怪奇面妖今昔奇譚外伝:天狗 

Bamse_TKE

第1話

たんと伝わる 昔の話




嘘か誠か 知らねども




昔々の 事なれば




誠の事と 聞かねばならぬ




 古来より古き山の神とも崇められる存在【天狗】、知らぬものが少ないほどにこの妖怪は名が知られている。もっぱら山伏の如き装いでその顔は赤く、天を突くような鼻が高々とそびえている。その背中には翼があり空中を飛翔するともされ、山岳信仰者たちから畏怖と敬意を集めていると聞く。


 【天狗】の力は凄まじく、神にも通じる力、神通力を持ちそれを用いて天変地異を起こすこともあるとか。


 神の眷属とも称され、除災開運、災厄消除、招福万来などを謳われることもあるが、その実は明らかにされてはおらず、有難き存在である実証は寡聞にして筆者の存ずるところではない。


 なにしろ【天狗のつぶて】や【天狗倒し】といった災厄を引き起こすのもまた【天狗】である。山中で突然人死にがあれば、【天狗の礫】に打たれたとされ、山津波で集落が崩壊すれば【天狗倒し】が起きたと人々をざわつかせる。


 不思議と有難がるものたちがいる一方で、地元民たちを苦しめる何とも迷惑な怪異であることか。



 春を過ぎて夏が近づき、連休の中盤に差し掛かったころそれは起こった。北東北の山中にて山菜取りに出かけた老人が、変わり果てた姿で発見されたという。全身を強打しており、搬送先の病院で死亡が確認された。


 老人を死に至らしめたもの、それは風車であったと聞いている。強い風にその風車は耐えることが出来ず、その破片が老人を襲ったと新聞は伝える。本来はその風を利用して、電力を生み出すはずであった風車、それが風で壊れるとは笑止千万、そして人死にまで引き起こすとは、最早笑い事では済まされない。現代社会で【天狗の礫】が起こったとでも言うのだろうか?


 再生可能エネルギーと聞けば、無条件で良いものとされ、それがどんなに環境負荷を増やしても、地元住民をどれだけ困らせても、まつりごとを司るものたちは、その開発を止めない。再生可能エネルギーを神の如くに崇め奉り、エコロジーという大義名分をもとに異論を封じ込めようとする。再生可能エネルギーに傾倒する理由は他にあるのかも知れないが、現場での悲劇は顧みられることはない。


 東北最大の都市でも大規模太陽光発電システムに起因する山崩れがあったと聞く。これも再生可能エネルギー推進派からは【天狗倒し】とでも思われているのだろうか。人知を超えた仕方のない災害であると。


 再生可能エネルギーが無くてはならない物なのか、無用の長物なのか、浅学菲才な筆者にはその判断は難しい。再生可能エネルギー推進派にだってもちろん言い分はあるだろう、現在の地球環境を少しでも良い状態で未来へ残すのは大事なことであろうから。しかしそれが現在を生きとし生けるものたちを害することは絶対に許されない。


 今回の事故は避けることのできなかった【天災】なのか、それとも人間が引き起こした【人災】なのか。それを十分に議論していただきたい。エコロジーの美名に胡坐をかき【天狗】になっている人がいるなら是非ともお願いしたい。

 

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