第54話 修学旅行が来る
11月初旬、ついに二週間後に迫っているものがある。全ての学生が最も楽しみにしていると言っても過言では無い行事、修学旅行。
行き先はなんと横浜・東京ということで首都圏に縁が無い生徒たちは狂喜乱舞である。クラスでは一日目横浜、三日目東京での自由行動時の班決めが行われている。なるだけ男子女子混ざって五人の班になるようにという指令があったので、当然男子たちの目標は華奈へ、女子たちの目標は蓮へ向かう。
「白石さん! 班一緒に……」
「白石! 班……」
「成宮くん班一緒になろ!」
「成宮くん私もなりたい!」
まさに阿鼻叫喚。学年のマドンナとプリンスを同時に有するクラスでは当然のことなのかもしれないが、流石に見かねた先生がくじ引きに切り替えた。
俺は華奈と当然同じ班になりたいし、華奈は多分俺と一緒がいいっぽいし、蓮は俺らを面白がりたいから同じ班になりたい。その他はどうだっていい感すらある。
「じゃあお前ら順番に引いていけ」
おそらく早乙女と葛葉を除く全員が白石華奈と成宮蓮との班を目指し、鬼の形相でくじを引く。神に委ね、神が微笑んだのは……
「やったー! 悠真と蓮だー!」
「やったね」
「ふぃ〜……助かった」
俺たちにだ。そしてこの三人に付随する残りの二枠はもちろん……
「なんかお邪魔しちゃう感じになりそうで怖い」
「いぇーい! 華奈に天っちに蓮っちに葛葉ー! 神パーティだ!」
早乙女と葛葉である。クラスの最上位四人と俺という、いつものメンバーが班になって何も面白みがないというのはほぼ全員が心の中で思ったことだろうな。
「いやぁ……華奈と天崎くんの二人を修学旅行という日に近くで見れるのごちそーさまだわ」
「ほんっと二人とも全然気にせずイチャイチャしてね!」
「僕たちの事は道端の草と思ってね」
「配慮の仕方と建前がキモい」
「イチャイチャは……しない……いやする……?」
再三言うが俺らが付き合っていることを知っているのは学校内ではこの葛葉早乙女、そして蓮のみ。全員が後方腕組みおじさんのような、俺からすればとてもめんどくさい存在となっている。
しかしこの三人が背中を蹴り上げたお陰で今恋人に戻っているというのもあるので、中々強くも出れない。ただし蓮は例外だ。親友だから。
「まぁ自由行動の時に行く場所は星來と私でピックしとくわ」
「まかせてよ! バッチグーなとこ厳選しとくから!」
「「「ありがたや〜」」」
二人が胸を張り、俺たちが崇めるようなポーズを取る。クラス内でトップカーストである四人に俺がなぜここまで浸透しているかは全くわからん。
班決めと軽めの自由行動時行く場所をピックアップし終え、次は部屋割りを決めるターンに入る。しかしここは仲のいい人で固まるだけで成立するので、先ほどのように荒れはしなかった。
「まぁ蓮は俺と二人でいいだろ」
「だね。そもそも僕が部屋にいるかどうかと分かんないし」
「だな。対処できるの俺くらいだし」
基本四人部屋なのだが二人部屋がなぜか成立してしまい、先生も軽めに容認した。自由度が高過ぎるが、そこも含めて蓮と俺だ。しかも前までなら蓮が提案して無理やり決定づけていただろうに、俺から二人でいいと言ったから蓮は少し驚いてた。失礼な。
そして休み時間、蓮が悠真についてきて欲しいと言って二人でとある教室へ。それは二年六組の教室。お目当てはもちろん六組に佇む黒い一輪の高嶺の花。
「やっほ〜結衣」
「蓮……と天崎くん、久しぶりだね……」
「覚えてたのか」
「蓮がたくさん話してくれるし、ちゃんと覚えてるよ」
黒田結衣。モデルをやっている二年のもう一人のマドンナ。あまりにも存在が向こう側すぎて高嶺の花という言葉が似合い過ぎると、男子たちは全員崇め奉っている。
そんな結衣に唯一近めの距離感で話せるのが蓮。夏にプールへ一人で案内し、夏祭りで花火を共に見たという全ての結衣を好きな男が失神するようなデートと言って差し支えない行為を既に行なっている。
「それでどうしたの?」
「いや結衣って班決めどうなった?」
「あ〜……お仕事入るか微妙で今保留かな」
「良かった良かった」
「おいお前まさか……」
「……にひっ」
そのいつもの何かを企んでいる時の蓮の顔で、そしてその顔で誤魔化しきれないほど耳が赤くなっていることにも気づいてその好意をすぐに察した。
今度は自分が蓮の背中を蹴り上げてやる番かと、ため息混じりにそう思った。
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