初めての魔物討伐


 ディーテさんが政府の調査に行ってから、私は学生をしながらガーディアンを目指すべく魔物の勉強を始めた。

 魔物はこの世界に突如現れた生物に適応する為に進化したと言われているが…

 そこの辺りは歴史が長すぎてぼやけてしまったらしい。

 突如現れた生物と言っても今では馴染みのある魔物で、当時のアニメ、漫画等に出てきていたような魔物らしい。

 ゴブリン、オーク、ドラゴン。…あとは様々な種族など、当時のファンタジーに出る架空の生物だ。

 今では当たり前に見えるけど、大昔はそれが異質だったらしい。

 それに対応するように人も、動物も進化した。

 動物は魔物に。人はそれを倒せる武器と魔法を手に入れた。

 ここで一つ疑問が出てくる。ゴブリンとかは魔物じゃないのか。と。

 

 正解は魔物だ。千年前に区分が改定されて人類、動物、魔物と大きく別れた。どうやらこれに関しては魔法が使える動物と知能をある程度持ち合わせているのが魔物との事だ。

 

 人間になるとより高度な知能を持った生物として存在しているというのがこの世界の常識だ。

 ざっくりと魔物等の歴史をまとめた所で、私は魔物の種族ごとに知識を蓄える。

 

 さて、近日中に誠也は手っ取り早く私に魔物との戦い方を教えるらしく、よく見る魔物の習性などを教えるようだ。

 魔物と対面するのは数ヶ月ぶりで少し怖いな…


「だいぶ駆け足になりそうだが、もしキツイ様なら言ってほしい。調整する。」

「ありがとう。」

「明日は学校だったな。おやすみ。」


 誠也は私に笑顔を見せてそう言って席を立ち上がる。

 部屋に戻った彼を見て私も部屋に戻って明日の準備をしてから布団に入った。

 

 翌朝、誠也の姿が無く辺りを見渡すと和哉さんが「緊急で出撃しましたよ。」と私に告げた。

 何かあったのだろうか。

 その事について尋ねると彼は頷いた。


「魔物ですか?和哉さん。」

「いや、救助ですね。危険な地帯の。そんな事よりもさっさとしないと遅刻しますよ。」


 和哉さんに言われて私は朝の支度を済ませて学校へと向かう。


「麗華ちゃん、おはよ〜」

「おはよ、楓。」


 銀色の髪をなびかせた楓が私の腕を組んで体重を預けてきた。

 こうやって彼女が構ってくるのはいつもの事でこれがないとむしろ落ち着かない。


「そういえば麗華ちゃんって普段何してるの?」

「…勉強かな。ガーディアン目指してるからさ。」

「ガーディアン目指してるんだ!一緒だ!嬉しいなぁ。」


 楓が嬉しそうで私は小さく笑う。

 そろそろ学校だ…頑張ろう。


 私の学校生活は中学になってから少し大変だ。

 体力テストで大暴れしてしまって印象は良くない感じだったから、明るく誰とでも仲良く過ごせるように振る舞っている。そのおかげもあって私は何とか浮く事を防いだ。


「麗華ちゃんって凄いよね〜、なんか凄く完璧っていうか。」

「完璧ってそんな…私、ガーディアンを目指してるから勉強とかしてるだけだよ?たまには皆と遊びたいな…」


 楓以外の友達とそんな話をしたり、恋バナをしたり。

 なんかライバル視してる男の子の相手をしたり…

 周りからの評価は絶対的な存在のような扱いを受けている。

 少し疲れちゃうけど、仕方ない事だ。

 学校が終われば近日中にある魔物討伐の訓練、それの為にある程度の魔物の知識を入れなければならない。

 …

 …

 下校して家で魔物の勉強をしているとノックがして誠也の声がした。

 意外と早い帰りだな…私はそんなことを思いながら「大丈夫だよ。」と言うと彼は扉を開けて「頑張っているな。」と一言言って本題を切り出そうとした。

 

