第5話 二人を繋ぐクーリッシュッッッッ!!



 業務命令を遂行するためカウンセリング室へと向かう。

 自分なんかにできるかな? という不安はあるが、昔はよく美紀と一緒に色々と部下のメンタルケアをしていたと懐かしい気持ちになってきた。

 容姿は美人。常に誰かから狙われる高値の花美紀。対して容姿普通の男。どちらが人気があったかは……忘れたままにしておこう。

 いや学園の廊下を歩きながら一つだけ思い出してしまった。世の中男女平等容姿より内面!など世間体を気にして皆いいように言うがモテない自覚がある揚羽からすれば『なんだかんだ最後は男女共に容姿じゃねぇかあああああああ!!!!』と当時夜の王城屋上から発狂したことを。。。

 まぁ若気の至りは誰にでもあるよね!笑


 というわけで、社会人として! 人生の先輩として! 気合いを入れていざ出陣。


 ガラッ!


「初めまして。今日から牧さんのカウンセリング担当の揚羽紅です」


 最初が肝心と考えた揚羽精一杯の作り笑顔と明るい声で扉を開け、すぐに自分から心を開き自己紹介と挨拶をするが。


「揚羽先生?」


 あれ……?


「はい?」


「ここ保健室ですよ? カウンセリング室は隣です」


 何処かで見たような面影だが……今は。


「そうですか。失礼いたしました」


 ガンッ!


 さぁ気合いを入れなおして。


 ガラッ!


「初めまして。今日から牧さんのカウンセリング担当の揚羽紅です」


 正しい場所で正しい自己紹介と挨拶をする。


「あなたが揚羽先生ですか。初めまして、私は牧響子と言います。こ、これからよろしくお願いします」


 真っ直ぐな視線でありながら丸い瞳の奥に不安を抱えた眼差し。

 それと微かに震える声。

 揚羽はこの眼差しと声をよく知っている。

 知っているからこそ、力になれると脳が判断し無意識に緊張していた肩の力が抜け、暖かな瞳と自然体の微笑みで牧が座る椅子の前に行き、膝を折り座る彼女と同じ目線の高さになる揚羽。


「初めまして。時間は沢山あるから安心して。それと牧さんを誘拐しようとした犯人は全員もう捕まったよ」


 頭を優しく撫でて、一旦離れ牧の正面に座る揚羽。


「あ、あのー、私なにから話したらいいですか?」


「初めてだね、こうして顔を合わせるのは」


「は、はい。そうですね」


「なら聞きたいことはある?」


「えっ……えっと、ならさっき私を誘拐しようとした犯人が捕まったって言いましたよね? なんでそんなことわかるんですか?」


 自分が聞きたいことを聞く。

 それから不安をなくしていく。

 自ら心を開くっていうことはなにも自己紹介だけではない。

 信頼関係の構築は相手が知りたいと思うことを開示することでも可能であると揚羽は過去の経験から考えている。


「ちょっと牧さんに恐い思いをさせた人たちと会う機会があってね。そのまま警察の人に身柄を引き渡したからだよ。まぁ簡単には信じてはもらえないだろうけど」


 その言葉に牧は視線を下に向け、真剣な表情でなにかを考え始めた。

 なので、揚羽は彼女の思考がまとまるのを静かに待つことにする。


「揚羽先生はここに来る前どこに居ましたか?」


「あっ、ごめんね。待たせたちゃったことに怒ってるよね? それは本当にごめんね。実は……」


「実は?」


「オルメス国王都一番七丁目九番区にある住宅街に行ってたんだよ。そこに恐い人たちの拠点があってね。でももう形だけで中には恐い人たちは誰一人いないから安心して」


「先生が倒したんですか?」


「うん」


 すると、牧は再びなにかを考え始める。


「先生ってもしかして物凄く強い人? だったりしますか?」


「……強くはないよ。弱いから逃げたことだって何度もある。結果今こうしてここにいるってのが答えかな」


 揚羽は少し過去のことを思い返しながら、遠くを見ながらそう答えた。


「でも牧さんが望むなら牧さんの前では強い先生でいられるように努力することはできるよ」


 ん? とその言葉になにか反応したように牧は制服に手を入れてもぞもぞと探し始める。

 手でなにかを探す旅に発育の良い大きな胸が上下左右に揺れ動き、それに合わせて無意識に揚羽の黒い瞳も僅かに動く。

 だって年はとっても男の子ですから!


「あ、あった。こ、これ見覚えありませんか?」


 そう言って大きな胸を遮るように目の前にドンッと突き付けられるペンダント。

 それは王国軍の兵が緊急時に平民に渡すペンダントだった。

 つまり緊張保護対処と言う意味である。


「ペンダント? あるよ」


 だけどこれが渡されるのは緊急時。

 つまり一般人が持っていること自体珍しい。

 ただし緊急時に渡して事が解決したら基本回収するのだが、たまに回収を忘れたり本人が御守りとして欲しいと懇願した場合はそのままになるケースもチラホラある。

 数にして数千個常に出回っていると考えれば軍関係者にしてみれば別に珍しくはない。


「私よく色々な人に迷惑をかけちゃうんです。そういう体質みたいで」


「それはたまたま運が悪いだけで牧さんが悪いわけじゃないと思うよ」


「違うんです! 私が悪いんです! 全部……。先生だって気付いているんじゃないんですか?」


 揚羽は牧がなにを言いたいのか察した。


「もしかして特異体質者だからってこと?」


「はい……。私の身体マニアの中では研究対象や作品としての価値が結構高いみたいです」


「そうだね」


 揚羽は頷く。

 ここは牧の言葉を肯定し、牧の味方であることを示す。


「だからもし……これから先生に私が色々相談しちゃうと……その……なんていうか……巻き込まれちゃうかもしれません……それでも私のカウンセリングの先生として担当してくれますか?」


 途中から声が震えていた。

 きっと断られるのが恐いのだろう。

 口では味方と言っても、実際協力者自身が危険な身に晒されるとなると、やっぱりどこか躊躇してしまうのが人間。でもそれは仕方がないこと。だってそれは生存本能の一種でごく当たり前の反応でありそれが普通。


「うん」


 だけど普通じゃない人間は考えることなく即答した。

 まるでそれ意外答えがないかのように。違う。牧からしたら最初から答えが決まっていたかのような早さでの返しでもあった。

 そんなはずはない。

 と、聞き返そうとする牧より早く揚羽が口を動かす。


「嘘かもしれない。言葉だけかもしれない。そう思ってくれていいよ。少なくとも今は。あとは俺のことを牧さん自身の目で見て信用に値するか見極めてくれたらいいよ。俺はそれで大丈夫な人間だから」


 揚羽は牧の言いたいを先回りして、目の前の少女が求めていて且つ心に不安が少ないであろう言葉をプレゼントした。


「…………」


 とりあえず喉が渇いた。

 こういった時だからこそ重苦しい雰囲気は鎮まった心をさらに鎮めてしまうことを身を持って現在進行形で知っている揚羽はポケットからクーリッシュ(ストロベリー味)を取り出して飲み始める。


「う~ん、美味しい。牧さんも飲む? ちょっと溶け始めたけどもう一個あるからあげる。皆には内緒でね」


「えっ……はい。ありがとうございます」


 そうしてカウンセリング室はクーリッシュを飲む男女二人だけの空間として静かながらどこか平和で落ち着いた空気に包まれ始めた。


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 後書き

 まもなく次話更新いたします。

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