第6話-3

「よーし。それじゃ最終確認を行うぞ」

「オッケー!」

 会議から二日後。チーム暁はナカツクニへ来ていた。この場所は前回配信を終えた錆色荒野。ここで再び配信を行うことになった。

 リーダーの勝が五人を前に配信内容の確認をしていく。

「今回の配信はクエスト受注配信だ。まず挨拶を行ってから、企画の内容を紹介。そして役割分担の発表。今回の役割は俺が採掘係。創がサポート。祐、鋼、光、亮の四人が周囲の警戒。ただし、途中で祐がサポートに入る。

 今回は戦闘の配信は無し。敵が来たら鋼が防御して光が迎撃する。光、大丈夫だよな?」

 念のため確認するが、聞く方も答える方も結果を一ミリも疑っていない。

「大丈夫。安心していいよ」

「ならオッケーだ。視聴者には事前にこの辺りのアラガミを倒しておいたって説明して誤魔化す。以上だ。何か質問は?」

「無し!」

「よし。なら身だしなみを整えて配信スタートだ!」

 6人が並びカメラを見つめる。カメラの配信ランプが点灯したのを確認して勝から挨拶を行う。

「どうも! 皆さん、夜が明けてこんにちは! リーダー兼アタッカーの垣原勝です」

「ディフェンダーの防人鋼です」

「バッファーの橘祐です」

「デバッファーの相沢光です」

「ヒーラーの七海亮です」

「クラフターの葉加瀬創です」

『俺たち夜明けへの案内人。チーム暁です!』

 いつもの挨拶を終えると勝が今回の配信内容を説明する。その横で創が配信ドローンから空中ディスプレイに映し出される視聴者コメントをチェックしていく。

 お帰り。や久しぶり。この一か月何してた?

 などの復帰したことをお祝いしてくれるコメントの中に。

 光がまだおる。チームから外れたんじゃなかったのか?

 など、光への誹謗中傷じみたコメントがいくつか見受けられた。光も気づいているが、平然としている。この視聴者を黙らせるとっておきが既にあるのだから。

「と言うわけで今回は戦闘無しの採掘回となります。採掘は俺が担当します」

 敵が出たらどうするの?

 そんなコメントが流れた。

「敵が出たら? 大丈夫です。そうならないように事前にこの辺りの敵を一掃しておきました。なので今回の配信は採掘オンリーになります」


 平和でいいね。

 今回は平和回。

 平和が一番。

 安全第一。

 光が採掘しなかったらますます要らない子じゃん。

 まさか光を外す伏線回か?


「ん?」

 気になるコメントを見つけてしまった創。瞬時にしくじったなと気づくが・・・今さら予定変更なんてできない。この後のオチを何となく察して心の中で勝へ手を合わせた。

「それじゃ今から採掘を始めます」

 勝はヘルメットをかぶりピッケルを構える。向かうはすぐ目の前にある小さな岩山だ。事前調査でここに銅鉱床があるのは確認済み。あとは掘るだけだが。

「よーし、いっくぞー!」

 テンション高く、つるはしを振り下ろす。すると一振りで岩山に巨大な亀裂が走る。

「もう一丁!」

 二振りで岩山が音を立てて崩れ去った。

「ふぅー」

 いい汗をかいたなと額を拭うポーズを決める勝。そして創は横目で確認しつつ、主にコメントを確認していた。


 アタッカーがつるはし振るうとこうなるのか。

 光との格の違いを見せつけるなんてやるな!

 光の役割を奪っていく。

 こうやって徐々に光を追い詰める作戦だな!

