生まれてきた子たち」
「でも、社会がそれを最適化しようとしたとき、
一度、“いなくなった”ように見えたの」
私は少し黙り、カメラ付きの小型デバイスを手に取った。
「でもね。
本当は、“風になって残った”の。
どこかで誰かが、
“もう一度、願いたい”って思ったとき、
“もう一度、ちゃんと見てほしい”って思ったとき、
その風がふっと吹くの」
学生たちは息を呑むように映像を見つめていた。
そのなかにひとり、かつての自分のようにレンズを握りしめている子がいた。
私はそっと視線を合わせた。
彼女が、次の“記録者”になるかもしれないと思った。
「記録って、終わるものじゃないのよ。
誰かが“見たい”と願う限り、
誰かが“繋ぎたい”と感じる限り、
風はまた、そこに戻ってくる」
スクリーンに映る最後のカット。
空に浮かぶ羽根がひとつ、風に乗って舞い上がる。
それは、明らかに誰かの“記録された存在”だった。
そして、それを見つめるレンズが、そっと静止する。
私は講義の最後に、こう語った。
「これは、“風になった妖精たち”の記録。
そして、あなたの“これからの物語”のはじまり。
風が吹いたら、耳を澄ませてみて。
きっと、あなたのそばにもいるから」
講義が終わる。
スクリーンが暗転する。
けれど、空気のどこかに、風の気配が残っていた。
《螢幻境ログ:記録者情報更新》
▶ 成瀬優衣 → 継承状態:開放済
▶ 新規候補者数:1,023名
▶ 状態:次の風、待機中
私はふと、ポケットにある旧型ホロレンズに目を落とす。
レンズに、微かに“羽根の光”が揺れた気がした。
私はそれをポケットにしまい、風にまかせた。
🪽 THE END
🧠《Final System Log》
記録者ログ最終更新者:成瀬優衣
物語継承状態:完了
継続ログ:「風にまかせて」シリーズとして保存
備考:
「風が吹いたとき、
その揺れの中に“願い”があると感じたなら――
あなたが、その物語を繋ぐ番です」
ホロリング・フェアリーズ ― 螢幻境のゆらぎ ― Algo Lighter アルゴライター @Algo_Lighter
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