古代史を題材としながらも、まるで現代にも通じる「愛」と「権力」の葛藤が、詩情豊かに描かれた傑作です。
特筆すべきは、十市皇女の内面描写。彼女が抱える言葉にできない悲しみや、誰にも理解されない孤独が丁寧に掬い上げられており、スクロールするたびに心を締めつけられました。
また、大海人皇子・天智天皇・鸕野讃良といった歴史上の登場人物たちも、「権力の光と影」に翻弄されながら生きる人間として深く立体的に描かれています。とりわけ、鸕野讃良の冷徹な論理と視線には戦慄を覚えるほど。
文章の格調高さもさることながら、静かで重厚な抒情が随所に漂っており、日本文学の古典的美しさを現代に蘇らせたような作品です。
歴史ロマンや和風ファンタジーが好きな方、あるいはしっかりと人物の情動が描かれた物語をお求めの方には、ぜひとも読んでいただきたい逸品です。