二人でお出かけ
初めて魔物の討伐をして、初めてガーディアンとしての仕事を見て、初めて誠也の戦い導く姿を見て、私は強い刺激を受けていた。
「…凄かった…」
夏の日差しが強くて暑い、何も無いこの暇な日にベッドで横になりながら思わず呟く。昨日帰って来てからずっと誠也の事を考えていた。
私はあんなふうになりたい。優しく、強く。
それに…もし私が大きくなって……その時誠也の相手がいなかったら…
いやいやいや…そんな事考えちゃだめ…
彼は私を育ててくれてる人。それ以上は思ったらだめ…
そう心の中で自身に言い聞かせる。
そういえば誠也は今日何をしてるんだろ。
私は部屋を出て彼の部屋に向かい、彼の部屋のドアにノックをする。
彼の返事を聞いて入るとそこには本を読んで寛いでいた誠也がいた。
「麗華か。どうした?」
ソファに深く座っている誠也は本を眺めながら私にそう質問する。
「…誠也に会いたくて来た。」
私がそう冗談半分で答えると一瞬時が止まったような空気が流れ、すぐに暖かい空気に切り替わったように感じた。
「会いたくてか?可愛いことを言ってくれるな。」
私が隣に座ると誠也は微笑みながら本を閉じてそう言う。
彼の本から柑橘系の香りがして思わず鼻を利かせてしまう。
「いい匂い…この本から?」
「鼻が利くね。そうだ、厳密に言えば…この栞からだな。」
誠也は本を開いて栞を取りだし、私に差し出した。
いい匂いがする。なんだか落ち着くな。
「ほしいか?」
「え?いいの?」
「あぁ。まだあるからな。どうせなら新品にしよう。」
誠也は立ち上がって引き出しを開けて箱を取りだして私の目の前でそれを開ける。
ラベンダーの香りがするものや、ミントの匂いがする物もある。
「好きなのを一個だけ選びな。」
「んじゃ、これにする。」
私はラベンダーの香りがする栞を手に取った。彼は「いいセンスだ。」と笑って箱と本を片付けた。
「所で君は今日暇かな?」
「…!うん。」
「少し出かけようと思うんだけど、行くか?」
誠也の誘いに私は頷く。
彼は私を見て「よし、準備しようか。」と言う。私も準備の為に一度自室に戻った。
最近暖かくもなっているし、明るい色の服にしよう。
誠也ってどういう服が好きかな…
私は鏡の前で色々な服を手に取って唸る。
しばらくしていると彼の声がドアの向こうからする。
「大丈夫か?体調悪くなったか?」
「ううん!大丈夫!すぐ行くから!」
私はそう早口で答えて手に持っていた服に着替え、髪を整えた。
そしてお気に入りのポーチをかけて直ぐに部屋を出る。そこには誠也がおらず、急いで階段を下る。
完全に油断していて階段を踏み外して前に落下する。目を思わず閉じて衝撃に備えるが…
「っと…麗華。大丈夫か?」
そんな声がして私は目を開ける。するとそこには誠也が心配そうな表情を浮かべて私を見ていた。
そして私はあることに気がついた。
今、私は誠也に抱かれているという事に。
「っ!?」
「もう大丈夫みたいだな。気を付けなよ?」
誠也はゆっくりと私を床に下ろして肩を優しく叩く。
彼は立ち上がって靴を取って外に出る準備を済ませた。
「さて、行くぞ。」
誠也はそう言って扉を開け、私は急いで靴を履いて彼を追う。
そういえば、二人きりで出かけるなんて滅多に無い気がする。
特に誠也はプライベートでの関わりとか全くなかった。
「誠也。どこに行くの?」
「図書館だ。研究の資料がいるからな。」
そうだった。彼はガーディアンをやりながら研究者してたんだった。
すごいな…私にもなれるかな。
彼がかっこよく見える。いつもかっこいいけど…違う雰囲気のかっこよさだろう。
「そうだ、俺がどんな研究しているか知りたがってたよな。見せられなくて悪かった。」
「そんなの話してたっけ。」
「まぁ、数ヶ月前の会話だからな。君は忘れているだろうけど。」
誠也は笑ってそう言う。彼と確かにそんな会話をした記憶があるけど朧気だ。
でも、そうやって覚えてくれてたんだ。
…嬉しいな…
「俺の研究ってのは魔力回路についてだ。」
「魔力回路…確か魔法を使う為に必要な…」
