筋肉勇者がアサシンの俺にパーティーから抜けて欲しいらしい。罠とかどうするんだよ!え?最近は力づくで壊せるようになった?…一旦話し合わないか?

水海アルケイ

第1話

「えっと、アサシンさんにはこのパーティーから抜けて欲しいんです。」


 昔の貧弱そうな体とは違い、筋肉がムキムキになってる勇者は俺にそんなことを言ってきた、


「パーティーから抜けて欲しいって、どういう事だよ。」


 先ほど勇者から、後で部屋に来て欲しいと言われて来た途端、言われた言葉がこれだ。


「えっと…それは何というか…。」


 体はムキムキなのに、性格は昔と変わらずオドオドとした所は変わっていなく、調子が狂う。


 勇者は決意したように俺の方を見た。


 「アサシンさんに抜けて欲しい理由は、アサシンさんにこれ以上危ない目に遭って欲しくないからなんだ。」


「危ない目にって、そんなの戦闘してれば当たり前じゃないか。」


「いや、そうじゃないんです。この前のダンジョンのこと覚えてますか?」


「この前のって、もしかして俺が勇者の剣圧で吹っ飛んで壁にめり込んだ話のことか?」


「そうです。あの時は変な声を上げながら吹っ飛んでいくものだから、びっくりしたんですよ。」


「あんなの偶然そうなっただけだって!

いつもは結構距離とってるからまじで偶然だろ!」


「そのほかだって!女大魔導士さんが極大魔法を撃った時にものすごい飛んでいって、危うく崖下に落ちそうになってたじゃないですか!」


「あれは!その、あいつが近距離で撃つからああなっただけだって!」


「でも他のパーティーの皆さんは平然と立ってましたよ。」


「うぐ!」


 あまりの正論に俺は何も言い返す事が出来なくなってしまった。


「僕は心配なんですよ!あと少しで魔王城に到着します。でも魔王との戦いは今まで以上に苛烈な戦いになる筈です!」


「そんな中で、アサシンさんがその場に居たら絶対即死しますって!」


「いや、でも魔王城の道のりには罠とかだってあるし、偵察もしたりする必要もあるとおもうし!」


「罠とかもう僕には全く効かないんですよ!

巨大な大岩だって拳で砕けるし、どんなに深い落とし穴に落ちたって余裕で上がってこれるし、いつの間にか毒針や麻痺といった状態異常トラップだって僕には全然効かなくなってたし!」


「そもそもレベルが上がり過ぎて、もう魔王とか余裕で倒せちゃうくらい強くなって偵察とかも要らないんですよ!」


「だからお願いです!パーティーから抜けて下さい!グスッ…。」


 勇者は遂に泣き出していまい、

 俺はもう何も言えなくなってしまった。


 だが、魔王城まではあと少しなのだ。大人げないとは思いつつどうにかしてパーティーにいる方法を考えていた。


 そんな中、この部屋に入ってくる人物がいた。


 「失礼するさね。部屋の外まで声が丸聞こえよ。」


 そう言って入ってきたのは、勇者パーティーの女大魔導士だった。


 「女大魔導士…。」


 こいつは俺の幼馴染であり、昔からの腐れ縁だ。

 女大魔導士は二人きりの時に揶揄ってくるから少し苦手な相手でもある。


 「アサシン、勇者様を困らせるんじゃないよ。それに勇者様も一旦落ち着きな。」


「でも!僕はアサシンさんに死んでほしくなくて…。ウワーン!」


 その巨体から放たれる泣き声は大きく、耳を塞ぐほどであった。

 泣き止むまでの数分間は、鼓膜が破れないように必死で耳を押さえていた。



 勇者が泣き止み、女大魔導士は一度話を整理した。


「つまり、勇者様はアサシンに死んでほしくないからパーティーを抜けて欲しい。」


「そして、アサシンはあと少しで終わるためパーティーからどうしても抜けたくないと。」


「そうです…。」「そうだ。」

 俺と勇者はそれぞれ返事をした。


「うーん、そうさね…。じゃあこうしよう。アサシンは魔王城が見える安全な位置で待機して、勇者様が魔王を倒した際の連絡係にする。」


「そしたら、アサシンは死ななくて済むし、役割があるからパーティーから抜けなくても良くなる。これでどうさね。」


「それなら確かにアサシンさんは死ななくて済みそうですね!そうしましょう!」


「まあ、それなら良いのか?」


俺たち二人は、女大魔導士が言った方法で行くことにした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 あれから数日後、俺以外の勇者たちは魔王城へと向かっていった。

