第43話 再度顔確認
円形で行われている女子軍の話し合いが10分ほど続いている。未だ何か俺と蓮のことで話しているようだが、他の男子も話題に出してやれと切に思う。全員が俺と蓮を睨んでいていたたまれない気分で心が苦しくなってきた。
目線の先にいる華奈も先ほどまでは何か私だけのだったのにという悲しげな雰囲気を帯びていたのに、段々と嫉妬に近い雰囲気に変わってきている。頬を膨らませて円形の女子軍をむぅと睨みつけていて大変心臓に悪い。
「なぁ蓮」
「なにぃ悠真」
「これ俺ら逃げる権利あると思うか?」
「ないよぉそんなの」
一応の確認を取ったがどうやらダメみたいだ。諦めの意味を込めたため息を深く吐いた後、ようやく話し合いが終わったらしく円形がバラけて女子軍が各々の席へと戻る。そして葛葉が前に出て一言。
「じゃあ女装メイド喫茶ってことで。よろしくね〜」
有無も言わさず決まったが、仮に多数決だとしてもウチのクラスは男子の数が女子より二人ほど少ないので、女子全てがメイド喫茶に投票することがほぼ決まっているのでやる意味が無い。やったところで負けることが確定しているから。
「それじゃあ私は衣装を揃えに行くから蓮か天崎くんは着いてきて」
「悠真、よろしく〜」
「話し合う気すら無いのかお前」
「僕はまぁ似合うの確定してるから〜……試着とかするなら悠真のほうがいいでしょ」
非常に腹立たしい主張だが、何一つ反論できないので渋々了承する。めんどくさがりなのに何かと理由付けは理にかなっているのが蓮の厄介なところだ。
「んでメイド服と何を買いに行くんだ」
「その前に顔よく見せて。メイクとかするときにどういうメイクにするか吟味するから」
「……嫌なんだが」
「拒否権なーし! 椅子に縛れー!」
椅子から立とうとした瞬間男子二人に押さえつけられ、なぜか裏切ってきた蓮に紐で背もたれに縛られて身動きが取れなくなった。
そして普段メイクをしていそうな女子二人と葛葉、更に早乙女がにじり寄ってきた。
「さてぇ天っちの顔をまた拝めるなんて役得〜」
「私たちも近くでは見てなかったしね〜」
「ちょーどいーよね」
「さぁさぁ天崎くん。髪を上げさせてもらうよ」
葛葉に前髪をグッと上げられてヘアピンで止められる。久しぶりに額に風が当たっている感覚がして少しくすぐったい。俺の顔を見ている真ん前の女子三人が固まっているが、葛葉のみ興味深そうに手を顎に当てている。
「……顔良いね」
「そりゃどうも」
「私以外固まったよ」
「知らんが」
本当に葛葉以外が固まっている。早乙女は見るのは二回目だろとツッコミたくなってくるが、何故そんなにも反応がいいのだろうか。蓮でイケメンは見慣れているだろうに。
「切れ目かと思ったら意外と垂れ目気味なんだね」
「目つきが悪いだけだ」
「やはりギャップ萌え狙いか」
「ちげえよ」
ニヤッとイジリ甲斐があるなという表情でこちらを見てくる。しかし横からの熱視線のせいで意識が削がれてしまう。その熱視線の正体はもちろん華奈。なんなら前にいる早乙女以上の熱い視線だ。
「……華奈? そんな見られると流石に緊張する」
「ミテナイヨ」
「見てたろ」
「ミテナイモン」
俺が話を振ってみると、目を逸らしながら片言で喋り始めた。ジトっとした目線を送ってみると、華奈は更に顔を逸らす。心なしか耳が少し赤いような気もするが、気のせいだろうか。
華奈に目線をやっていると、前にいた葛葉がはぁと少しため息を吐いた。目線だけ葛葉の方に戻すと、やれやれと言った感じながらも、少しだけ和んでいるような笑顔を俺に向けていた。
「全く……ほら顔はもういいから買い出し行くよ」
「いや解けよ紐」
「一人で抜けて〜」
「無理難題を押し付けるな」
なんとか工夫を凝らして紐を解こうとするも結局力及ばず、いち早く現実に戻ってきた早乙女に紐を解いてもらった。早乙女の息が少しだけ荒めだったのに対して何故か少し背筋が凍った気がした。
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