第9話 手袋

「んうぅ…寒い…」

肌が痛くなるような寒さで目を覚ます。

「うぅ…なんでぇ…なんで寝袋蹴飛ばしてんのぉ…」

私の寝相の悪さが露呈してしまった…

寒いのに蹴飛ばすなよ

「むうう…」

寒さで完全に目が覚めてしまい、仕方なく身体を起こし、ズッシリとしたジャケットを着る。

「ちべてえ…」

長い間…と言ってもほんの数時間だろうが、人肌に触れていないジャケットは冷たいものだ。

ジャケットのチャックとスナップボタンを閉め、腰ベルトのバックルをつける。

「手袋は…どこのポケットに入れたっけ…あれ?ポーチだったかなぁ…」

ヤバい…毎回流れで入れるから場所がよくわからん。

「どこや〜?出てこんと目玉をほじくるぞ〜?」

なーんて言っても、出てくるわけないか…

「ん〜…記憶を辿っても途切れ途切れで思い出せない…う~む、こめかみに指突っ込んでぐるぐるやって思い出すやつができればいいんだけど…」

どこぞのほぼ不死身の様な人達と違って私は人間だからできません。

残念です。

「あ、もしかして…」

テントのチャックを開け、ブーツに足を突っ込み、紐を締めずにバイクに向かう。

「あったあ!」

やりました!やっぱりバイクのハンドルにかけてありました!

「あ〜、愛しの地味に臭い手袋〜」

ノリで頬擦りをすると、レザーとなんかいろいろ混ざったよく分からん匂いが鼻に入ってきます。

臭いです。

「うん、あったかい」

手袋をはめ、袖のチャックを閉め…

「あ…ブーツの紐締めてない…」

やってもうた!

この手袋分厚いから細かい操作できない!

「うぅ…そんなぁ…」

渋々、手袋をとって靴紐に手をかける。

下から順に紐を引っ張り、少々キツいかと言うぐらいまで締める。

そして、今度こそ手袋をはめて袖のチャックを閉める。

「これでよし!あとは…」

テントがまだ残ってるんよなぁ…

「やるかぁ…」

テントの中に上半身を突っ込んで、中の寝袋を畳んで出し、袋に入れる。

テントはペグを抜いてケースに仕舞い、支柱も同様にケースに仕舞う。

海から陸に打ち上げられたクラゲのようにぺったんこになってしまった幕は、畳んで巻いて袋に仕舞い、さっきほどの小物は幕の袋の横にあるポケットに入れる。

「ふう…片付けかんりょー」

2つの袋を抱えて、バイクに載せて留める。

「ひゃ〜、疲れた疲れた」

バイクに腰掛け呟く。

「そういや、今何時だろ。ちょっと明るいけど…」

空は少々明るくなってきていて、鳥の鳴く声も聞こえてくる。

「え〜と…5時…半くらいかぁ…」

まあまあな時間だなぁ…

「起きちゃったもんはしょうが無いし、ご飯食べたら出発するか〜」

ポケットから固形タイプの栄養補助食品?とクラッカーを取り出し、1個づつ口に入れて食べる。

「口が乾くな…」

腰ベルトに付けている水筒を取り、水を一口、二口、と口に含んで飲み込む。

「ぷはぁ…」

そんな事を繰り返し朝食を終え、ゴミを持って道路の真ん中に置く。

「ライターライター…あった」

ライターを取り出し、紙に火を付けゴミに放る。

燃える紙から箱に火が移りゴミがボウと燃える。

「やっぱりゴミは燃やすに限るな」

埋めるより楽だしね!

「さーて、出発しましょうかね〜」

踵を返してバイクに戻り、跨る。

「ありゃ、もう6時か」

チラリと目に入った腕時計は6時辺りを指していた。

「丁度いいかな〜」

エンジンをかけ、ヘッドライトをつけてまだ暗い辺りを眩しく照らす。

アクセルを"ブロロン"とひと吹かしし発進する。

「さーて!なんかあるかな〜!」

夜明けの冷たい風にあたりながら、バイクを走らせる。

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