第2話 母娘の会話は学園長室
時は遡り――学園長室。
揚羽が学園長室を出て行った直後。
「退役して尚、現役のアンタを見抜く勘の鋭さやっぱりアイツは格が違うね」
学園長は魔法で姿と気配を消した美紀に言葉を投げかける。
「そう? むしろこの程度の魔法を見抜けないようなら私が推薦しないわよ」
「そうかい。ならなんで見抜かれる魔法をわざわざ使ったんだい?」
「これはテスト。これから紅は私(軍)とお母さん(学園長)のパイプ役になってもらう。そんな重要な人間がへっぽこじゃ困るでしょ?」
鼻で笑い椅子に腰を下ろした学園長が遠い目をして言う。
「昔は明るかった。でも今は暗い。いや大人しい。随分と雰囲気は変わっていたね」
「そうね。向こうは小さい頃に一度しかお母さんと会ったことないし忘れてそうだったけどね。でも本質はとても優しくて真面目で素直。そこは変わってない。人間そう簡単に変わらない」
「人をあまり褒めないアンタにしては随分と褒めるね」
「そりゃー、私の初恋相手だし。なにより優しいってのが私が魅かれた理由だからね」
根が真面目だからこそ信用ができる。実力もあるから頼りになる。困っている人がいたらなんだかんだで助けてくれる。そんな人物だから信頼し信用できる、それが母娘の評価であり、揚羽紅をよく知り彼の味方でい続ける者たちの評価でもだった。
過去に起きた悪口や虐めはそれが原因でもあった。
優しすぎるから虐めても仕返しがこない。
そう思った人間がストレス解消や出世に対する不満の捌け口として彼を対象にした。
が、美紀のように女王陛下直属の守護者(別命:親衛隊)に所属する者たちとも仲が良いことから、虐めは彼が一人の時に行われており中々早期解決が難しかった。
それが集団だったこともあり中々皆が口裏を合わせ証拠も掴みにくく、当時事態は悪化してしまった。
また揚羽自身もそれを誰かに言うことはしなかった。
「逆に聞くけどお母さんとしてはどうなの? 私の推薦ってだけじゃないんでしょ?」
「それは秘密」
腹を割っての仲の良い親子の会話に割って入るように、コンコンと扉がノックされた音が部屋に響き渡った。
「失礼致します」
学園長室に若い女子生徒の声が聞こえてくる。
学園長室と美紀の視線の先には少し背丈が小さい女子生徒が立っている。
茶色いセミロングヘアーに丸い瞳。
「どうしたの?」
美紀が声をかけると。
「あっ! 貴女様は! せ、先日は助けて頂きありがとうございました」
女子生徒は深々と頭を下げてお礼を告げた。
「いいのよ、気にしないで。それより頭を上げて」
「は、はい」
「それでどうしてここに来たの?」
美紀の言葉に一度学園長室を見渡してから女子生徒はゆっくりと口を開く。
「あの……今日からカウンセリングの先生が来てくれるって聞いて私ちょっと先日のことが恐くて早くお話を聞いて欲しくて……その担任の先生に相談したら……ここに行くように言われて……」
申し訳なさそうに、顔色を伺うように答える女子生徒に学園長は優しい微笑みを向けて言う。
「カウンセリングとは話を通して心を繋げ療養するだけじゃないんだよ。時に当事者の問題に親身に寄り添い相手の心の不安を失くす、これも一種のカウンセリングさ。だからもうカウンセリングは始まっている。後一時間もしたら先生が戻ってくると思うから一限までは授業を受けておいで。二限はカウンセリングに集中できるように私が取り計らうと約束しよう」
ん???
と頭の中いっぱいに???を浮かべる女子生徒ではあったが、とにかく授業を受けてまた戻ってくればいい? と言うことだけは理解できたらしく、
「わ、わかりました」
と言葉を残し一礼をして学園長室を後にした。
扉が閉まり二人だけの空間となった学園長室では。
「お母さん今の言葉私にも言った?」
「さぁーね。なんだい心当たりでもあるのかい?」
「べ、べつに!」
と、親子の会話が再開される。
も、急に真面目な顔に戻り。
「彼女特異体質でしょ?」
「…………」
「助けた日。妙な魔力反応だった。なんの特異体質者?」
「……炎熱」
「なるほど。どうりで彼女夜でも運動した後かってぐらいに体温が異常に高かったわけか」
稀に存在する特異体質者。
彼ら彼女らはある意味希少種のような類で一部の闇コレクターの中では扱われ観られているため商品価値が高く高値で売買されることが多い。
また足切り要因を補充して確保に挑むなど中々尻尾を掴ませてくれない。
そして王都直営の胡蝶高等学園では特異体質者の生徒が例年以上に今年は多くなっている。
今までは表向きの生徒指導の教員だけでも対応が出来ていたが、今年は守る生徒数が増え守る頻度も増えるかもしれない。
そこで学園長は学園設立当初から一度もまともに機能していなかった部署を本格的に動かすことを数ヶ月前に決め人選選びに尽力を注いだ。
そして娘経由で見つけた彼は今も軍が密かに目を付けている。裏では天災魔法使いと呼ばれた隻眼の悪魔。裏と表の二つの異名で活躍した彼を偽の教員資格証などを発行することで正式に雇うことに成功した。
理由は他にもあるが主な理由はこれだ。
壁時計をチラッと見て。
「そろそろアイツが動く頃だね」
そう言って学園長はスマートフォンをポケットから取り出して机の上に置く。
「そう。なら私帰るわ」
「そうそう。この学園の九割は女子生徒だしもしかしたらアイツにも素敵な恋の一つや二つあるかもだね~」
その言葉に美紀の眉がピクッと動く。
「生徒と教師の禁断の恋。私はマスコミ沙汰にならないなら基本黙認派だよ。恋の規定なんてもの作ったて所詮はまやかし。恋にルールがあってそれを守りましょうってならロミオとジュリエットのような悲劇もなければ御家戦争なんて過去になかったはずだ。つまり歴史が証明している。恋は盲目であるとね」
そんな言葉を聞いて美紀の機嫌が悪くなったのか最後は挨拶なしに姿を消した。
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