出会いの季節


 休みが開けて、また一週間が始まる。

 学校が始まって半分の月が経とうとしていた。


「麗華ちゃん。昨日見かけたんだけど、隣にいた人って誰かな。」


 橙色の少し明るい髪色をしたクラスメイトの女の子がそう言う。

 昨日…確かに誠也と二人で出かけてたな…

 どう返そうか。

 少し考えてからいつもの笑顔をして答える。


「んと、知り合いだよ。…私のお兄さん的な感じの人かな。」

「そうなんだ!」

「というか、どこで見たの?陽菜。」


 私はそんな疑問を彼女になげかける。

 彼女はすぐに「駅前のカフェ。」と答えた。


「窓から二人を見てたんだよね。麗華ちゃん、何か楽しそうな顔してたな〜」

「!?」

「…好きでしょ。彼の事。」


 陽菜の言葉に思わず固まる。

 …七瀬陽菜…彼女の直感は鋭いという噂があり、油断出来ない相手だ。

 それはそうと、彼女は楓以外で出来た中学初の友だちだ。

 そんな彼女は元気な子で明るい子だ。楓とは似た感じだがまた少し違った面白い子。

 もちろん二人とも気が合うそうで、二人に巻き込まれることもある。


「んで、どうなの?」

「うーん…そういうの分からないかな…あはは…」


 私が苦笑いでそごまかすと陽菜は「羨ましいな…」と口にした。

 なんでも、彼女は男の人に対して心から楽しいと感じる事が無かったらしく、私のあの時の表情を見てそんな人が近くにいるという事が羨ましく見えたらしい。そんな事を言う彼女の表情はどこか曇って見えていた。


「まだ私達中学生始まったばかりだし、そんな事考えなくてもいいと思う…」

「そういうものなのかな。…楓ちゃんはどう思う?」


 そう陽菜に答えると彼女は近くにいた楓を呼んで質問をする。彼女は「どうしたのー?」と柔らかい声色でやって来て陽菜にさっきの質問を聞き返していた。


「陽菜ちゃんは大変だねぇ…私はまぁ、いない訳じゃないけど。会うのが難しいのよね。」


 楓…多分それ茅葺の事だよね…あれは流石に会うの厳しいというか無理だと思う…

 なんて事は言わないで心に閉まっておこう。


「そうだ!お父さんに話して会えないか聞いてみるか!」

「え!?」

「楓…流石にそれは…」


 楓の突拍子もない思いつきに私と陽菜は驚き戸惑う。

 この子の家柄は確かに凄いけど。流石に七強に会うのは厳しい気がする。

 かく言う私は毎日見ているが…

 というか…一応念の為に楓が会いたい人の事を聞いてみるか。


「楓。会いたい人って…」

「茅葺さんだよ。また会いたいなぁ…」


 やっぱりか。

 陽菜の様子を伺うと豆鉄砲を食らったような顔をしていた。


「またって事は一度会った事があるの!?」

「うん。」


 陽菜の問いに楓は頷く。

 彼女は本当かどうかを私の方に無言で向いて質問する。私が頷くと彼女はまた静かに驚く。


「金持ちって凄いなぁ…」

「そんな事ないよぉ…そうだ!二人とも、今日は暇かな?行きたい所があるんだよね。」


 楓がそう言って私と陽菜は顔を見合せて首を傾げた。

 放課後、私達は楓に連れられて近くのとある施設にやって来た。


「いやぁ…前から気になってたんだよねぇ。ガーディアンを体験出来る施設なんだけどさ。」


 このマーク、私の家の…望月財閥の物だ。

 こんなのを作っていたんだ。

 こういう施設はよくある。私も小さい頃は連れて行ってもらった記憶がある。

 なぜ今更こんなものを作ったのかな…


「ここには最新の設備が揃ってるらしいんだよね。早速いこ…あれ…」

「あはは…閉館してるね…」


 陽菜は苦笑いで貼り紙を見て言う。

 

「楓ちゃん、次の休みに行こうよ。夕方じゃ流石に厳しいよ。」


 楓のテンションがガクッと落ちたのが目に見える。尻尾があるなら一瞬で垂れ下がっていそうだ。


「それじゃ、次の土曜にしよ!」


 土曜日は確か、誠也について行って魔物の討伐をするんだったな…


「ごめん、難しそう。日曜日なら行けそうだよ。」

「それじゃ、そこかな。陽菜ちゃんは問題なさそう?」

「私はいつも暇だから大丈夫!その日にしよ!…凄く楽しみだよ!」


 私達は日曜日にまたここに来る約束をして帰った。

 翌日…体育の時間、私はいつも通り体を動かしていると男の子が絡んできた。

 

