よみあげ。
すまむる、すまむる、よみあげ。
電車でさわるものといえば、すまむると本が二大勢力だ。
タケダはすまむる派で、ときどき本に浮気する。
タケダの向かいに座る人は、なんと、すまむると本の二刀流だ。
タケダは、ハッとした。その手が、あったか。虚をつかれた気分だ。タケダが武将で、ここが戦場なら、死んでいた。そのくらいの、ふいうちだった。
向かいに座る人、仮に、ウエスギとしよう。ウエスギは、片手では本を開き、もう片方の手で、すまむるを本に近づけていた。そして、そのすまむるを、自身の耳に近づけていた。
おや、ふしぎだ。すまむるをなでない。よく見ると、すまむるの口元が動いている。
すまむるが、本を読みあげているようだ。
すまむるは、声まねがとくいだ。文字を読めるなら、読みあげもできる。道理だ。
すまむるが小さな声で読みあげる。短い前足で、てしてしとウエスギの指を叩く。ウエスギはページをめくる。すまむるがまた口を動かす。ウエスギはうんうんとうなずく。すまむるがウエスギをてしてし叩き、ウエスギがページをめくる。
タケダはしばし、その光景をながめていたが、やがて自分のすまむるをなでるのに戻った。明日は、本も持ってこよう。
すまむる、すまむる。
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