 あーあ。光は本当に要らない子になっちゃった。


「・・・やっぱりこうなったか」

 視聴者に光の覚醒を秘密にしているから仕方ないとは言え、だからこそ世間がこんな反応を示すことを予想するのは簡単だった。出来たはずなのに、つい見落としていた。

「はぁ・・・」

 配信に乗らないように小さくため息を吐く。ちなみに勝はこっちの気も知らないで無邪気に手を振って呼んでいる。

「祐。鑑定を頼む!」

「了解」

 大小さまざまな岩石をそれぞれ鑑定していく。そのどれにも銅が混じっているのは予め分かっているので配信用の演技だ。

「どれにも銅が入っているよ」

「おっしゃー! やったぜ!」

 勝のまるで初見のようなリアクションに、まさか本当に打ち合わせを聞いてなかったんじゃないかと心配になる。

「それじゃ次はあっちの岩山で採掘してみて」

「オッケー!」

 鉱石をインベントリへしまいこみ次へ移動する。その合間に祐がカメラの資格から近寄って来た。

「そっちはどう?」

「予定通り。敵が来たから光が対処してる。問題は無さそう」

「分かった。こっちは勝が馬鹿力で岩山ぶっ壊してしまって、予定よりもペースが速い」

「見てた。これどうする? 途中で俺がバフかけてパワーアップして採掘するって演出、カットするか?」

「そうしよう。正直、バフかけてもインパクトが霞んでしまう」

「了解。あっちは大丈夫そうだから、こっちのサポートに入るわ」

「助かる。勝の奴、久しぶりの配信で変なスイッチ入ってる気がするから」

「オッケー。暴走しないように見張っておく」


***


「始まったな」

 轟音が背中を痺れさせてくる。

「そうだね」

 隣に居る光が急に上着を脱ぎ始めたので鋼が目を大きくさせて驚いた。

「どうして服を脱ぐんだ?」

「体がデカくなったんで、サイズが合わなくなったんだ。肩回りとかが引っかかって動かすのに支障が出るくらいに」

 タンクトップ姿になって準備運動を始める光。それを心配そうに見つめる鋼。

「でも大丈夫か? 怪我しやすいぞ?」

「大怪我になりそうなら鋼が防いでくれるんでしょ?」

「勿論。当たり前だ。何が何でも防ぎきってみせる!」

「なら心配いらないね。ああ、でも敵の攻撃は全部は防がなくても良いから」

「本当にいいのか?」

「良いよ。致命傷だけ防いでくれれば。それにある程度傷を作っておかないと、配信を終えた後の亮の特訓にならないじゃないか」

「それは・・・そうだけどさ」

 仲間が傷つくのを見たくない鋼は浮かない顔を見せる。そこへ亮がやって来た。

「敵が来たよ」

 双眼鏡を覗き込んでその先を指さした。この距離からでは光と鋼にはまだ見えないが、目が良い亮が見間違えるはずは無いと判断し迎撃に向かう。

「何かあったら無線で知らせて」

「了解! 気を付けて!」

「分かった」

 駆け出す二人。だが光の方が足が速く鋼を置き去りにする。

「先に行く!」

「気を付けろよ!」

「分かってるって!」

 光は走りながら腰のホルダーに挿していた武器を装備する。トンファー。自身の腕と同じ太さの棒の片方の端に垂直になるように短い棒を付けた2本1組の武器だ。

「さーて、敵はっと」

 光は敵の姿を確認した。前回襲撃してきた岩サソリ。数は16体と多く、しかも今回は親玉が2体も居る。親玉はまだ後方なので無視。まずは先頭から片づけることにした。

「はぁっ!」

 光はそのスピードを生かして岩サソリの攻撃をかいくぐり、トンファーの打撃を与える。打撃を受けた岩サソリは尻尾を伸ばして力なくその場に倒れ伏す。

 倒してはいない。麻痺状態にしただけだ。

「よし、成功!」

 今日に至るまでに既に何度も実戦で確認しているので手ごたえはあった。この調子で他の岩サソリも麻痺状態にして動きを奪っていく。

「次は、毒だ!」

 トンファーから仕込み針が飛び出した。その針を岩サソリの体節の隙間から差し込んで猛毒のデバフを注入する。猛毒状態になった岩サソリたちは身動き取れず、そのまま絶命して消滅した。

「もう片付いたのか」

 遅れてやって来た鋼が素直に驚いていた。

「調子は?」

「順調。欲を言えば麻痺と同時に猛毒に出来れば尚良い」

「出来ないのか?」

「少なくとも今は無理。レベルが上がれば可能になりそうな気配はある」

 まだまだ将来性がある能力だと光は感じた。

 トンファーの一撃目で膜を破壊。二撃目で麻痺のデバフを付与。身動きが取れなくってから猛毒で仕留める。これが現在の戦い方だ。

「デバフにも相性があるみたいでさ。麻痺は打撃による衝撃と相性が良くて、毒は斬撃や刺殺みたいな攻撃と相性がいいんだ」

「だからトンファーに針なんて付いているのか」

「針だけじゃなくて刃も付いてる。相手の形状に合わせて攻撃方法を変更できるんだ」

「そいつはすげぇな。っといけない。まだ戦闘は続いているんだった」

 そう。まだ戦闘は終わっていない。小型の岩サソリたちを蹴散らしただけでまだ大型が2体も残っている。そしてその大型は二人がお喋りしている間に目前まで迫っていた。

「それじゃ防御よろしく!」

「応!」

 光は大型の一体に向かって突っ込んでいく。残されたもう一体が光へ横から攻撃しようとするが、鋼が盾を出現させて全て防ぐ。

 光と対峙した大型はそのハサミを上げて威嚇するが、光は構わず突っ込んでいく。大型の尻尾の針が光を迎え撃つ。その針は光の肌をかすめるだけ。逆に光のトンファーが針を攻撃すると尻尾が力なく地面へと落ちた。

 しかし本体はまだ動いている。

「なるほど。大型にデバフを喰らわせたら、その部位だけにデバフがかかるのか。これは知らなかったな」

 呑気に観察していると、ハサミが襲い掛かる。それもすれすれでかわして本体を攻撃する。今度は二撃だけでなく攻撃が通る限り打撃を与える。

「おっ、上手く行った」

 連続攻撃を受けた大型は力なく倒れ、そして消滅した。今回は打撃に麻痺だけでなく猛毒のデバフを乗せたのだが、上手く行ったようだ。

「確率は下がるが、打撃でも猛毒にすることは可能っと。よし、もう一体だ」

 鋼に任せてある大型を見ると宙に浮いた複数の盾に囲まれて身動きが取れなくなっていた。

「攻撃するから解除して」

「応」

 一枚の盾が消えたので、その中へ飛び込んだ。すぐさまトンファーで攻撃を与えて麻痺にし、続けて猛毒状態にした。

 これで現れた敵は撃退完了。

「やっぱ怪我したな」

 鋼が不安そうに光の傷跡を見ている。

「まだまだ体の制御が甘かった。もっと精進するよ」

「光が無事ならそれでいい。戻ろう。他の敵が来てるかもしれない」

「了解!」

 無線で確認すると敵は来ていないとの返答だった。今度は鋼の速度に合わせて帰還した。

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