第6話-4

「それでは皆さん、さようなら」

 動画の締めの挨拶を終えると、配信ランプが消灯した。

「お疲れー」

「お疲れー」

 全員無事に合流したチーム暁は、一旦、現状の確認を優先した。

「配信は無事に終わったぜ」

 勝が意気揚々と報告するが、創が首を横に振る。

「いや。ミスがあった。まぁそれは後で勝が対応するから大丈夫だ」

「えっ!? 何かあったっけ?」

 何のことか気づいていない勝は急にオドオドしだすが、創は構わずに話を続ける。

「それでそっちの方がどうだった?」

「応。ばっちりだぜ。光が全部倒した。見てたけど余裕だったぜ」

 鋼がまるで自分の事のように答える。

「うん。大丈夫だったよ。今までは上層の敵しか相手してなかったから若干不安はあったけど、いつも通りに戦えた」

「それは良かった」

「後はやっぱり体の動かし方を訓練しないと。今回もかすり傷を負っちゃったし」

「まぁ、これぐらいなら許容範囲内だろ。むしろ中層の敵を相手にその程度ですんでるのは上級者レベルだから安心しろ」

「もっと自信を持って!」

 仲間たちからの励ましに光はうんうんと大げさに頷く。

「僕も自信を持ちたいんだけどね。鋼が過保護すぎてつい自分を過小評価してしまうんだよ」

「あー。鋼のせいかー」

「鋼。やったなー」

「違う。俺はやってない! いいじゃん。心配したってさ。つーか心配させろー!」

 鋼が空に叫び、他がわははと笑う。

「よーし。それじゃこれから第二回戦と行きますか」

「ああ、やるか!」

 配信を終えたが再び気合を入れなおす6人。実は彼らがこのナカツクニへやって来た目的は配信だけではない。もう一つ、隠された事情がある。

 それは亮の特訓だ。この配信でどうせ誰か怪我をするだろうから、その治療を訓練にしてしまえばいいだろうと言うことになった。

 ちなみに学校には配信後に裏作業として鉱石集めに専念すると伝えてある。なのですぐに戻らなくても大丈夫だ。

「それじゃ俺と創と鋼はアリバイ作りしてるから」

 学校に提出するための鉱石採取へと向かう3人。残された3人は特訓を開始する。

「まずは実際にやってみてくれないか?」

「うん」

 祐の指示のもと、亮が光の怪我を癒す。その方法は前回発見した遠隔での治療方法だ。

 亮は一度息を吐き切ってからゆっくりと息を吸い込む。そして右手の人差し指にオーラを集めた。目に見えるまで可視化されたオーラは指先の10センチ先まで細長く伸びた。

 その先端を掠り傷へと突き刺すと傷口がゆっくりと癒えて行く。

「よし。今日も出来た」

 無事に再現出来た事にホッと胸を撫でおろす。一方、祐はオーラの形状変化について注目していた。

「なるほど。次はオーラの形状を変えてみてくれないか? 例えば先端だけを球状にするとか」

「やってみる」

 祐に言われ再び指先にオーラを集め伸ばす。その状態でしばらく唸っていたが。

「あ、こうか」

 どうやらコツを掴んだらしく、オーラの先端を球状に変えることが出来た。そしてそれで治療を開始するが、上手く行かない。

「反発してる感じがする」

「イメージとしては細長い方がいいのか? いや、膜を通過するためだから細長い方が都合がいいのか。面積が大きくなるとその分、反発を起こす」

 祐はぶつぶつ小声で呟き考えをまとめるために二人の周囲をぐるぐるゆっくり歩く。その足もすぐに止まった。

「よし。次は球状にしたオーラを切り離してみてくれ」

「分かった」

 言われた通り、球状にしたオーラを切り離す。すると切り離されたオーラはすぐに霧散した。

「あれ? もう一回やってみるね」

 だが二度、三度繰り返しても失敗する。

「駄目だ。どうしても出来ない」

「オーラの切り離しは駄目か。俺のバフや光のデバフと違って切り離すのに適してないのかも」

「それじゃ遠隔治療は無理ってこと?」

「いや。現にやれているんだ。発想の転換だ。無線で駄目なら有線で治療だ」

「有線。ならこのオーラを伸ばすって事?」

「ああ。ちなみにどこまで伸ばせる?」

「やってみる。えーと・・・5メートルくらい?」

「結構伸びるな」

「練習すればもっと伸びるかも。後は線の太さも細くすればいけるかも?」

「治療なら細い方が都合が良いからそれはオッケーだな。後は伸ばした線をどうやって対象の体に持っていくか。治療のために一々亮のところに戻って来てたんじゃ、遠隔治療を行うメリットが無くなる」

 考えすぎてつい頭を搔く亮。何かいいアイデアは無いかと考えていると、黙って話を聞いていた光が口を出した。

「あのさ。オーラの形状を変えられるんだよね。それって生き物とかは出来ない?」

「生き物?」

「例えば先端を鳥の形にするとか。それを操って遠くまで飛ばして行く」

「鳥の形にして飛ばす。やってみるね」

 亮はオーラの形状を鳥っぽい形に変化させることが出来た。

「あまりにも不格好だけど。今はこれが精いっぱい。ちなみに羽ばたかせてみるね」

 鳥の形をしたオーラが羽のようなものを広げて羽ばたく動きをする。しかし形が歪なせいか飛ぶ気配はない。

「うーん、駄目か」

「形のせいかもしれない。もっとちゃんと作れば上手く行きそうな気がする」

 亮のこの直感は重要だった。六曜の力の訓練で新しい使い方で不意に訓練中に訪れる『出来そうな気がする』は、失敗ではない事の証明だ。

「それじゃこのまま訓練をすれば行けるってこと?」

「うん。行ける。でも待って。その前にもっと試したい。鳥がこうなら、植物なら」

 亮は掌を広げてオーラを纏わせる。そこから植物の蔓が伸びだした。その蔓は光の体へと巻き付いて行く。

「おおっ!?」

「動かずにじっとしていて」

 巻き付いた蔓は傷口をふさぐように動くと、次に蔓の表面から根が伸びだした。その根が傷口へと入って行く。すると傷口がどんどん消えて行った。

「おおっ。やった」

「上手く行ったな。今の2メートルくらい離れてから治療出来たぞ」

「でもなんで植物?」

「亮は園芸が趣味だからだろ。イメージしやすかったんだろ」

「うん。植物だと見慣れてるからすんなりイメージ出来たよ。良かった。これで僕も皆の役に立てそうだ」

 ホッとしたのか、それとも新しい治療法で疲れたのか。亮はその場にへたり込んでしまった。

「はは。疲れた。この方法なら同時に複数人の怪我を治せるよ」

「一気にレベルアップしたな」

「うん。皆ありがとう」

 無事に特訓を終了した三人は勝たちと合流。彼らの手伝いを行ってから帰還した。

 彼らが持ち帰った銅鉱石は政府関係者に大いに喜ばれた。

 ちなみに今回の配信で、世間は光を段階的にチームから外すための試験配信ではないかとの憶測がネットを中心に飛び交うこととなった。何しろ光が顔を見せたのは初めの挨拶だけ。終了の挨拶には顔を見せなかったことで視聴者の不安を増大させた。実際には敵との戦いで追った傷を見せる訳にはいかなかったので隠れてただけなのだが。

 そしてその情報を知った灯から、兄の勝へ事情を問いただす電話が来てしまう。勝がいくら否定しても一向に信じない妹からの罵声を小一時間黙って耐えて聞く羽目になってしまった。

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