「麗華。いいか?」

「どうしたの?誠也。」


 私は彼の話す事に集中する。

 彼が私に声をかけた理由は他でもなく、魔物の訓練についてだった。


「詳しい魔物の討伐については、生態と共に実際に見て覚えてもらう。…申請も済ませてある。日時は…」


 誠也は実施日などを事細かに準備していた。

 急な出撃だったのに疲れを感じていないように見える彼は私に「頑張ろうな。」と行って微笑んだ。

 行く日は一週間後…予定も開けておいて準備しなくちゃ。

 …

 …

 一週間の間に私は誠也と一緒に準備や必要な物を揃えてからその日を迎えた。


「麗華。緊張しているか?」

「ううん。大丈夫。」

「そうか。それじゃ、行こうか。」


 私は誠也の背中を追ってその場所へ向かう。

 誠也が指を指した所には小さな天幕があり、「自己紹介からな。」と彼は言う。


「今日から何度か顔を見せる事になる望月 麗華だ。皆仲良くしてやってくれ。」

「よ、よろしくお願いします!」


 私の名前を聞いた瞬間誠也の部隊であろう人達がざわつき始める。

 それに気が付いた誠也は「ここにいる以上、麗華が有名人だというのは関係無い。いいな。」と告げて私を連れて人の少ない所に行く。

 忘れていたけどそういえば私は望月財閥の令嬢だった…


「んじゃ、色々見て回りたいと思うが、そんな余裕は無い。ここは物資が置いてあるから準備が済んだら来てくれ。俺は天幕の外で待っている。」


 彼の言葉の後に私は必要な物を揃えて出ると彼は驚いた顔をしていた。


「思いの外早いな…だがいい事だ。後で準備の事を教えようと思ったが、君はそれを知っているらしい。」


 誠也は優しく微笑みながらそう言ってきて私は少し照れてしまう。

 彼が教えたかったのは基本的な装備を最初から決めておいて、迷いなく迅速に準備を済ませるというものだ。


「さて、行く前に大切なプレゼントがある。」

「…?」


 私は首を傾げると誠也はある物を取り出した。

 鉄で出来た名札だ。

 そんな物は標準装備には無かったはず。


「君の無事と居所が分かるようにするためだ。後は、お守りみたいな物。」


 誠也はそう言って私の首にそれをかけ、「よし。」と頷くと「君の安全を祈る。」と口にした。

 彼のその時の雰囲気はいつもの優しいものとは少し違っていて、この部隊を率いる者としての風格を感じた。


「んじゃ、行こうか。」

「…はい!」


 思わず私はいつもの彼とは大きく違う雰囲気によって私も彼に普段しないような返事をしてしまう。

 彼はそれぞれの班に指示を出して魔物の討伐を始めていく。

 指示を終えた誠也が私の方に向いて「こいつらを率いてるヤツを見に行こうか。」と言う。


「ついてこい。」


 誠也はそう一言言って茂みへと入っていった。

 私の前を歩く彼は道を阻む魔物達を音もなく一撃で仕留めていく。それだけでも驚くのだがさらに驚く事は素手でそれをしているという事。


「魔物の弱点は生物である以上だいたい同じだ。例外もいるけどな。無駄な力を使わずに対象に近付く。これが出来たら勝率も上がる。…さて、目的の相手だ。」


 誠也は近くの茂みに隠れて私を無言で呼び寄せる。そして指を指して「やはりな。こいつは何かわかるか?」と囁く。

 私が「メイジオークです。」と答えると彼は頷いて肯定した。


「こいつはオークでも賢い方だ。魔法もそれなりのガーディアン並に使える。上物で中級か。こいつは必ず群れを作る。他の魔物と手を組むように持ちかけたり、何かと面白いやつだ。人間味があると言うか人間に近い。俺たちの使う兵器を利用した武器を作ることがある。そうなれば厄介だな。」


 誠也は立ち上がって「呼ばれる前に片付けよう。」と言って魔物達の元へ足を進めた。追おうとすると彼の相棒のロボットであるアルムに止められた。


「君はまだ見ておいた方がいいよ。」

「でも…」

「大丈夫。見ていてね…マスターが何をするのかを。」


 誠也は不思議な事に魔物に気付かれずにメイジオークに近付いてここで初めてナイフを取り出して首を掻き切る。

 噴水のように吹き出た血を回避して脳天をカカト落としで砕いた。

 あまりにも速すぎて驚く声すら出なかった。

 周りにいた魔物は誠也の存在に気が付くがその頃には遅く、それらはものの数秒で物言わぬ骸と化していた。


「このやり方じゃ、あまり教えられないな。悪い、他のやり方を考えるよ。」


 誠也が私の元に戻りながらそう言う。

 彼は「そうだ。」と一言、何かを閃いた様子。


「麗華。俺がサポートするから討伐してみよう。」

「えっ!?…大丈夫かな…」

「大丈夫だ。」


 誠也が適当な魔物を見つけて「行ってこい。」と言って私に色々な支援魔法を施していく。

 ふとあの日の記憶が蘇って足が竦む。


「こいつは麗華ならやれる相手だ。大丈夫。」

「…!わかった!」


 誠也に背中を軽く叩かれて私は一歩を踏み出す。彼の「大丈夫」その一言が私に勇気をくれた。

 普通のオーク…こいつの特徴は何よりも強靭な肉体と猪のような顔。

 そして様々な戦闘スタイルを持つ人型の魔物。目に見えているオークは剣を持っている。

 

