第2話 鍵はLINEマンガ

 チンピラの男がワクチンのケースをひょいと持ち上げ、にやりと笑った。


「さてさて、これが命を救う鍵ってわけだ。どうする?欲しけりゃ…交換しようぜ」


「何をだよ!?」リナが叫ぶ。


「んー、たとえば……情報とか。脱出ルートの地図とか? それとも、そこの優等生のケータイでもいいな。最近の若い子は、何かと便利なもんを持ってる」


 そのとき、クラスメートのひとり、オタク気質の白石カナメがふとスマホを操作していた。


「リナ、これ見て。LINEマンガの特集ページに、今朝アップされた緊急連載…!“Z列車感染編”。内容が、俺たちとそっくりなんだ。しかも――今の状況、全部描かれてる」


「は…?」リナは画面を覗き込んだ。


 確かに、そこには“のぞみ307号”“巨大な蛇”“3号車の感染者”“銀のワクチンケース”と、まるで実況のような展開が次々と更新されていた。


「どういうこと?予言…?いや、誰かがこの状況を監視して、マンガとして配信してるのか…?」


 カナメがページをめくると、次の更新には《3号車、感染爆発まで残り12分。ワクチンの争奪が激化。裏切り者が出現》というセリフが大きく描かれていた。


「裏切り者…?」


 全員が凍りつく。誰だ?信じられない。だが、画面にはその“裏切り者”らしき人物のシルエットが、チンピラと何かを渡し合う姿で描かれていた。


 リナが冷静に言った。「このマンガ、未来を映してる…!だったら、続きを読めば助かる方法も…!」


 その瞬間、LINEマンガの通知が来た。《最終話・無料公開中。脱出の鍵は“品川駅”》


「次の停車駅だ!」ユウトが叫んだ。


 その言葉に、チンピラも顔をこわばらせた。「おい、なんだそれは。テメェらだけが助かるルートでもあんのかよ」


 だが、リナは一歩前に出て言った。


「ある。だけど――あなたたちが協力しなきゃ、全員終わりよ」


 情報と信頼とワクチン、そして“裏切り者”。

 マンガの世界と現実が重なり合う中、のぞみ307号の“最終話”が、品川駅で幕を開けようとしていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る