第3話 のぞみ307号:終着駅の亡霊
品川駅まで――残り18分。
車内は緊迫感に包まれていた。誰が裏切り者なのか、ワクチンは誰の手にあるのか、そして「最終話」に描かれている“脱出の鍵”とは――。
「このマンガ、ただの実況じゃない」カナメがぼそっと言った。「俺たちが通ってる高校の“七不思議”、そのネタも混ざってる。最新話のページタイトル……《旧校舎の七つ目の話》ってなってる」
「七つ目?うちの学校って、七不思議って言いながら六つしか伝わってないんじゃ……?」
リナがその言葉に息を呑む。確かに、七つ目の話は誰も知らなかった。だが、マンガの中ではこう書かれていた。
> 《七つ目:地下に封印された“記憶の部屋”。そこに触れた者は、未来を知る代わりに、大切な何かを失う。》
ページのコマには、品川駅のホームの一角、閉鎖された古いホームの先に“記憶の部屋”らしき扉が描かれていた。
「……つまり、その部屋に行けば未来が見える。でも、失うって何を?」
「命、じゃないといいけどな」とユウトが冗談めかして言ったが、誰も笑えなかった。
「ちょっと待て」チンピラが口を挟んだ。「お前ら、その“七不思議”って、学園の話だろ? なんでこのマンガと関係ある?」
「知らない。でも、全部が繋がってる……というか、私たちの“記憶”が使われてる気がする」リナの声は震えていた。「誰かが、私たちの過去を知ってる。学校のことも、列車のことも」
その時、LINEマンガに緊急更新の通知が届く。
> 《3分後、裏切り者が行動を開始。記憶の部屋の扉が開く》
全員の視線が、一斉にカナメのスマホに注がれる。
「じゃあ……もう始まってる?」
ユウトが言う。
「裏切り者は――この中にいる」
リナが低くつぶやく。
---
《のぞみ307号:最終話・記憶の部屋》
ドン――。
車両の奥で、金属音が響いた。何かが外れた。空気が変わった。
「……今、扉が……!」カナメがつぶやく。
LINEマンガの画面が自動でスクロールし、次のコマが表示された。
> 《記憶の部屋に最初に入るのは、“存在してはならない者”》
《彼が扉を開いた瞬間――全員の“過去”が更新される》
「存在してはならない者……?」
ユウトが眉をひそめる。
その瞬間、リナが健太の方を見つめ、顔色を変えた。
「……ねえ、先生。あなた、さっきから……LINEマンガの名前、一度も見てないよね」
「……何の話だ?」
健太は眉をひそめた。
「ううん、それだけじゃない。先生って気配しないよね」
沈黙。
「先生って給食の時間何も食べてませんよね。それにこのまえ、呼び止めたとき肩叩いたけどヒンヤリしてた」
健太は言葉を失い、目を伏せた。LINEマンガの次のコマが表示される。
> 《健太――三年前、旧校舎で事故死。記憶の部屋の“最初の犠牲者”》
「――俺は、死んでた?」
健太の声が震えた。知らない間に時間が過ぎていた!?
次のページには、旧校舎の地下で倒れている健太の姿と、「学園七不思議・七番目に取り込まれた生徒」の記述。
チンピラが怯えた目で健太を見た。「ふざけんなよ……じゃあ、こいつは幽霊かよ?」
健太はふらりと立ち上がり、ゆっくりと車両の連結部へと歩き出した。
「たぶん、俺が“記憶の部屋”を呼び寄せてる。……ここにいることで、みんなの記憶を混乱させてたんだ」
「でも、健太……」リナが言いかけた。
「大丈夫だ。俺は、ここで終わる。でも……お前らは続けてくれ。“鍵”を見つけて、逃げろ」
そのとき、車両の外――古びた品川駅の幻のホームが、黒い霧の向こうに浮かび上がった。
そこには、「記憶の部屋」の扉が、ゆっくりと開かれようとしていた。
健太は、ひとりその闇の中へと向かっていった。
> 《記憶の部屋へようこそ。ようやく、“最初の住人”が帰ってきた》
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