第15話
【フレイ視点】
午前の訓練を終えてパーティーのみんなと合流する。
ウインナーセットが3人分置かれる。
「賢者グランロードってどんな人だった?」
その瞬間、私は訓練中にシンシが言った言葉を思い出した。
『フレイさん、出来れば私が賢者である事は内緒にしてくれると助かります』
耳元で私の体を震わせるような低い声に顔が赤くなってしまう。
「ん? どうしたどうした?」
「来なかったわ。代わりに、シンシが、来た」
「あー、また後ろから抱き着かれるあれね」
「……そ、そうよ」
「でも、シンシさんのおかげでフレイちゃんは凄く強くなりましたよ」
「それは、認めるわ」
「ニナ、乙女心は複雑なのよ」
「ブレインネルだって乙女じゃない」
「そうね、だからニナと違ってフレイの気持ちはよく分かるわ」
「ニナ、最近フライシャドーとはどうなの?」
私はつい話を逸らした。
ニナはフライシャドーと付き合って一緒に住み始めた。
「えへへへ、フライはあ」
「もう略称呼びなのね、はあ、はあ、いいわね。続きを話しましょう」
「もう、ブレインネル、失礼よ」
「はあ、はあ、ニナとフライの関係に興味がありすぎるわ」
「……フライはぁ、手先が器用でぇ、それ以外も、凄くうまくてえ、えへへへ」
「いいわね。フライはシーフマスター、そのテクニックはかなり、ベッドの上でもいいはずよ」
「ニナ、深い所まで言ってくれるのね、なんだか熱くなってきたわ」
「フレイは元から顔が赤いわ」
「仕方ないでしょ、炎の魔力を流してもらうとしばらくこうなるの」
シンシが炎の魔力を私に流す訓練。
この訓練法は効果が早く出る代わりに体が熱を持つ。
熱を持つ原因はそれだけではないけど、私は訓練のせいにした。
「私は魔法の基礎が足りないって遠回しに言われているのよねえ」
「ブレインネルは4属性を使うわ。基礎に時間がかかるのは仕方ないじゃない」
「学園の時は出来る方だと思ってたんだけどねえ。ここに来ると、冒険者のみんなが強くて焦るわ」
「フレイちゃんもブレインネルちゃんも男性に声はかけられてますよね?」
「フレイほどじゃないけど何人か、声はかけられたわ。でも全部断わってる」
「いい人はいないんですか?」
「知らない人と付き合うのは、ちょっとねえ」
「お友達からでもいいと思います」
「考えとくわ。でも今はもっと冒険者として頑張らないと。お金が足りないのよ。マジックアイテムを買いすぎた~」
「またフライに頼んでダンジョンに連れて行って貰いますか?」
「シーフマスターに何度も頼むのも悪いのよねえ」
「分かるわ」
私は話をしながら遠くで話をしているシンシが気になっていた。
シンシからお願いをされた事を、また思い出す。
『スラッシュさんの前では私の事をどんどん悪く言っていただいて構いません。私は嫌ではないので』
私にとって都合のいい言葉。
シンシに訓練を見て貰っている負い目。
シンシを変態呼ばわりしておいて自分はベッドの上で自分を慰めた負い目。
私はそのお願いに首を縦に振っていた。
【シンシ視点】
食堂に入ると剣聖スラッシュさんに呼ばれてテーブルに座った。
「フライシャドーさんも一緒の席とは珍しいですね。一緒の依頼終わりですか?」
「最近どうだ?」
「どう、とは?」
「フレイだよ」
「ああ、気持ち悪い物を見るような目で見られる事があります。ですがその視線もまるで雷のように私の心に刺激を与えてくれます」
「ダメじゃねえか。ま、お前は無理だよ。変態紳士」
「しかし、諦めはしません」
「お前がフレイに近づけば近づくほどフレイの好感度は下がっていく」
「恋は一種の状態異常です。恋をして狂ってしまう、この心はそんなに異常なのでしょうか? 恋をすると皆狂います、なのである意味正常とも言うことが出来ますよね?」
「お前は思った事を言いすぎなんだよ。お前はもうそのままでいい。フライシャドー、どうなんだ?」
「ニナとの関係、という意味ならニナの、プライバシーがある」
「お前、あの3人の会話が聞こえてるんだろ? シーフマスターだもんなあ? 俺でも聞こえるぜ」
「スラッシュさんも地獄耳ですよね」
「ニナがあそこまで言ってるんだ。どうよ?」
「1つだけ、言う」
「おう、どうよ?」
「体が、柔らかい」
「そうか、顔は可愛いとは思うぜ? だがちんまいニナは好みじゃねえなあ」
スラッシュさんはニナさんの魅力を分かっていない。
そしてフライシャドーさんの顔が一瞬曇った。
フライシャドーさんがニナさんの魅力を伝える事はニナさんのプライバシーに関わる。
だから言えない。
スラッシュさんは気づいていない。
ニナさんはかなりの巨乳だ。
そしてニナさんはその巨乳のせいで服の上から見ると太って見えてしまう。
スラッシュさんの言葉『体が、柔らかい』その本当に意味をスラッシュさんは理解していない。
そして肌を出さない北のブルーフォレスト出身、その女性特有の肌の白さときめ細やかさ、その意味も含んだ『柔らかい』なのが分かった。
フライシャドーさんの言葉は深い。
対してスラッシュさんはその言葉を浅く聞いている。
私はニナさんの肌のきめ細かさ=同じ北のブルーフォレストから来たフレイさん=フレイさんのエロティックな体までを一瞬でイメージ出来た。
「フライシャドーさん、ありがとうございます。おかげで同じブルーフォレスト出身のフレイさんをより鮮明にイメージすることが出来ます」
「変態紳士が、笑顔で言うな」
「……シンシには、意味が伝わりすぎたか」
「はい、とても刺激的です」
「ふ、分かった。ならいい」
「男と話してもダメだな、あっちに行こうぜ」
スラッシュさんが立ち上がってパーティー白い雪玉のテーブルに向かうと私とフライシャドーさんも続いた。
「スラッシュさん、嫌がらせでニナさんの隣に座るのはやめましょう。
「ち!」
「さあ、フライシャドーさん、ニナさんの隣にどうぞ」
「助かる」
フライシャドーさんがニナさんの隣に座る。
するとすかさずニナさんがフライシャドーさんの腕に絡みつく。
「ち! 見せつけやがって」
「もうお二人は付き合っています。あまり邪魔をするのはやめましょう」
「くそ、付き合う前に妨害しておけば」
「シンシ、聞きたい事があるわ」
「何でしょう私に答えられる事なら何なりと」
私はすかさずフレイさんの隣に座って距離を詰めた。
「調子に乗らないで」
「それで質問は何でしょう」
「だから近いのよ」
「はっはっは、シンシ、お前には負けねえ! いや、もう負ける以前に勝負にすらならねえ!」
「はあ、もういいわ。シンシ、あんた午後は暇? もし良かったらダンジョンに連れて行って」
「行きましょう」
「気を付けろよ、紳士のやつ、フレイに興奮していたぜ」
「シンシはいつもこんなよ」
「フレイ、シンシはいつもと、変わらない。ただ、約束には、慎重にな」
「ええ、もパンツを見せる契約はしないわ」
「では、食後すぐに出発でどうでしょう?」
皆が同意してダンジョンに行く事が決まった。
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