チャプター13:守部(6)

 その刹那、怨霊の体にある一つの顔から不気味な光のかたまりが紫宿に向かって放たれる。

 だが、紫宿はものともせずに飛び込みその手で光をかき消す。

 逆にぼんやりとした光で包まれている自身の右足で怨霊を蹴り上げた。

 怨霊は避けようとしたが、完全には避けきれずその体の一部が吹き飛ぶ。


 ≪がギゃあ”ああっ!≫


 怨霊は苦しそうな叫びをあげるも、すぐに体勢を立て直し再度別の顔から光を紫宿に放ち、さらに腕のようなものを伸ばして襲い掛かる。


「つぁっ!」


 紫宿は光を避けようともせず気合のような掛け声だけでかき消してしまい、続いて向かってきた腕のようなものに自らの拳をぶつけ合わせる。

 すると、怨霊の腕のようなものは砕け散り、またしても怨霊が苦悶の声を上げた。

 ちなみに、先ほどから怨霊の飛び散った欠片がデスクなどに直撃し、それらは壊れたり溶けたりしている。


「すごい……あの、泉さん。それで紫宿って一体何者なんです?」

「あれ、言ってなかったっけ~?」

「何をです?」


 泉は教えたつもりだったのだろう、首をかしげた。

 しかし教えてはいない、確かに“よろずやというのとはちょっと違う職業”と言ってはいたが。


「私たちはね、守部まもりべっていう職業(?)なの~」

「守部……?」

「うん。今回のような霊に関わることや、精霊、はては悪魔といった、まあとにかく世間で言うオカルト部門全部から人々を守る者たちだから守部ね~。自分でオカルトなんて言ってたら世話がないけどね、あはは~」

「人々を守る、守部……」

「特に私たち雲雀一族は最も古くからやってるらしくってね、この業界では有名なのよ~。それで紫宿はその……えっと、確か66代当主、だったかな?」

「ろっ……い、一体、いつから続いている家なんですか!?」


 驚きの連続の藍音がまたも驚くのは当然だろう、それだけ続いているのなら、その初代がいつになるのか見当も付かないからだ。

 しかし、それには泉もしっかり答えることは出来ないようだった。


「さ、さあ? そうそう、確か平安時代の縁戚に安倍晴明とかいう人もいたらしいわよ~」

「……それは陰陽道では?」

「細かいことは気にしない、気にしないぃ~」


 この泉だって一族の人間なのだ、つまりほかにも彼女のような性格の人がいてもおかしくは無い。だから、家系図がしっかり残っているということはまず考えられない。

 場合によっては紫宿でさえ、実はこの性格が隠れているだけで、本当はそうなのかもしれない。

 などと、戦いは紫宿が優勢で余裕にまで思えていたその時だった。


 ≪カアアァァァァッ!≫

「やばいっ!」


 急に怨霊が目標を紫宿から泉と藍音に切り替え、ものすごいスピードで二人に迫る。


「ふぇっ!?」

「えっ!?」

「ま……」


 慌てて追いかけようとした紫宿だが、火傷の痛みに一歩遅れてしまった。だがそれでもなんとか、すがるようにして追いかけるが――


 ≪ぎゅルおおぅっッ!!≫


 ――怨霊が激しい閃光と共に、爆発した。


「んにゃあああっっっ!!!」

「きゃあああっっっ!!!」


 藍音は爆発で吹っ飛ばされ、転がったままデスクへと突っ込んだ。


「あいたたた……い、生きてる……」


 目をパチクリさせているもののすぐに起き上がることが出来たことから、大きな怪我を負ってはいないだろう。

 そして泉はというと、藍音のすぐ後ろで逆さになって浮いていた、のだが。


「ふぃ~、びっくりしたねぇ」

「良かった、泉さんも無事……じゃ無いいいいっっっ!!!」

「ん? あ、ホントだぁ」


 なんと泉はその片足を失っていた。

 当然藍音は真っ青になって叫ぶように言う。


「そんな軽く言っている場合じゃないですよっ! あ、足がっ!」

「あはは、平気平気よぅ~~、はい」


 まるでポンと音がしたかのように、ちょっとした煙と共に足が元通りになった泉。


「私は幽霊だもん、多少霊力が減ったけどこんなのなんともないのよ~」

「そ、そうなんですか……」


 ホッと胸をなでおろした藍音、けれど心配して損したような気もして複雑だった。

 一息つくと、ぐちゃぐちゃになった周囲に驚くも状況を確認する。


「一体、どうなったんですか?」

「ん、アレが自爆したのよ。でもおかしいなぁ~、あの怨霊くらいの強さでも自爆なんてされたら、私の霊力のバリアじゃ破られちゃって、これくらいのダメージじゃすまないはずだけど」

「え、じゃあどうして?」


 二人そろって、怨霊が自爆した先を見る。爆発で巻き起こった煙が落ち着いてきて視界が広がった時、その光景に二人は青ざめた。


「いっててて……大丈夫か、二人とも」


 ポタ、ポタ、と。

 二人をかばうかのように立っていた紫宿。その体の火傷はさらに増えており、そこかしこにある傷からは、血がこぼれ落ちていた。

 それは、軽症とは呼び難く。


「し、紫宿っっ!! 私たちをかばってっ!?」

「だ、大丈夫だ。それより、まだ終わってないっ!」

「えっ!?」

「あいつ、半分だけ自爆しやがった。しかも、俺が二人をかばうことまで計算して、だ」


 彼の言う通り、視線の先にいた怨霊は体の大きさが元の半分以下になっていたが、まだ確かに存在していた。だが紫宿がまだ健在であることに驚き、慌てているようだった。


 ≪ぐフォ、ぶひャああァ……ばあァあっ!!≫


「逃がすかっ!」


 突如、窓を体当たりで破り外に逃げだした怨霊。

 紫宿もまたそれを追って窓の外へ飛び出す。


「ちょっ、ここ13階よっ!?」


 自殺以外の何ものでもない、いくら紫宿といっても人間だ。

 そんな彼がこの階から飛び降りては、それはそのまま死を意味するだろう。

 思わず藍音は顔を覆った。

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