第28話 近づく真実


 田中からの報告は翌日の朝となった。


「ごめん。時間がかかった。私にも厳重な監視が付いて手間取った」


 どうやら『Luminous』もリスクを取り始めたようだ。

 言い方を変えれば真実に近づいているのだろう。


「大丈夫なの?」


 電話の相手は淡々とした声で答える。


「大丈夫。今は家だから」


「なら俺と同じだね」


 通勤前の着替えを済ませながら身なりを整えていく。

 揚羽先生は形がなっていません。いつもいつもだらしない格好がそもそもダメなんです。まずは出来る人の真似から初めてくださいなどと昨日散々に言われた男はカジュアルスーツなら文句ないだろうとせめてもの反抗の意志を見せていた。

 今回の一件と一切関係ない所ではあるが……ムカついたら仕方ない。


「昨日の件だけど、そもそも仮定が間違っていた」


「……仮定?」


「まぁいいや。その話は後で。それよりアンタの学園って全校集会とかある?」


「あるよ? どうして?」


「例えば沢山の特異体質者を拉致する場合一か所かつ狭い空間とかの方が効率が良いとは思わない?」


「……たしかに」


「それでいつあるの?」


「明後日」


 その言葉にスピーカー越しにため息が聞こえる。

 田中が頭を悩ませているのが手に取るようにわかる。


「軍を派遣したいけど不自然すぎる。相手にバレたら意味がない。てか全校生徒ってたしか余裕で三千人超えてたわよね?」


「た、たぶん……」


「さては教員のくせして知らないの?」


「は、はい……すみません」


「はぁ~」


 今度はもっと大きなため息が聞こえてきた。


「もう察しは付いてる?」


「うん」


「なら一応聞いてあげる。どうするつもり?」


「狭い空間程守りやすいけど今の俺じゃ……」


「無理でしょうね」


 グサッ!!

 容赦ない言葉が胸の奥深い所に突き刺さる。

 言葉に棘しかない。

 だけどそのおかげで淡い期待は持たなくて済む。


「昨日考えたんだけど特異体質って遺伝するよね?」


「えぇ」


「その特性を利用してなんらかの方法で相手の特異体質者をコピーしたり奪ったり、移植って可能だと思う?」


「…………」


 スピーカーの声が聞こえなくなった。

 次に声が聞こえたのは二分ほどしてからだった。


「無理ね。少なくとも一般論では」


「だよね。でも『Luminous』なら?」


「五割」


 相手が未知の力を持っていると考えればその線もやはりあるかと敵を自分たちの常識に当て嵌めて過小評価を避ける方針でいく。


 既に国家は二度『Luminous』に敗北したと言っても過言ではない。


 三度目は必ず阻止しなければならない。

 既に国力は年々低下しており今阻止できなければ二度と阻止出来ないだろう。


「もし美紀が『Luminous』の小田信奈ならどんな能力があれば軍を相手にして勝てると確信する?」


「……守護者を超える力か無力化」


「ですよね~。後任の補充すら間に合ってない守護者。その守護者にも裏切り者がいるって超やばいよね?」


「ね。先日の男もアンタに対してよく対抗策組んでいたし」


「痛い所つくね……あはは」


「相手のことを知り尽くしているから色々と対抗策があるんでしょ?」


「どういう意味?」


「アンタ交渉された時、違和感なかった?」


「なかったけど?」


「なんで敵は私とアンタが手を組んでいることに驚いていなかったの? まるでそれが当然のように。そしてなぜ私がアンタを学園に送り込んだと誤認したのか」


 その後ボソッとなにかを言っていたが聞き取れなかった。


(まぁ送り込んだのは事実だけどね)


「俺と美紀が仲良しだから?」


「な、仲良し!? 勘違いも甚だしいと言いたけどまぁ仲良しでもいい」


 どうやら仲良しと思っていたのは揚羽だけらしく、女心は難しいと実感する。

 一方通行の勘違い。

 まぁ今に始まったことではないかと、そこはあまり気にしない方向で行く。


「つまりこうなることも予想していた? ってこと」


「その線が妥当なんじゃないかしら」


「ってことは『Luminous』の手の平で今も踊らされている可能性があるわけか」


「そう。まぁ守護者が落ちれば軍は指揮系統を失い麻痺する。そうなればオルメスは奴らの手にすぐに落ちるでしょうね。ただ一つアンタと言う異分子が邪魔だったのかもしれない」


 田中は悔しさどころか冷静に落ち着いた口調で告げる。

 まるでこうなることも計画内だったかのように。


「まぁ国家権力に縛られずに動けるって気が楽ではあるよね」


「そう。私が民間の警備騎士団や魔法師団を頼らない理由は彼らを雇うよりたった一人でいいから信頼できる者に動いてもらった方が都合が良いと考えたから」


「なるほど」


「そこでどう?」


「なにが?」


「正式に手を組まない? バックがないと動きにくいでしょ?」


「それだけ?」


「事件捜査の協力者がピンチの時に動いて何が悪い?」


「そういうことか……」


「それで答えは?」


「わかった」


 揚羽は頷いた。

 国家の後ろ盾。たしかに頼もしい限りだ。


「なら調査結果を今から全部送る。後は頼んだ」


 最後に。仮定の話だけど私たちは勘違いしていた。

 先日戦ったあの男が魔法師名と仮定したら色々としっくりきた。

 と、付け加えられて電話が切られた。

 

 なにはともあれ全校集会。

 その日を『Luminous』が狙っているならば――もう残された時間は僅かしかない。

 そして向こうも残りの時間、ありとあらゆる手を使い邪魔してくるだろう。











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