ケース。
すまむる、すまむる、ケース。
イグチは衝撃をうけた。すまむるの服に。
売り場では、なぜか、ケース、と表記されている。
イグチは、自分の人生にすまむるケースはいらないと思っていた。
すまむるは、自前の毛があるのだ。なぜさらに布をかぶるのだ。
理屈ではない。イグチは得心した。本当は理屈もあるのだが、イグチはそれで得心した。
すまむるの服は、頭と足を出して着る。頭をなでたり、足をつついたりすると、すまむるはよろこぶ。これは、数多のすまむるで同じことだ。
しかし、服から出た頭と足にかまうこと、そのなんと甘美なことか。
服は着替えられるのも、よい。
とら模様のすまむるがほしいので毛皮をとっかえ、とはいかないが、とらの服を着ることはできる。頭と足は元のままだが、それがまた、人の傲慢と妥協を感じて、風情がある。
イグチはまだ試みていないが、ペアルック、というのもできる。
キャリーすまむるケース、というのもある。
ベルト付きで、鞄から出し入れせずとも、いつでもすまむるをなでられる。
これは、革命だ。
すまむるを簡単になでられるのはもちろん、おなかの前にすまむるをさげて、すまむると同じ光景を見られるのは、よい。
ベルトを長くして、すまむるを地につければ、イヌのさんぽのまねごともできる。ただし、すまむるの足の短さにつきあっていたら、目と鼻の先へ行くにも、日が暮れる。
たまにはいいだろう。たくさん歩いたすまむるをおなかの前にさげながら、イグチは夕焼けの中を意気揚々と歩きだしたのだった。
すまむる、すまむる。
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