 パーティーメンバーは、勇者、聖女、女大魔導士、女重戦士だ。


 そんな俺は魔王城が斜め上から見える崖で、双眼鏡を片手に身を隠していた。


 「はぁ…。勇者は簡単に魔王を倒せるって言ってたが、本当に上手くいくもんなのかよ。」


 俺は独り言を呟きながら、戦闘が始まるのを確認していると魔王城の方から轟音が聞こえた。


 「な!なんだぁ!」


俺は急いで双眼鏡で覗くと、魔王城の道のりが次々と吹っ飛んで行くのが見てた。


「何が起きてるんだよ…。」


 吹っ飛んで行く中心には勇者が居て、拳で次々と罠を壊していく姿が見える。

すると俺の方にまで破片が飛んできた。


「ッ!あぶな!」


 辛うじて避けたが、もし当たっていたら死んでたかもしれない。


 勇者が通った場所は、瓦礫が綺麗に分かれており、まわりには魔族たちの死体が転がっている。


 勇者が壊していくせいで、魔王城は徐々に崩壊を始めているが、聖女や女大魔導士の魔法のおかげで何とか保っている状態だ。  


「確かに俺が行ってたら死んでたかも…。」


 勇者の言ってたことは間違いじゃなかった。


たとえ聖女や女大魔導士の魔法があったとしても、もしものことがあったら即死だっただろう。


 そして遂に、勇者たちは魔王と相対することになった。


 ぶっちゃけ、魔王城は跡形も無くなり、双眼鏡なしでも見える状態になっていた。


 勇者は聖剣を掲げ、一太刀で魔王を葬り去ってしまった。


「終わったのか。」


 俺はそれを見届け、王都に報告に行こうと立った直後、いきなり魔王城の上空からでかい女性が降りてきた。


 「なんだあれは!」


 どうするか迷ったが、俺は自分の仕事を優先する事にし、王都へ向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 僕は魔王に聖剣を掲げ、技を発動する。


「“エクスカリバー”!」


魔王に向かっていった技は、魔王を直撃して消滅させた。


 魔王を倒して安堵していると直後、上から大きい女性が上から降りてきた。


「私はこの世界の女神。

 勇者たち、よくぞ魔王を倒してくれました。

 お礼にこの場にいる一人ずつの願いを叶え

 ましょう。」


 なんと、この女性は女神様だった。

 怪しいとは思ったが、目の前まで来て何もしてこない為、本物だと信じる事にした。


 それに魔王を倒したお礼に願いを叶えてくれるとは、頑張って倒した甲斐があるものだ。


 何を願おうか迷っていると、最初に女重戦士が願いを言った。


「だ、だったら結婚相手!カッコよくて身長デカくてあたしに優しくて尽くしてくれる男の結婚相手が欲しい!」


「その願い、聞き届けました。今すぐには無理ですが、一年後になんとかしましょう。」


 そう言われ、女重戦士は「ひゃっほう!」と叫び嬉しそうにしていた。


「じゃあ私は即死であったり、死に至る攻撃から身を守る装飾品が欲しいさね。」


「わかりました。では、三回まで耐えられるこの“赤い指輪”を差し上げましょう。」


「サービスとして、その回数を見る事ができる“青い指輪”も付けましょう。」


 女神はそういうと、遠くの方を見つめて微笑んだ。

 女大魔導士は、二つの指輪を大事そうに受け取った。


 「さあ、後はあなた達二人です。どうしますか?」


 僕はそう言われて悩んでいた。

元々僕はこの世界に召喚された勇者だ。

 だから最初の頃は元の世界に帰りたいとばかり思っていた。


 だけど今はこの世界に未練を残しているため、元の世界に戻るかこの世界に残るかを考えていた。


「わたし、私は!勇者様と一緒に居たいです!勇者様となら何処まででもお供したいです!」


 聖女は僕が悩んでいることを悟ってか、そんな事を言ってくれた。


 そうなれば、僕の願いは決まったも同然だ。


「女神様、僕は元の世界へ帰りたいです。それと、できれば聖女とも一緒に居たい!だから、聖女も連れて行くことは出来るでしょうか。」


 僕は、身体が熱くなるのを感じながら女神様にお願いをした。


 「わかりました。聖女はそれで良いですか?」


「はい!勇者様、これからも末長くお願いします!」


 聖女も恥ずかしながら、僕の想いに応えてくれた。


「このゲートを進めば二人は元の世界へ行く事が出来ます。

あなた達が通った時点でこのゲートは閉じます。では、私は天界へと帰ります。良き人生を。」


 そう言って女神様は天界へと帰って行った。


「それでは皆さん、お元気で!

アサシンさんにお別れを言えないのは寂しいですが、よろしく言っておいて下さい!」


「ああ!元気でな!」「了解さね。二人とも元気でやりな。」


「それと、僕が言える立場ではないですが!

アサシンさんは、自分に対しての好意に鈍いので、女大魔導士さんは恥ずかしがってないで直接言葉にして伝えてあげて下さい!」


「なっ!余計なお世話だよ!さっさと行きな!」


 女大魔導士さんは顔を真っ赤にさせてそっぽを向いてしまった。


 僕は聖女と顔を見合わせ、二人で笑い合った。

 

「じゃあ行こうか。」

 二人に挨拶を交わし、僕と聖女と手を繋いでゲートの中へと入った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺は、王様へ勇者が魔王を倒したことを報告して、勇者たちが戻ってくるのを待っていた。

 

 そして、女大魔導士と女重戦士だけが帰って来たと言われ、あの後の事を聞いた。


 「そっか。勇者の奴、ちゃんと聖女さんに気持ち伝えられたんだな。」


「ええ、あんたにもよろしく言っといてって言われたさね。」


 ったく、あんだけ聖女さんの事で悩んでたくせに、最後の最後で決めやがって!

