第25話 先輩と後輩の交流①

 平日の夕方頃。

 俺は、学校の屋上でいつものように日向ぼっこしていた。


 いつもなら起きているのだが、今日に限っては熟睡しており、放課後を告げるチャイムの音で現実に引き戻されかけた。


 ……んあ? あと5分……。


 その後、しばらくして完全に現実に戻ってきた俺は、翼をぱたつかせながら体を起こす。

 寝ぼけ眼で空を見上げると、太陽がだいぶ西に傾き、空がオレンジ色に染まり始めている。


 ……って、やば! もう放課後か! 寝すぎた!


 俺は慌てて翼をばたつかせ、屋上から勢いよく飛び立った。

 この時間は、窓がしまっていることが多いので、開け放たれた屋上の扉から中に侵入する。


 屋上から3階、3階から2階……というように下の階へと飛んでいくと、ばったりと花菜に出くわした。


「あ、蒼人さん! ちょうどよかった!」


 花菜は、なんだかとても嬉しそうな、キラキラした笑顔で俺に駆け寄ってきた。


《ん? どうしたんだ、花菜。そんなに嬉しそうな顔して》


「今日、学校の帰りに行きたい場所があるんです! 蒼人さんも、ぜひ一緒に行ってみませんか?」


 花菜の話を詳しく聞いてみると、何やら駅前の商店街にゲームセンターが新しくできたらしい。

 前々からゲームセンターに行ってみたかったので、今回を機にぜひ行ってみたいんだとか。


 ゲームセンターか、懐かしいな……。

 サラリーマン時代のストレス発散によく通ったもんだ。

 クレーンゲームに格ゲー、音ゲー……あまりいい思い出ばかりじゃないが、あの独特の喧騒は嫌いじゃなかった。


 俺は、ふと幸子のことを思う。


 ……幸子とか、絶対行ったことなさそうだよな。

 たまにはああいう場所で息抜きさせてやるのも、パートナーの務めか? よし、決定!


 そうと決まれば、花菜も連れて幸子のところに行こう。


《ゲームセンターか。いいぜ、行ってみるか。幸子たちも誘ってみようぜ。あいつらもああいうの好きそうだ》


 俺が快諾すると、花菜は「本当!? 嬉しいです!」と、さらに笑顔を輝かせた。


 ▽▽▽


 俺たちは連れ立って幸子の教室へ向かった。

 教室を覗くと、幸子が一人で席に座り、本を読みながら俺たちが来るのを待っていたようだった。


《幸子。待たせてゴメン》


 俺が声をかけると、幸子はパッと顔を上げて笑顔を見せた。


「あ、蒼人さん! お帰りなさい! 花菜先輩も、どうしたんですか?」


「幸子ちゃん、待っててくれたのね。芽衣亜ちゃんと美々歌ちゃんは?」


 花菜が尋ねる。


「はい! 蒼人さんがいつ戻ってくるか分からなかったので、待たせたら悪いと思って、お二人には先に帰ってもらったんです」


 芽衣亜と美々歌もすまん……! 俺が、二度寝してぐっすり寝てたばっかりに……!


「ねえ幸子ちゃん、この後、私たちと一緒にゲームセンターに行ってみない?」


 花菜が本題を切り出す。


 幸子は、「ゲームセンター……?」と最初は首を傾げたが、すぐに目を輝かせた。


「あっ! テレビで見たことあります! ピカピカしてて、楽しそうなところですよね! 行ってみたいです!」


 やっぱり興味あったか。


《じゃあ、花菜と一緒に行ってみようか》


「はいっ!」


 ▽▽▽


 道中、幸子は初めて行くゲームセンターに興味津々だった。


 ゲームセンターって、どんな所なんですか? 何があるんですか? クレーンゲームって何が取れるんですか? ……と、質問攻めである。


「ふふ、私もあまり詳しくはないんだけど、色々なゲームができる場所みたいよ。クレーンゲームとか、太鼓を叩くゲームとか……」


 花菜も少し興奮気味に答えている。


 まあ、だいたいそんな感じだな。

 あとは薄暗い中で格ゲーマーが唸ってたり、音ゲーの達人が神業を披露してたりするカオスな空間だ。


 俺は心の中で補足した。


 そんな感じで、幸子の質問に答えていると、ついにゲームセンターに到着。

 色とりどりの看板、鳴り響く電子音、そして大勢の人々の熱気。

 その独特の雰囲気に、幸子も花菜も少しだけ圧倒されているようだ。


「わぁ……! キラキラしてます……!」


「すごい人……!」


 二人がキョロキョロと辺りを見回していると、真っ先に視線が吸い寄せられたのは、やはり入り口付近に大量に設置されたクレーンゲームコーナーだった。


「可愛いぬいぐるみがたくさん……!」


「これ、本当に取れるのかしら……?」


 ガラスケースの中に並べられた景品の数々に、二人は目を輝かせている。


 そんな中、幸子がとあるぬいぐるみを指差した。


「あ! あの鳥さん、なんだか蒼人さんに似てて可愛いです!」


 そこにあったのは、ちょっとデフォルメされたデザインの、丸っこい青い鳥のぬいぐるみだった。


 俺に……似てる……だと……?

 まあ、否定はしないでおいてやる。


「あら本当ね。幸子ちゃん、欲しい?」


 花菜が優しく尋ねる。幸子はこくりと頷いた。


「よし、先輩が取ってあげるわ!」


 花菜は意気込んで百円玉を投入し、クレーンゲームに挑戦開始!


 しかし、アームはぬいぐるみを掴むものの、持ち上げる途中でポロリと落としてしまう、お決まりのパターンだ。


 花菜が爆死しても困るので、念のため俺は確認しておく。


《なあ、花菜? クレーンゲームって得意か?》


 そう聞くと、花菜は首を横に振る。


「小学生の頃にお父さんと少し遊んだだけで、それ以降はやってない……かな?」


《OK、俺に任せろ》


 ここは、サラリーマン時代でのストレス発散で培った知識と経験を、今こそ披露する時だ。

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