「望月!今日は負けねぇからな!」


 面倒…

 中平 良…こいつは体力テストの後から何かと私に絡んでくる。

 こういう運動系のものになると勝負をしかけてくるし…

 今日の体育は確か…ソフトボールだ。

 同じグラウンドで、男女別でやっているのにも関わらずこうしてやってくる。

 私は別にいいけど、他の子が萎縮している。

 迷惑にも程がある。

 …はぁ。


「10球勝負でいい?バッターかピッチャー選んでよ。」

「いいぜ。望月がどっちか選べよ。」

「ピッチャーをするよ。構えて。」

「おう。」

「…それともうひとつ。これで私が勝ったら、体育の時に来るのはやめて。周りの子が迷惑してるから。」

「分かったよ。さっさと投げろよ。」


 …何でこんな奴に目を付けられたんだろ。

 ま、さっさと勝つか。

 ソフトボールは野球と違って体から肘が離れるとペナルティを貰う。

 後、下手投げが面倒だ。出来ないこともないけど。

 ボールを構えて腕を風車のように回して投げる。投げたボールは彼が振るバットの前で急降下する。

 10球全て私は変化球を投げた。

 これは優希さん仕込みの技だ。彼は勿論全て空振りする。

 …周りは彼が私をライバル視してると言うが。

 私は邪魔としか思っていない。

 なんなんだろう、この人は。


「私の勝ち。もう邪魔はしないでね。」


 私はそう冷たく言うと彼は「次は負けない。」と言うが気にとめない。

 私が皆の元へ戻ると皆から賞賛された。

 賞賛の他にも男子というか彼に野次を飛ばしたり私に同情したりする声もある。

 まぁ、こんな事があって体育では来なくなったけど…まだ絡んでくる。

 中には変な噂まで流れる始末だ。迷惑にも程がある。

 先生にも話しても解決はしないし…誠也に話すか。

 家に帰ると誠也はまだ帰っていなくて土方さんが庭で素振りをしていた。

 彼に他の皆のことを聞くとまだ帰ってきていないと答えた。


「…そうだ。戦友なら恐らく工房にいるだろうな。場所は分かるか?」

「前行った場所だよね。行ってくる。」

 

 私がそう言って向かおうとすると土方さんが呼び止めた。


「着替えていけ。汚れるぞ。」

「あっ…忘れてた。」


 工房は結構汚れやすい場所だ。土方さんに言われるまですっかり忘れていた。

 着替えて鏡の前でおかしい所が無いか、髪を整えたりと色々気になってしまう。

 …いや、誠也に会うだけなんだからこんなにしなくても……とりあえずこれで行こう。

 私が工房に足を運ぶとちょうど誰かと休憩している誠也の姿が目に入った。


「ん?お兄ちゃん、お客さんやで。」

「お?…麗華か。どうした?」


 誠也の事を「お兄ちゃん」と呼ぶ存在に私は目を向けた。

 彼は「俺の顔になんかついとるか?」と言って誠也に顔を向ける。


「何も付いていないな。所で、麗華は何をしに来たんだ?」

「あっ、と。相談したいことがあって来たんだよね。」


 私は誠也の質問にそう答えると彼らは首を傾げた。

 私はよく絡んできてウザイ男子の事を話すと二人は「それか。」と声を揃えて反応した。


「…誠也。なんなの?あれ。」

「男ってのは好きの裏返しってのでそういう反応をするらしいぞ。俺には理解出来ないが。勇はどうだ?」

「分からん。好きな子いたら俺はその子いじめるなんてせぇへんし。」


 二人はそう答えた。男の子はそういうものなのか…

 理解出来ないな。

 でも誠也達は男なのに何故分からないのだろう。

 その疑問を二人に投げると誠也は「そんな余裕は無かった。」と、勇は「あの時は生き残る事しか考えられなかったから。」とそれぞれ答える。

 二人の出自が気になる所だ。


「そうだ、勇。最近ディーテと会ったんじゃないか?」

「会うたで。それがどうしたん?」


 二人の間に緊張感が走る。

 しばらくしてから勇は「あの人の手伝いをする事になったわ。」と言う。

 …恐らく、彼はディーテさんの調査を手伝うという事だろう。


「まぁ、話は聞いてるし、俺もアレに遭遇してるわ。…アレ、結構深いで。魔物やけど、どこか波長がズレとる。誰かが意図的に細工してるように感じたな。そこら辺含めて見てみるわ。」


 勇はそう言って立ち上がった。


「そろそろできるな。」

「ほんま助かるわ。武器も道具も店とか政府頼るよりもずっと出来が良いし早いし。」

「まぁ、全部装置のお陰だけどな。」


 誠也が後ろのガラスを覗きながらそう答えると勇は「それを作ったんはお兄ちゃんなんやし、結局お兄ちゃんが流石としか言えん。」と表情を緩ませながら言うと誠也は無言で頷く。

 

「さて、出来たな。」


 誠也はそう言って作業場に入ってからしばらくして大きいハンマーを持って戻って来た。


「ありがとう。…うん、魔力も上手いこと流れとる。」

「んじゃ、頑張れよ。」


 誠也が拳を出して勇と拳を合わせる。

 二人は微笑んで軽くハグをした。

 …話し方にはだいぶ差があるけど兄弟に見える。

 いや、兄弟なのかな…?

 勇が帰った後に誠也に勇との関係を聞くとなんと実の兄弟だったことがわかった。

 何故あんなに話し方が違ったんだろ。


「誠也…」

「よし、帰ろう。…ん?どうした?」

「ううん。呼んだだけ。」


 私はそう言って聞きたいことを胸の奥にしまって彼と一緒に帰る。

 帰ると家には全員帰っていて夕飯の支度をしているところだった。


「麗華。」

「どうしたの?」

「呼んだだけだ。」

「なにそれ。」

「君がよく俺にするだろ。さ、皆を手伝おう。」


 誠也はそう言って手を洗ってからリビングへと向かった。

 彼のさっきの冗談といい、私の心を少し揺らしてくる。最近ずっとだ。

 彼は自覚していないというか思っていない…私、どうしたのかな…


「麗華さん。ぼーっとしてどうしたのですか?」

「あっ、ごめん、手伝うよ!」


 和哉さんに声をかけられて我に返ると直ぐに動き出す。

 …これも、きっと私の違った何かの出会いなのだろう。

 

 

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