元カノと『友達』に戻ったらあの頃よりもずっと心臓に悪い件

第52話 天崎悠真の変わり様に全員口が空いたまま

　二人で並んで教室に向かう。いつも通りだが、前までと違うのは俺が少し後ろで歩かずに真隣で歩いてることと、ちゃんと話す時に目を見ていること。それすらしてなかった前の俺は普通ならば華奈に嫌われてもおかしくなかった。

　そんなことを考えてたら、いきなり華奈がまだ若干興奮気味に話し始めた。

「悠真が前髪切ったらもう一気に人気になるだろうなって再三思ってたけどさ？　こんな破壊力抜群なお顔が出されると思わないじゃんか」

「知らん」

「いやぁ……えぇ……？　また私の知らない悠真出てきたよ……」

「知れてよかったな」

　ニッと笑うと華奈が聞いたことのない搾りカスのような声を漏らして、胸辺りを手で押さえる仕草を見せた。

「何今の」

「ぐぎゅぅ……イ"ケ"メ"ン"……！」

「声がブスだぞ」

「ぶっ！？　はぁ！？　ちょっ悠真まてえ！」

「はっはっは」

　華奈が顔を真っ赤にして追いかけてくるのを、華麗に交わす。廊下のど真ん中でなにやってんだ俺。浮かれすぎてるだろ。そしてそんなことをしていたら当然視線が集まるわけで……。

「……なんか見られてる気がする……いつものことだけど……」

「だってさぁ！　みんな悠真の顔はほぼ知らないじゃん！？　しかもなんか生気も戻ってるし！　そりゃ見るでしょ見なきゃ損だよ！」

「見られて良いのかお前は」

「やだ！」

「嫌なんじゃねえか」

　普段は学年の高嶺の花でありもはや学校内でもその地位を確率している華奈に視線が集まりつつ、その華奈と喋りながら一歩後ろを歩いている俺にその視線が貫通していた。でも今日は俺にも好奇の視線が向けられている。

「白石さんの隣……だれ？」

「イケメンだ〜……彼氏さんかな？」

「いやでも白石さんって彼氏作らないで有名だぞ？」

「でもなんか……絵になるなぁ……」

　華奈の方を見るとものすごい顰めっ面をしていた。見るなという感情と、見ないと損をするという感情がごちゃ混ぜになってそうだな。こいつ俺の評価どんだけ高いんだよ。

「教室までこんなに長かったっけ……？」

「どうしたお前？　なんか変だぞ」

「変にもなるよ……隣にこんな……さぁ？」

「なんだよこの野郎」

「いはい！　ほっへたつねらないれ！」

「柔らかいな。83点」

　歩きながら二人してバカップルみたいな絡みをしているが、廊下のど真ん中でこんなことをしているので当然全員見ている。

　視線は気になるが目の前の恋人が愛おしすぎて、ほぼ意識の外だ。

「もぉぉ悠真！」

「悪い悪い。可愛いからつい」

「が……っごぉぉ……！」

「いやそれは可愛くないな」

「悠真ぁ！！」

　ダメージボイスにダメ出しされて頬を赤く染めて俺をポカポカと殴る。痛くないぞと笑っていたが、拳が振り下ろされるごとに力が増していくのでちょっと表情が軋む。

「華奈っ……かっ……いてっ痛い痛い！　お前力強い！」

「バカぁ！　可愛いって言え！　私のこういうところも可愛いと思えぇ！！」

「うるせえよ！　殴るのやめろ！」

　俺らは付き合ってることを隠す予定なはずなのに、華奈はもうそれが頭から抜けてるんだろう。感情のブレーキと思考のアクセルがぶっ壊れて完全に俺に追突しに来ている。はよ教室についてくれ。

◆

　教室にようやく着きドアを開くと、全員の視線が二人に向いた。いや、正確には二人というより華奈に向いた後にすぐさま横の俺に全員「誰？」という視線を向けた。

　そんな中自分の席にいた蓮が真っ先に手を挙げて混乱中のクラスのみんなに俺の正体の答え合わせをした。

「やっほー悠真。イメチェン凄いね」

「前髪切って後ろ括っただけなんだが」

「前までの悠真しか知らない人からすれば恐ろしい変化だよ？　僕も今現に誰ってなっちゃったけど」

「おいふざけんな」

「だよね！？　蓮も思ったよね誰って！」

　3人していつもの感じで喋り合う中、一瞬しーんと静まり返った教室の男子ほぼ全員が驚愕の声を上げた。女子からはほとんど奇声に近い悲鳴のような声が上がった。

「はぁぁぁぁ！？　あまっ……あ……は！？」

「天崎！？　え……天崎悠真！？　いやもうそこまで行くと誰だよ！！」

「そんな変わってるか？」

「「「「「変わっとるわ！」」」」」

　全員から総ツッコミである。

　まぁつい昨日まで……というか文化祭の前の日くらいまでは暗くてどんよりしていて、無愛想でかなりの無口。目より下まである長い前髪も相まって近寄りがたい雰囲気なのに華奈と蓮、早乙女と葛葉というクラスのトップカーストが何故か近寄っていく謎の存在だったもんな。

　でも前髪切って後ろ括っただけだぞ？　何をそんなに喚く必要があるんだ。

「……は？」

「いやは？　って言われても」

「いやお前さ？　成宮蓮とか言うやつのせいでこの学校で青春できないやつが多いのにさ？」

「お前まで頭角表したら本格的に俺ら付き合う人いなくなるんだけど？」

「知るかアホ共が」

　別の意味で苦労しそうだな今度は。あーお腹痛い。