第15話 グループワークの発表と梨菜ちゃんと合唱部の歌

 深優みうは張り切っていた。

 国語のグループワークの発表をするのだ。

 陽向ひなた永和とわ、それからゆらといっしょに、意見をたくさん出し合って、まとめた原稿を何度も読み返した。


「緊張する!」

「大丈夫だよ、深優ちゃん。たくさん練習したもの」

「そうだよ。深優ちゃん、声出るようになったよ!」

「ありがとう、陽向くん」

「でも、おれ分かるなあ。練習しても、やっぱり緊張しちゃうんだよね」

 永和がおっとりと言う。

「そうなの! 緊張しちゃうよね」

 深優は永和と、うんうんと頷きあった。

「でもさ、一生懸命やったんだから、それが一番だいじだよ」

 ゆらはにっこりした。

「だよなー」

 陽向はちょっとだけ偉そうに言う。

「うん、頑張ったよね」


(最初のころは、話すことすら出来なかったけれど、今はちゃんと意見も言えるようになった。よかった!)


「ねえ、ところでさ、深優ちゃん。合唱コンクールがあるの、知っている?」

 ゆらが深優に小声で言った。

「うん、学校のでしょう? クラスみんなでうたうんだよね。クラス対抗なの」

「そうそう。でね、そのとき、合唱部も特別に歌をうたうんだよ」

「そうなの⁉」

「そうなの。楽しみだね!」

「うん、楽しみ。どんな曲にするのかなあ」

「それはこれから決めるみたいだよ。深優ちゃんは、高音がきれいに出るから、ソプラノパート、間違いなしだね」

 ゆらがそう言ったとき、永和が口を挟んだ。

「ねえ、おしゃべりしていないで、発表の練習しようよ。他のグループ、原稿読んで練習しているよ」

「あ、ごめん!」

 そして、四人は発表の練習をした。


 実際の発表はとてもうまく出来た。

 四人全員、声が出ていたし、一人ひとり意見を述べるところも、みんなそろって意見を述べるところも、息ぴったりに出来た。

「内容もよく考えられていましたし、それに発表の練習もしっかりしていることがよく分かります。とてもよかったですよ」

 国語の先生にそう言ってもらえ、みんなでガッツポーズを作った。

「次も頑張ろうね!」

「うん、ゆらちゃん」


(合唱コンクールでの、合唱部の歌も頑張りたい!)



 休み時間にトイレに行ったとき、深優は梨菜りなにばったりと会った。

「あ、梨菜ちゃん」

「深優ちゃん、久しぶりだね」

「うん、久しぶり」

「ねえ、深優ちゃん、合唱部入ったって、本当?」

「本当だよ。楽しいよ」

「……よかった」

「え?」

「深優ちゃん、冷たいこと言ってごめんね。わたしね、中学に入ったら、何か新しいことをしてみたくて。それがテニスだったの。クラスの友だちと話していたら、どうしてもやりたくて」


(心音ちゃんの言った通りだ!)


「うん」

「でもね、深優ちゃんには言いづらくて。だって、深優ちゃん、運動嫌いでしょう?」

「うん、嫌い!」

 そこで二人は顔を見合わせて笑った。


「だよね。だからね、テニスやりたいって深優ちゃんに言えなかったし、それに深優ちゃんには、深優ちゃんがやりたいことをやって欲しかったんだよ。合唱部、似合ってるよ!」

「……ありがとう、梨菜ちゃん」



 深優はその日家に帰ると、久しぶりに『kokoroの音』を開いた。最近、ゆらや他の友だちとのLINEのやりとりが増えていて、『kokoroの音』をなかなか開けずにいたのである。


「深優ちゃん、久しぶり!」

「心音ちゃん。ごめんね、最近なかなか会えなくて」

「いいのよ。きっと、充実していたんでしょう?」

 ホログラムの心音はくるっと回ると、微笑んだ。


「そうなの! あのね、まずね、国語の発表がすごく上手に出来て、先生に褒められたの」

「すごいじゃない」

「でしょう? ゆらちゃんたちと頑張ったんだよ」

「……本当にすごいよ、深優ちゃん。だって、ちゃんと学校で頑張ったんでしょう?」

「うん」

「あたし、嬉しいな。深優ちゃんがどんどん成長して!」


「えへへ。ありがとう。あ、それからね、梨菜ちゃんと久しぶりに話したんだよ。梨菜ちゃんね、心音ちゃんが言った通り、新しいことを始めたくてテニス部に入ったんだって! でね、わたしが合唱部に入ったって言ったら、すごく喜んでくれたの」

「梨菜ちゃん、優しいね」

「うん! ……あっ」

「どうしたの?」

「あのね、もうすぐ合唱部のグループLINEが来ると思うの。先輩がそう言ってたの。少し先なんだけど、クラス対抗の合唱コンクールがあって。そこで合唱部が特別にうたう歌を決めたいから、どの歌がいいか、候補をいくつか挙げなくちゃいけないんだ」

「……深優ちゃんはどの歌がいいの?」

「最初に心音ちゃんにうたった歌がいいなあ」

 それから心音と話しながら、深優はいくつかの歌の候補を決めた。


「どれも素敵な曲ばかりだよ」

「うん、ありがとう、心音ちゃん! じゃあ、LINEするから、またね!」

「またね」

 


 心音が消えたあと、合唱部のLINEグループで、どの歌がいいか、みんなで話し合った。いろいろな候補があって、それぞれ意見を出し合った。

 最終的に三つの歌に絞られ、それを合唱部の顧問の先生に伝えて決めることになった。


(わたしが挙げた曲が候補に残っている! しかも、心音ちゃんにうたった歌!)



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