「そう。人間の魔力回路は生物的に不完全でな。それをどう進化させるか、どうすれば進化できるかを調べている。」
誠也が続けてそう言って軽く体を伸ばす。吐息を零して「いい天気だ。」と呟いた。
「そうだ、麗華。せっかくだから図書館以外にも見て回ろう。君のオススメの場所も知りたい。」
彼は私の事を知ろうとしてくれてるのかな。
何か、嬉しいかも。
そしてしばらく歩いていると目的の図書館にやって来て早速誠也は目的の本があるであろう場所へ足を進める。
迷いなく進む彼を見てここに何度も来ているんだと感じた。
一つの本を手に取って彼はペラペラとページをめくる。しばらくして「うむ…」と頷いて本を閉じる。近くにいた私を見ると彼は「興味のある本とか探さないのか?」と聞く。
「…誠也が見てる本が気になる。」
「え?分かった。…ふふっ、嬉しいな。ならこれを借りていこうか。近くの喫茶店があるから、そこで少し一緒に見よう。」
誠也が嬉しそうにそう声を出す。
彼の足取りもどこか軽く見える。
本を借りて図書館を出て、私は誠也と一緒に喫茶店に向かう。
扉を開けると鈴の音が響き、ウェイターがやって来て席に案内された。一息つくと誠也は早速メニュー表を取った。
「誠也はよく来るの?」
「ん?まぁそれなりに。」
「そうなんだ。誠也のオススメはある?」
「そうだな。パンケーキかな。これなんか凄くいいぞ。生クリームとフルーツが乗っていて好きだな。」
誠也はそう言って私の様子を伺う。
期待の眼差しに私は押されてそれを食べる事にした。
誠也はコーヒーだけを注文した。
「誠也はいいの?」
「食べる気分じゃないからな。」
おすすめで今食べる気がないパンケーキをなぜ勧めた…なんてツッコミは心の奥にしまい込んで注文したものが来るまでさっき借りた本を二人で見る。
…正直分からない。
それを悟った誠也は「この本は初心者向けではないから無理もないか。」と苦笑いをしていた。
「まぁ、早くても半年後かな、こういうのを学ぶのは。その時はちゃんとした分かりやすい物を用意しておくよ。」
誠也はそう言って本をしまう。ちょうど注文していたものが届いて私の目の前に置かれたパンケーキに驚く。
もはやパンケーキではなくケーキに見えるそれに声も出なかった。
「い、いただきます。」
「どうぞ。」
凄く美味しい…生クリーム、生地の甘さとフルーツの甘酸っぱいコンボが癖になる。
食べる手が止まらない。
いつの間にかそれを平らげてしまった私を見ると誠也は微笑み、「美味しかっただろ?」と言い、私は頷いて一緒に頼んでいたジュースを手に取る。今飲んでいたジュースはいつもとはどこか違う別の味に感じた。
「麗華。君のオススメな場所を教えてくれるか?」
彼は優しい笑みを浮かべてそう言う。なんか…デートしてるみたい…
誠也が彼氏なら……ううん、違う、誠也は私を育ててくれてる人…育ててくれてる人…勘違いはダメ。うん。
「それじゃ、行こ。」
誠也が会計をしている間に私は目的地に行く道のりで一番遠回りなルートを考える。
会計を済ませた誠也が「行こうか。」と言って扉を押した。
「それじゃ、案内頼んだよ。」
誠也が私を頼りにしてくれている。
ちょっと嬉しいな…
この道は面白い店もあるし、可愛い服も売っている店もある。
この道は一番遠回りでもある上に、足止めを食らいやすい道である。
「おっ、あの服可愛いな。麗華。興味無いか?」
「えっ…似合うかな…」
「少し寄ってみようか。それか帰りに寄るか?」
誠也は目を輝かせながらそう言う。
迷ったけど、こういうのは帰りに…というか誠也が服に興味を示すのは驚いた。この先もそういう店が多い…まぁ、帰りでいいか。
「じゃあ帰りに行こうよ。その方が楽しめるし。」
「そうか。んじゃ、早速行こうか。」
道を進む度に足を止めたりキョロキョロと見渡したり、誠也が珍しく落ち着きが無い。
これ、私からはぐれることがないか心配になる。
…よし。
「誠也。手、出して。」
「…どうぞ。」
何も知らずに手を出す誠也。私は彼の手を握る。
「なんだ、手を繋ぎたかったのか。」と彼は言って微笑む。
私は爆発しそうなぐらい緊張しているのに彼は全く緊張していない。なんか少し腹が立つ…
「ほら、行くよ。」
「おっととと…そんなに急ぐのか?」
「…」
私は無言で目的地まで誠也を引っ張っていった。
そして早歩きで連れて来た場所は放課後に楓や友達とよく行く商業施設「スカイハイ」ここには何でも揃っているから何回来ても飽きないし…このビルの屋上は眺めがいい。
「なるほど。ここなら何度か来た覚えがあるな。」
そのビルを目の前にして誠也はそう口にする。
彼は「懐かしいな…」と呟いた。その時の彼の表情は見えなかったが、何かしらの思い出があるように思える。
「さて、行こうか。麗華や皆の間で流行っているものを知りたいからな。」
彼は微笑んでそう言って私達はその中へ足を踏み入れる。
休日というのもあり人が多い。
「多いな…」
「そうだね。誠也。私がここで一番好きな所があるんだ。」
「ほう、気になるな。」
私は彼を連れてこのビルの屋上…通称「空中庭園」に連れていく。
この街ではほかのビルよりも高く、一帯を見下ろせる場所だ。
「…おぉ、まさか。屋上に入れるようになっていたんだな。」
「前は入れなかったの?」
私がそう聞くと彼は頷く。そして彼は「よくここに来るのか?」と私に言う。
「最近来てる場所。」
「そうか、いい所だな。…夜だとさらに綺麗に見えると思う。どうだ?夜まで待ってまた見に来るのは。」
誠也がそう私に言う。こんな誘いを受けない訳はない。
私は思わず表情が崩れ「うん」と頷く。そんな私を見たからか誠也は「俺のわがままに応えてくれてありがとう。」と言って微笑む。
夜になるまで私達はさっき来た道の店に寄ったりして時間を潰していた。
凄く楽しくてあっという間に時間が過ぎていってしまった。
そしてあの場所に戻る。誠也は凄く楽しみにしているようで足取りが軽かった。
「楽しそうだね。」
「あぁ、夜景は好きだ。ここから見る景色はさぞ美しいんだろうな。」
運良く二人きりになったエレベーター、静かな空間が包み込んで私の心臓の音が騒がしくなる。
どこまでも優しくて、私の事をずっと考えてくれたりして、強くて。
ちょっと変な所もあるけど、そこが面白く見える。
誠也は私の事をどう思っているのかな。
「誠…」
「おっ、到着だ。行こうか。」
私が声を出したのと同時にエレベーターの到着の合図が重なってかき消されてしまう。
軽い足取りで出る誠也を追って外に出るとそこには絶景が広がっていた。
「綺麗だな。」
「うん。」
「麗華。好きな人が出来たらここには絶対連れて来た方がいいな。」
誠也は冗談っぽく言う。彼の表情はどこか幼さを感じた。それでいて触れると割れそうな雰囲気も感じる。
私は彼をなんだと思っているのだろうか。そんな疑問が生まれる。
ただ、私は彼を大切な人だと思っているのは分かっているけど…
「誠也。」
「どうした?」
「誠也は…私の事をどう思っているの?」
思わず聞いてしまう。
これで嫌いだなんて言われたらここから飛び降りてしまいそう。
しばらくの沈黙の後、彼は口を開く。
「そうだな。愛している。君にこの思いを届けられているか分からないがな。」
私は誠也の言葉に小さく頷く。少しづつ彼との距離を近付けて彼の手に触れようとするが、彼はちょうど時計を見てしまって触ることが出来なかった。
「…麗華。また見に来よう。」
「…!うん!」
帰りに誠也とレストランに寄って帰るといい時間になっていた。
それに服も買ってもらって特別な気分…
「麗華ちゃん、誠也とのデートはどうだった?」
「優希さんっ!?で、デートって…」
ぼーっとしていると隣に優希さんが座ってきてそう言う。そして肩を組んで私をつついてきた。
…まぁ…デート…うん…
「楽しかった…」
「誠也ー!麗華が楽しかったてさ!!」
「優希さん!?」
優希さんが誠也に私の感想を大声で言う。彼はその声を聞いて「それはよかった。」と返す。
…なんか淡白な返事だけど、それが誠也だよね。
…また誠也と出かけたいな…
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