謎の魔物の正体
謎の魔物の正体
今週の学校も終わって、土曜日になると毎週誠也の任務に連れて行ってもらっている。
ガーディアンの仕事は魔物退治だけではなく魔物の動向や環境の変化に対してどう対応するかを話し合うという事もある。
そして今日はこの国のガーディアンの基地とも言える議会という場所に来ている。
という訳で誠也の服装もいつもとは違って正装だ。黒に近い灰色のマントを羽織って暗い色に統一された彼を見ると威圧感をかなり感じる。
…難しい話で正直退屈。
ここには七強の皆さんが集まると思ったけどそうではないらしい。
今日来ている七強は誠也だけだ。
ここに来るまでに彼は軽く十回はため息をしていた。
相手は国の偉い人とか何か七強よりも高い地位の人だ。彼は「現場に立ちすらしない凄く偉い人達だ。」と言っていた。
そして今の彼は…いつもとは大違いでめちゃくちゃ目が怖い…
「それじゃ、俺からだが…魔物の動きには特に変化は無いが、気がかりなものがある。」
誠也はとてつもなく重たく低い声で最近の謎の魔物の話をする。
「その魔物だが…一部の魔物からこの国の国旗の模様の物が出た。それに型番のようなものも書かれていたが。どういう事か知っていたら聞かせてもらおうか。」
誠也は画面にそれを映し出して謎の魔物についてを話題に出した。
それを見て偉い人達は大袈裟なリアクションを取っていた。
「魔物を作る技術…そんなものが出来ているとは信じ難い。何も知らないか?」
「まさか。そんな技術があると思うか?魔物が現れて1000年。それでもまだ、製造…ましてや改造する技術が確立していないんだぞ!?」
それを皮切りに議会の人間は騒ぎ始めた。何も知らないと言いたい声色で誠也にそう彼らは答えた。周りの人間も捲し立てるようにそう騒いで耳が痛くなる。
「わかったよ。何も知らないんだな。」
誠也がそう言った後に訪れる沈黙。これ以上聞いたところで意味が無いと感じた誠也は「そうか。」と一言。
その後に恰幅のいいおじさんが「最近、西の人間の行動が不穏だ。西の人間がその謎の魔物を用意しているのでは?」と発言したその時、ほんの一瞬だけ凍てつくような鋭い殺気を感じた。
今まで感じたことのない気配だった。
その空気を一瞬発したのは私の隣にいた誠也のものだとすぐに分かった。
周りの人は感じていないようだ。
「そう考えるのは早すぎる。西には人も物も、経済的にもアレをどうにかするなんて事は出来ないからな。というかその不穏な動きというのはなんだ?」
「そうだった。君は西の人間だからその辺は詳しかったな。失礼した。まぁ、不穏な動きというのは…アイツらが雇い主のガーディアンを襲撃するという事件が増えているというものだ。近い内に奴らに制裁を与えなければならなくてな。」
恰幅のいいおじさんがそう言うと誠也は小さくため息をする。
…「あれ」というのもはなんだろうか。
「そうか。話を戻すがこの魔物の件は何も知らない。という事でいいか?」
誠也の問いに彼らは頷くと彼は「現場はそれ以外変わりはない…だが、嫌な予感がする。謎の魔物のせいで元々の魔物の生息域が奪われて災害級の被害が近い内に出る可能性が高い。危険度の高い魔物の目撃情報もある。」と言うと次は偉そうな髭をぶら下げた老人が「その対策を打っておこう。」と一言答えた。
しばらくそういう話になって話し合いが終わると誠也が「やっと終わったか。」と呟いた。
「誠也。大丈夫?凄く疲れてる顔してるよ?」
「…大丈夫だ。心配してくれてありがとう。」
誠也はそう微笑んで私に言って席を立って「行こうか。」と一言。私は彼の心配をしつつもついて行く。
大理石で出来た廊下を歩いていると目の前に見た事ある人が壁に体を預けて立っていた。
ディーテさんだ。綺麗な金色の髪を揺らし、澄んだ紅いめを輝かせている彼女は私達を見つけるとすぐにこちらへやって来る。
「やっほー!元気にしてたかな?」
「相変わらずだ。ディーテは。」
ディーテさんの元気な声に対して誠也は呆れた声でそう答える。
彼女はじっと彼を見つめて突然自身の豊満な胸を寄せて「元気なさそうだし触ってく?」と冗談っぽく言う。
そんな彼女に対して彼は「遠慮しておく。」と切り捨てて場所を変えて話をする事になった。
「どうだった?調査は。」
「んまぁ、大変だったよ。颯と勇君のおかげで助かったけどね。」
例の魔物の事だろう。誠也はディーテさんに今日の事を伝えると彼女の表情が険しくなる。
そして突然話題を彼女は変えた。
魔物の話からいきなり誠也の事を話し始める。
「そんな事よりも、誠也はどうなの?…人を心配するほどの余裕は無さそうに見えるけど。」
「そう見えるか。」
「その目、昔から変わらないね。故郷が心配なのかな。」
ディーテさんの質問に誠也の顔が曇る。
彼には過去に何かあったのだろう。
「私が元気付けてあげよっか。」
「別にいらない。というかそんな歳じゃない。」
「私からしたらずっと小さいままなんだけどな…麗華ちゃん。誠也君ってこう見えて…」
「バカ…!何を吹きこもうと!?」
ディーテさんが私に何かを言おうとすると誠也は思わず彼女を止めにかかる。
「…はぁ。とにかく、話はそれだけか?」
「そうだね。あとそれと…」
二人はそう短く言葉を交わして席を立つ。
ディーテが突然彼を壁に追い詰めて体を預けた。
二人の顔が近くて私は思わず顔を隠しつつも指の隙間から二人を見る。
彼女の方が誠也よりも少し身長が高いのか…というか何か話してる…?
