幕間 教室で睡眠中の恋人にちょっかいを出したい
恋人が寝ている。なんとも聞き心地のいい単語、なんとも想像しがいのあるシチュエーションだろうか。誰だって恋人の寝顔は見たいだろうが、この男の寝顔となると価値が変わる。
「……すぅ……ん……」
(ぐおおおおお……! 悠真が寝てるめっずらしいいい!)
悠真は基本的に学校で寝ない。眠りが深く疲れが一度の睡眠で取れやすい体質なお陰で、昼寝もほとんどしないのだ。学校での居眠りもほとんど無いし、授業で暇と思えば隣の蓮とバレない程度に話したりしているくらいだ。
そんな悠真が寝ている。おそらくこの前の時間の体育がサッカーか何かだったのか、気合を入れて走り過ぎたのだろう。エネルギーを使い果たしたのか、昼休みに入ってすぐに充電のように心地良さそうな眠り始めた。
「は? 悠真可愛い……バカなの?」
今昼休み中に奇跡が起こっているのか、はたまた六組に黒田結衣がいるからかは分からないが二組に誰一人として人がいない。つまり華奈はこの愛する恋人の愛おしすぎる寝顔を独り占めできる権利を得たのだ。しかし警戒は怠ってはならない。まだ恋人関係は秘密にしているから、バレたらとんでも無い事になる。最悪悠真が吊るされて見せ物にされる。
「……まぁそれはそれとして取り敢えずほっぺを頂きます……」
恐る恐るほっぺに人差し指を沈める。その後軽くツンツンと触ってみると、悠真から聞いたことのない声色で聞いたことのない擬音が口から出てきた。
「ふにゅ……」
「ブッ……!? ゲホッゴホッ……! しぬ……!!」
普段割とクール系で、かっこいい恋人の「ふにゅ」は華奈を卒倒させるのに充分な要素である。限界化してから咽せつつさらに限界化という高等テクニックを披露しつつ、さらに華奈は悠真で遊ぶ。
「……つんつん」
「むっ……ぁ……くすぐった……」
「……死ぬが?」
自分でやっておきながら自分で寿命を縮めている滑稽な華奈の姿がそこにはあった。ここまでやっても起きないのであればと、華奈は周りを少し確認してから悠真に覆い被さるようにハグをした。
「……はぁぁ……っ……! やばいいぃ……」
机に顔を伏せながら寝ている悠真の背中にオンブバッタのように上からぎゅっと抱きしめる華奈。普段からデートといったデートはしない、学校でもほとんど恋人のような行為はしない。家では散々悠真という設定の抱き枕とハグをしているが、やはり実物は違いすぎる。シャツ越しに伝わる体温と、落ち着く悠真の匂いで既に華奈の脳みそは幸せホルモンが分泌され尽くしているのに、このままでは身体ごと溺れて死んでしまう。
「……ふぁぁぁ……」
「やばっ……!」
「……なんかのってる……? 誰だ……」
「……ノッテナイヨ」
咄嗟に片言で乗っていないと抱きつきながら発したが、寝起きでボケっとしている悠真はそこまで気にせずにまた眠りについた。華奈はほっと胸を撫で下ろしつつ、名残惜しそうに離れてからまた悠真の顔を覗き込みながら卒倒する。そんな昼下がりのバカップルな二人であった。
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