俺もその場に居たかったぜ!


 俺は横で騒いでいる奴を無視して、女大魔導士と話していたが、気になってしょうがないので聞くことにした。


 「…それで、そこの奴は一体何を騒いでるんだ。」


 さっきからずっと「結婚相手!結婚相手!」と、鼻息を荒くしながら部屋をウロウロとしている女重戦士を見た。


「ほら、さっき女神様が願いを叶えてくれるってのがあったじゃないか。それで結婚相手が一年後に現れるらしくて、待ってられないんだろうさ。」

 

 俺はそれを聞いて呆れはしたが、女重戦士は前から結婚したいと何度も言ってたので「良かったな。」とだけ言った。


「それでお前は何を願ったんだ?」


「え!?あー、それは、そうさね…。」


 女大魔導士は口をモゴモゴとさせ、言いづらそうにしてた。


 すると女大魔導士は俺に“赤い指輪”を放り投げてきた。


 俺は難なくキャッチし、その指輪をまじまじと見た。


「これが女大魔導士が女神に願った事か?」


「そうさね。あんたの指輪は死に至る攻撃を三回まで肩代わりしてくれる指輪。」


「そして私の方はその回数がわかる指輪さね。」


 そう言って俺に“青い指輪”を俺に見せてきた。


「ん?だったら俺の方の指輪はお前が持ってた方が良いんじゃないか?お前が貰ったもんなんだし。」


「あんたで良いんだよ。私より弱いんだから。」


「な!うっせ!返して欲しいって言われても返さねえからな!」


 まったく!昔は俺の方が強かったはずなのにいつの間に俺より強くなりやがって!


 「それとさ、魔王が倒されて王都は騒がしくなるだろう?その時、久しぶりに一緒に屋台でも回らないかい?」


 「え?ああ良いけど。」


 俺は女大魔導士がモジモジしながらそんなことを言ってきて、不覚にも可愛いと思って動揺してしまった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 月日は流れ、俺は何やかんやあって女大魔導士と結婚し、子が生まれ、その子が結婚して孫が生まれた。


 今は俺、女大魔導士、息子夫婦と孫の五人で、王都から少し離れた場所で宿屋経営をしている。


 ぶっちゃけ、魔王を倒して貰った報奨金があるから、後数百年くらいは続けていける。


 結婚した経緯はなんというか、女重戦士の結婚式を見て俺が、


「遂に女重戦士も結婚かあ。俺もそろそろ結婚相手でも探そうかな。」


と呟いた所、女大魔導士が


「だったら私でいいさね!」


 と顔を赤くしながら俺に向かって言われた事で、トントン拍子に事が進んで結婚することになった。


 まあ、そんな感じだな。それより今は目の前の可愛い孫だ。

 俺達の子も可愛かったが、孫も同じくらい可愛いなあ。


 「だぁぶ、だぁあ!」


 孫は、俺が身に付けている“赤い指輪”に手を伸ばしてきた。


 「んー?これが欲しいんでちゅかー。これはもう少し大きくなったらあげまちゅからねー。」


 結局あれから危ない事は何もなく、“赤い指輪”の効果は使われていない。


 俺が孫と遊びながらそんな事をしていると、後ろから女大魔導士が歩いてきた。


「あんた孫と遊び過ぎさね。可愛いのはわかるけどそろそろ孫は寝る時間だよ。」


 「わかってるって。でも孫めっちゃ可愛いじゃん!遊んであげたくなっちゃうじゃん!しょうがないだろ。」


 俺はそう言って女大魔導士に抗議した。


「はいはい。それはもう少し大きくなってからでもいいさね。」


 抗議した事を簡単にあしらわれ、孫を抱いて連れて行ってしまった。


 くっ!もっと遊びたかったのに!


 俺は心の中で、仮想ハンカチを噛んで悔しがった。


 はぁ…。また後で遊ぶか。

 それにしても、俺も既にいい年になっちまったな。

 あとは孫が嫁さん連れてひ孫まで見られれば良いかな。

 

 女神様、どうかそれまで生きていられるようにお願いします!


 そんなことを思いながら、俺は天に向かって祈りを捧げ、女神様に願った。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 お読み下さりありがとうございます!

もう一つの短編と少し繋がりがありますので、


「勇者パーティーを追放された俺の末路」を読んでいただけると嬉しいです!


 もう一つはバッドエンドなので、嫌いな方はこの短編のハッピーエンドだけでも問題ありません!


 どちらから読んでも問題ないようになってます!



 






 







 










 













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