彼女が彼の耳を甘く噛んで離れると誠也は「そういうのは颯にしてやってくれ。」と言うと彼女は「颯も、勇くんも、誠也くんも愛してるから全員にしてる。だから安心して。」と答えてその場を去っていった。
誠也がため息をついていたのを見て私は彼を心配した。
「…まさか噛まれるとは思っていなかったが。麗華?どうした?」
「なんでもない。」
ちょっと羨ましく思ったけど…
誠也は「そうか。そうだ。君に渡したい物がある。」と言って微笑み、私を連れてある場所へと向かった。
それはこの基地での誠也の部屋だった。
ここで何をするのだろうか…
「誠也…?」
「君にプレゼントだ。…俺がいなくても大丈夫なようにな。」
誠也はそう言って部屋のボタンを押すと何も無いところから六角形の模様が出て、それの中から色々な装備が出てきた。
「これらを君にプレゼントする。まぁ、政府のように鎧は作れないけどこういう武器ならできるからな。君の刀を出してくれないか?入れておくよ。」
しかし、どうしてこんなものを。
そんなことを考えている間に誠也はその武器達をしまい込んでいく。
「よし、あとは使い方をざっくり教えるから行こうか。」
基地の訓練所にやってきて早速私は言われるがまま戦機システムを起動する。
「それじゃ、君が戦機鎧・ホムラになるいつもの感じでさっきの兵器を出してほしい。」
誠也がそう言う。私は意識を装備に向ける。頭の中にホムラ以外に様々な武器が浮かんでくる。一つ気になった武器を選ぶように意識を向けると手にパイルバンカーが装着された。
それを見て彼は頷いて使い方の説明を始めた。
トリガーを引きながら腕を突き出すと杭が勢いよく飛んでいく。
何枚もの鉄の壁を打ち破ったのを見て言葉を失ったが…これは相当な破壊力がありそうだ。
その他にも大きなアンカーや大きな盾もあった。
これだけでも充分戦えそうだ。しかし、誠也はなぜこのようなものを…
「麗華。今度からはそれを使った訓練もする。今後は俺が守りきれない事があるかもしれない分、自身を守れるようにそれを使えるようにしてくれ。」
話が急で分からない。彼は言葉が足りない事が多い。
何を隠しているのだろう。
…心配をかけたくないのかな。
「誠也。何か聞いたんだよね。私にも教えてほしい。」
私の言葉に彼は小さく俯き唸る。私は彼をじっと見つめて無言で「教えてほしい」と訴えた。
「わかった。全部は無理だから一部だけ話すよ。」
根負けした彼は私にディーテさんから聞いた話をしてくれた。
謎の魔物の正体は政府が捕獲した魔物を改造してクローン化をしていたという事だった。
さらにクローン同士を掛け合わせて更に強い魔物を作り出していたというのも。
それが彼が、彼女から聞いた話だった。
「これを使ってどうするのだろうか。西都に圧力をかけるのか…」
彼は手に顎を乗せて思考する。
こうなると長い。
「誠也、今はそれよりも私だよ。」
「そうだったな。」
私が彼をこの世界に引き摺り戻すと彼は「君を放ったらかしにする所だった。ありがとう。」と微笑んで言い、さっき渡した武器の事について話し始める。
「こいつらを渡したのは麗華を守る為だ。この先、俺も皆も麗華の傍にいるのが難しくなる事もあるかもしれない。」
「だから私にこんな武器を…」
「うん…すまないな。君には争いから出来るだけ遠ざけたかったけど…」
誠也は目線の高さを合わせて少し寂しい笑みを浮かべて言う。
そんな顔しないでほしい。誠也が私の事を思ってくれているのが嬉しいから…
「誠也、心配しないで。私が誠也の不安を全部壊すから。」
私は彼を抱きしめてそう伝える。
自身の胸に収まらない誠也を包んで頭を撫でると誠也は静かに「…君は優しいな。」と言葉にする。
誠也は私の背中と後頭部に腕を回して少し力を加えて抱いて「ありがとう。」と囁いた。
「さて、今日の社会勉強は終わりだ。どこかに寄って帰ろうか。」
「うん。誠也、行きたい所があるんだけどいい?」
「いいぞ。」
私は誠也を連れてこの前のスカイハイに向かう。
早速入って目当ての物がある場所へと引っ張る。目当ての物があり、誠也は「欲しいのか?」と聞いてきた。
「うん。」
「化粧か。そうか、君はそんな歳なんだな。」
誠也はそう言ってそれを手に取りレジへと向かう。
そこへ足を運ぶ彼はどこか嬉しそうな顔をしていた。
