第44話 告白する約束をした
なんとか葛葉と買い出しに出かけることができたが、葛葉は荷物持ちの俺がいるのをいいことにどんどん買い物を増やす増やす。終いにはお菓子やらジュースやら関係無さそうなものまで買い始めた。
しかし肝心のメイド服のコスプレ衣装がありそうなディスカウントストアをスルーして、なんと向かったのは生地屋。
「葛葉」
「んー?」
「まさか一から仕立てるつもりか?」
「そーよ? ペラペラのメイド服着せれんよあんたらに」
まさかとは思ったが、本当に一からメイド服を作るつもりのようだ。とんでもないことをやるなと思ったらが、葛葉はよくよく考えると蓮と同じくらい万能だし割と完璧主義なところもあるので妥当かとも思ってしまった。
真剣に生地を見てどれがいいかを吟味する葛葉を見つつ、俺も適当に周りをウロウロする。生地のことなぞ一つもわからないため、綺麗な色だなとか中身の無いことしか考えられない。こんな棒に巻かれているものが服になるなんて想像もできない。
そんなことを考えていると、生地を選びつつ葛葉が喋りかけてきた。
「ね天崎くん」
「ん?」
「星來のことぶっちゃけどう思っとるん?」
いきなりド直球な質問を投げてきた。質問の意図が分からないが、ここは正直に話すことにした。
「別に、友達」
「恋愛感情とか無い? こう言うところにドキドキするな〜とか」
「無い」
「わーお即答」
本当に無いのだから即答も仕方が無い。早乙女とのウォータースライダーも、デートも俺の心臓を撃ち抜くようなものではなかった。結局早乙女は俺の中で『友人』の枠組みを出ない存在なのだ。
「じゃあ華奈は? どう思ってる?」
「……好きだが」
「友達として?」
そう言われてすぐに異性として好きと口から出なかった。自分が一年前の感情を引きずっているだけで、華奈に対して本当はまだ本気になれていないのではないかという葛藤が俺の中にあるからだろうか。
「はー……そんなに悩むってことはちゃんと好きってことじゃん?」
「そう……か?」
「そらそーよ。だって星來の時と反応まーったく違うもん。さっきはすごい淡々としてたのに、今はぜんっぜん」
「そんなに分かりやすいか?」
そう聞くと葛葉は、何も言わずに大きく首を縦にブンブンと振って全力で肯定の意を示した。そこまで露骨では、まさか華奈にバレているのではと冷や汗が出る。バレているのなら別にそれはそれでいいのだが、万が一告白した時にもう知っていると笑われてしまうかもしれない。
「まぁ、華奈はどうせ気づいてないから」
「そうなのか?」
「だって華奈、君のことすっごくよく見てるクセにこう言うところだから視野角が狭過ぎるんだもの」
葛葉は目の横に手のひらを当てて、視野が狭いというジェスチャーをして分かりやすく俺に伝えてくる。その顔は何か呆れを通り越して諦めまで入っているような感じがした。
「さっさと華奈に告白してよ。こっちの心臓が持たないし、星來にいらない希望を与えてやらないで」
「告白とか断ってるつもりなんだが」
「ウォータースライダー滑った挙句デート行ってるくせに何を。そういう拒否できない中途半端に優しいところがダメ」
「私と約束。この文化祭中に華奈に告白する」
葛葉は小指を立てて俺の目の前に出してきた。俺は少し小指を立てるのを躊躇する。花火大会の時はかなり勢い任せに好きだと言った面もあるので、ちゃんとして言葉にするのはかなり覚悟がいる。俺にその覚悟があるのかと自問自答してしまう。そんな事を考えたらまたドツボにハマって、自己嫌悪に陥ることなんて嫌でも分かっているのに。
そんな俺の様子を見て葛葉がはぁと一息ついた後、俺の手を取って無理やり指切りした。
「はい、約束ね。あんたら二人こうでもしないといつまでもウジウジしてそうだし」
「……葛葉って結局華奈の味方なのか?」
そう聞くと葛葉はニヤッと笑ってプールの時に早乙女に言っていた言葉をそっくりそのまま俺にも放った。
「そりゃあ私は誰の味方でも無いよ。強いて言えば運命の味方かな」
そう言いながら選んだ生地をレジに持っていく背中は、とても広く見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます