第3話 暖かくどこか懐かしい視線


 なんとなく帰り道の途中。

 仕事頑張ったしアイスでも買って帰るか、と思いクーリッシュ(バニラ味)を買い、食べながら学園に帰宅した揚羽は学園長室に行き、任務が無事に終わったことの報告を直接する。


「先ほどご連絡したとおり問題なく終わりました」


「わかった」


「ここに一人居たはずですが、彼女は何処に?」


「へそ曲げて帰ったよ。アンタと違って素直じゃないからね」


 名前を言わなくても成り立ってしまう会話。


「久しぶりに会いたかったかい?」


「いえ」


「昔の仲間とはもう会いたいとかないのかい?」


「……殆どの者には会いたくないです」


「わかった。可能な限り配慮しよう」


 意味深な言葉に揚羽の口がぽかーんと空いたまま動かなくなった。


「その顔私の言葉が理解出来ていないようだね。私が軍や警察にコネがないと思わないことだね。その気になれば……いや止めておこう」


 不敵な笑みでどこか楽しそうな、いや嬉しそうな態度を見せる学園長に揚羽は「は、はぁ」と困惑の顔見せる。

 だけど揚羽でもこれだけはわかった。

 今のは嘘でも自分を大きく見せるための演技でもなく、確証はないがおそらく本気の言葉なんだろうと。

 そう思わせるだけの言葉に力があった。

 そして悪い人ではないのだろうと揚羽の中での学園長の株が上がった。

 人を見下さない態度やどこか敬意を感じる態度に学園長の人柄を見た揚羽はこの人となら仕事をしていくのもありかな、と前向きに心が動き始める。


「それにしても迅速な仕事ぶり見事だった」


「いえ、たまたまです」


「魔法使いとしての腕は鈍ってなさそうだね」


 言葉の含みが気になる揚羽に対して学園長が続ける。


「今度は人に寄り添う優しさという名の強さを見せておくれ」


「なにが言いたいのですか?」


「牧 響子(まき きょうこ)については資料で渡したね?」


「はい」


「その子のカウンセリングもお前さんの仕事って書いてあっただろ?」


「あー、なるほど。では行ってきます」


 少し気が抜けた返事ではあったが、クスッと学園長は笑って


「カウンセリング室にもう居るから後は頼んだよ」


 と、部屋を出ていく揚羽の背中を見送る女。

 暖かくどこか懐かしい視線に揚羽が一度振り向くも過去の記憶があやふやで思い出せない。

 ただ初めて向けられた声と視線ではない気がしてならない揚羽は部屋の扉を閉める際もう一度学園長を見てみるがやっぱり思い出せなかった。


 まぁ忘れてるってことは忘れても問題がない記憶なのだろうと自分に言い聞かせて、朝貰った指示書に書かれていた牧響子が待つカウンセリング室へと足を向けた。

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