化粧品を買ってもらって表情が緩くなった私に彼は「他のやつも買うべきだったかな。」と冗談っぽく言った直後に彼のスマホに連絡が来た。
すぐに連絡を取って彼は小声で話しながら人気の少ない場所へ向かう。
彼の表情は変わらないが声のトーンが低くて重い。きっと何かがあった。
スマホを片付けた彼は「すまない。急な仕事が入った。」と言って私を置いて目の前から去った。あの急ぎ様は何か良くないことが起きているのだろう。
そしてこの日、誠也が帰ってこなかった。
でも、心配はしていない。だって彼はすごく強いから。
きっと長引いているんだ。
というか明日は楓達と出かけるんだった。早く寝ないと。
おまけ
今回のは手強いな…緊急とはいえ装備は整えて来たが。こいつは少しマズイ。全員救助は諦めて一度洞窟から抜ける。
「アルム!」
「了解!マスター!!」
走りながらアルムに攻撃を守ってもらって数匹の魔物を骸に変えた。しかし奴らの勢いは止まらない。
この感じは…造られた魔物だな。
ここに派遣されていた部隊は政府と一悶着あった奴が部隊長だった。
…彼の姿も見当たらない。見つけて話を聞かないとな。
この感じは…懐かしくも嫌な雰囲気だ。
「はぁ…うんざりする。」
どうせ助けに来た所で救助なんて絶望的。そんな事は分かっていた。
それに……
よくないな。さて、仕事だ。
「ふざけた連中だな。ほんとに。」
そう呟いて頭のサイズ程の岩を蹴り上げて砕き、弾丸のごとくそれを魔物に放ち迫り来る魔物達を始末しながらここの部隊長を探す。
全ての魔物を倒しても彼の姿を見る事は無かった。
「戻ってみるか。」
俺は洞窟に戻って痕跡が無いかを探す。
するとアルムが何かを見つけたようでそれを持ってくる。
「これは…制服の…」
青い血に汚れた制服の切れ端…生臭い匂いがする。
この周辺にも。
微かに奥から聞こえる骨を砕く音。この先に、何かがいる。
足音を立てずに奥へと進むと蛸のような魔物が人間を弄び、貪っていた。
「こいつは…」
なぜ人喰いタコがこんな所に…それに少し様子が違うな。
これは…蜘蛛の糸か。何かしらの魔物の能力は持ち合わせているな。
それにここにいる人間は全員死んでいる。俺以外の人間の魔力反応が無い。遅かった。
…焼き払うか。
「アルム。火を付けるから準備を。」
「了解だよ。酸素濃度も湿度も問題ない。」
アルムの環境分析を聞いて早速準備をする。
と言ってもアルムに着火してもらうだけだが。俺は燃料を投げ込んで閉じ込めるだけだ。
「頼んだよ。アルム。」
「うん!」
アルムが火をつけた瞬間におが屑を投げ入れて即座に離れて壁を崩して道を塞ぐ。そして洞窟から抜け出して30分程放置をした。
アルムに指示を出して先程塞いだ場所を開けてもらうとしばらくしてからアルムが全速力で洞窟から飛び出して「マスター!来るよ!」と伝えたその時、人喰いタコが激昂しながら飛びだす。
「しぶといな…アルム。やれるよな?」
「もちろんだよ!マスター!!」
アルムが俺の周りを飛び、攻撃と指示に備える。
一歩を踏み出すとアルムは自在に飛び回り始めた。
俺の武器は格闘とナイフ。見たところこいつには俺の武器達では厳しい。俺自身に強化をかけた所で知れている。なら一撃で始末するしかない。
ただ、どう一撃で仕留めるか、だが。
触手の壁の突破は難しい。どれだけ素早く動こうとも制限されてしまう。
それに眉間を狙う必要があるが…俺は生憎狙撃が苦手だ。そもそもそんな武器を持ってはいない。
アルムに頼るしかないな。
「アルム!あれをキメる。」
「…!了解だよ!」
俺が構えるとアルムはタコの触手を攻撃し始め、注意を引き寄せ始めた。
俺は気配を殺して集中する。五感の感覚が研ぎ澄まされて空気の流れを感じ取る。
「…外さない。」
ナイフを突き出して大きく踏み込んで閃光の如く飛び出す。加速した勢いが接触するナイフの尖端に加わり爆発的な威力を見せる。
タコの眉間には腕の半分まで突き刺さる。腕を引き抜いてすかさず爆弾を突っ込み、即座に離れると人喰いタコは爆散した。
「さ、報告して帰るか…」
これは朝帰りだな…報告もあるし家に帰るのは遅くなりそうだ。
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