【閑話休題】エピソード:イーグラン③

Side-イーグラン


私は馬を休ませることなく駆け、教会本部のある街へと戻ってきていた。


「止まれ!」


「イーグランだ! 教皇様に急ぎ報告がある!」


身分を明かすと、本来であれば門が開くはずだった。


だが、門番は動かず、代わりに衛兵たちが私を取り囲んだ。


「イーグラン、貴様を聖遺物強奪および悪魔教団との関与の疑いで拘束する!」


「え?」


唖然としていると、奥から見知った顔がやって来た。


「ふん、あのイーグランも落ちたものよ、

よもや悪魔教団に寝返り、聖遺物を奪うとはな!」


ルキウス・ヴァルトライン――

かつては私と並び、勇者候補の筆頭とされていた男。


だが、私が勇者として選ばれた後、彼はヴァルトライン家の次期当主となった。


「だからあの時私を勇者に選べば良かったのだ!」


彼は苛立ちを隠そうともせず、周囲の兵士に当たり散らす。


「違う! 私は裏切ってなどいない!


教団のアジトに突入した時、我々は待ち伏せを受けた。


……内部に裏切り者がいたんだ!」


必死に訴える私に返ってきたのは、冷たい沈黙と、見下すような視線。


「言い訳とは情けないな、元・勇者殿」


ルキウスが肩をすくめて嘲る。


「お前以外、全滅だったんだろう? その口で何を語ろうと、誰が信じる?」


「貴様……内部に裏切り者がいるんだ!それを教皇様に――」


「その“教皇様”が、お前に追っ手を放ったんだよ」


その言葉に、心臓が凍りつく。

まさか……そこまで腐っていたのか...?


「哀れだな。もう終わりにしろ、イーグラン。

お前はここで死に、妻もその息子も――」


「黙れ!!」


私は怒りに任せて馬を返す。


すでに囲まれていたが、一瞬の隙を突く。


神に仕える騎士の誓い――

それは、何よりも家族を守るためにある。


背後から怒号が飛び、聖印を帯びた矢が風を裂く。

だが私は、決して振り返らなかった。


* * *


数日後──アークレイン領・国境付近


「くそっ……」


腕の出血は酷く、馬も限界だ。


それに妻も息子も既に限界は超えている……、


夜の森をさまようように歩く。


(……ここまでか)


そう思った瞬間だった。


ズンッ――


空気が震える。


森の奥から、巨大な人影がゆっくりと現れた。

全身を覆う黒鉄の鎧。背に大剣を背負い、迫力だけで悪鬼どもを追い払うほどの存在感。


「魔物かと思い見に来たが… お主、フェンブライトの倅か!」


その声に、私は膝から崩れ落ちた。


「……助けて……くれ……、バルドル殿……」


その後、意識が暗転した。


* * *


数日後──アークレイン領・教会


あの後、私たちはアークレイン家に保護され、手厚い治療を受けた。


「私の名は、今は隠しておいた方がいいでしょう」


ガイアスたちに事情を説明し、今後の身の振り方について話し合っていた時のことだった。


「そうだな! ちょうど放置されてる教会がある!そこに住むといいぞ!」


「ちょっとガイアス! 教会に追われていたのよ? そんなの危険すぎるわ」


「いえ、セレーネさん。むしろその方が都合がいい。

まさか逃亡中の私が“教会”に潜んでいるなど、誰も思わないでしょう」


「はぁ……もう。好きにしなさい」


「感謝します。これからは、“エリオット”と名を変えて生きていきます」


「うむ! よろしくな、イーグラン!」


……どうやら、私の偽名はこの一家には浸透しないようだった。


* * *


あの日、私はすべてを失ったと思っていた。


だが、妻と息子は守り抜いた。

そして、ここには新たな生活がある。


我が家の家宝である、初代が残した魔導書。

家は滅び、名は絶たれたが――


この血に流れる意志は、私が継いでいく。


これは、終わりではない。


――はじまりだ。


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