第4話 女王陛下の変わらない想い


 守護者の一人。美紀は女王陛下に呼ばれていた。


 表向きは定期連絡。本当の用事はコードネーム影についての報告。

 影と言う名は女王陛下と守護者しか知らない超極秘の名前である。


「――と、言う結果になりました」


「わかりました」


 オルメス国最高権力者の峰岸遥は膝を着き背筋を伸ばして報告を終えた美紀にそう言った。

 椅子に座った峰岸は頬杖をついてなにかを考え始める。


「影が社会に復帰したことは大いに素晴らしいわ。でも心が不安定な者が魔法を使えば暴走暴発してしまうリスクが伴う。やはりこちらで一度回収できないかしら?」


 真剣な表情で問う峰岸は静かなる怒りを心の中で燃やしており、それは意識しなければ気づかない程ではあるが無意識に声にも反映されてしまう。


「恐れながら申しあげます。それは不可能かと」


「どうしてそう思うのかしら?」


「影の心が閉じたのは軍にあります。その原因となった場所に戻してはせっかく開き始めた心が再び閉じてしまうかと」


 その言葉にやりきれない怒りをぐっと堪える。

 峰岸遥は女王陛下としてはまだ若く美紀や影と年齢も殆ど変わらない。

 前国王・女王陛下が毒殺され王位継承者が遥だけだったから今の座にすんなりと着いたに限らない。

 そして峰岸は影のことを信用し信頼していた。

 影の危険に対する嗅覚は凄く、影が側にいるだけで遠出の外交時は安心できた。

 そして影は嘘を付かない。

 いつも素直で真実を話してくれる。

 自分の保身などは二の次。いつも仲間のことを考え第一に考え、守護者としてなにより王国兵の鏡としてあるべき姿を見せてくれていた。

 だからこそ峰岸は影が再びどのような形でもまずは戻ってきてくれることを未だに望んでいる。欠けた守護者の枠がいつまでも空席の理由でもある。

 峰岸にとっての影は命の恩人であり、将来を考えるに値する素晴らしい倫理観の持ち主でもある。

 だからこその葛藤でもあった。

 復帰した場所が近そうで近くない絶妙な距離であったからこそ余計に。


「ちなみに影に対する学園長からの評価はどうなの?」


「先ほど届いた報告によれば、冷静に影を見ており、全体的に高めの評価です。また初任務は非合法な商売で有名な組織『Luminous』が最近雇ったとされる下部組織『Shine』でしたが一分足らずで無力化したらしく魔法師としての腕は大きく訛っている様子はないかと思います」


「他には」


「部下ではなく生徒のカウンセリングも今から行うみたいです。そこでしっかりと生徒のカウンセリングもできるようであれば昔のようにあるいは良い上官として復帰も考えられるようになるかもしれません。ただ……」


「ただ? なに? 言ってみなさい」


 峰岸の言葉に、美紀は少し間を空けて口を動かす。


「心を閉じた影にそれができるのでしょうか?」


「どういう意味?」


「今は薬を服用しているみたいですが、療養中の者が正しく相手のカウンセリングができるのでしょうか? 影には多数の経験があります。経験に基づくアドバイスやケアはできてもそれは本当のカウンセリングと言えない気がします。よって学園長も影の正しい評価はまだできておらず手探りな様子でした」


 その報告に峰岸は小さなため息を見せた。

 対して一通りの報告が終わり心の奥底で安堵する美紀に峰岸が問う。


「現状影復帰を邪魔する者は近くにいないわね?」


「いません。軍内部でも影に対して陰湿な態度を取ったものの多くは退団しております。実際に影の後任に自分がと考えていた者も出世が止まり今は頭打ち状態で動いておりません」


「ならいいわ。一応聞いておくけど退団した者の中に影を追いかけていった者はいないのよね?」


「いません。最近就職したばかりの所に今から追いかけようとする者は流石にいないと思いま、す」


 美紀は最後の方で言葉を詰まらせた。

 そう言えば一人だけ「なにがあっても影の側にいるから!」と豪語していた女が昔居たなと思い出したのだ。


「……なに? 今の間は?」


「いえ、なんでもありません」


「まさか……あの子のこと考えた?」


「はい。たしか軍を抜け偶然か必然か……今は胡蝶学園の保険医として七年前から勤務していたはずです」


「念のため今は味方か敵か調べてくれる?」


「かしこまりました」


 命令を出した峰岸や命令を受けた美紀としても田村理紗のことは個人的に気になる相手でもあった。




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