 相手の武器は立派な剣だし今の私のこの刀ではぶつかったら間違いなく衝撃が強いし力負けする。

 

 なら…私は戦機鎧・ホムラを使おう。

 これならパワーも機動力も上がるからぶつかってもやり合える。

 紅い鎧から炎を巻き上げて加速しながら突っ込む。

 衝突されたオークは大きく体勢を崩し、その間に私は剣を持った腕を斬り落とした。

 鮮血を撒き散らしながら跳ねた腕を掴んで、それを奴に投げ付けて意識を散らして首を跳ねた。

 戦機システムの推奨行動の上にシステムと誠也の補助によるフィジカルの強化も合わさって圧倒できた。

 他にも対人戦をずっと練習していたのもあったのか戦うという事に抵抗は無かった。


「見事。流石麗華だ。それじゃ次も行こうか。」

「はい!」


 それと何より、誠也といる事が一番大きい。

 魔物に対しての恐怖心が彼といる事で緩和されている。

 この調子で次も行こう。

 魔物を次々と倒して私でもやれるという自信がついて行く。

 この勢いはもう止まらない。


「全部やったみたいだな。麗華。」

「うん…誠也がいたからだけどね。」


 私の返答に彼は笑顔で私の頭に手を置いた。彼は私に「実は、途中から強化魔法かけてなかったんだ。」と優しく告げた。


「え…?」


 驚く私に彼は「他でもない、君の力でアイツらをやったんだ。」そう言って彼は倒した魔物の確認を始めた。


「誠也。」

「どうした?」


 私の呼びかけに彼は声だけで反応して彼は自身の仕事をしている。

 この時、私は感謝を伝えたかった。

 …でも、今の彼は聞き流して反応するだろう。

 この思いを伝えるのは後でいいかなと思った。


「ううん、なんでもないよ。」

「そうか。麗華。少し手伝ってもらえるか。」

「うん!」


 彼は私を呼んで後の処理に着いて教えつつ、今日のこの魔物を自分の手で討伐した感想を聞いてきた。この時に思いを伝えよう。

 

「魔物を目の前にして、あの時の事を思い出した。でも、誠也のあの一言。あれのおかげで私、踏み出せた。…ありがとう。誠也。」


 そう私が言うと彼は「踏み出せたなら良かった。」と一言で反応して立ち上がる。


「さ、戻ろう。」

「うん!」


 私の様子を見た彼は少し砕けた表情で「帰るまでが任務だぞ。」と言って歩き出した。


 家に帰ると優希さんが私と誠也の帰りを待っていた。

 彼女は私を抱きしめて「無事でよかった!」と安心した声でさらに強く抱きしめる。


「苦しいよ…」

「あぁ、ごめん。でも、本当によかった…」

「…優希は大袈裟だ。」


 誠也の呆れた声に対して「誠也は麗華ちゃんが心配じゃなかったの?」と優希さんが言うと彼は頷いた。


「俺は麗華の力を信じていたからな。」


 彼のその一言で私は少し表情が緩む。それに気がついて慌てて静かに表情を戻して私は彼を指さして「途中から私にかけてた強化魔法を黙って解いていたんだよ?」と言うと優希さんの眉がつり上がった。


「誠也…詳しく聞かせてもらおうじゃないの。」

「…!!麗華…君は……っはぁぁ…」


 めちゃくちゃ大きいため息をついた誠也は優希さんに連れていかれてしまった。

 その後に和哉さんがリビングのドアを開けて「おかえりなさい。」と言った後にご飯かお風呂、どちらにするのかを聞いてきた。


「お風呂にする。」

「そうですか。ゆっくりしてくださいね。…お疲れでしょうから元気になるものを用意して待っていますよ。」


 和哉さんはそう言って私をお風呂へ送り出してくれた。

 …

 …

 湯船に浸かって今日の事を思い出していた。

 私でも魔物と戦える。圧倒できる。

 その自信が私を勇気付けてくれた。

 …それにしても誠也は凄かったな。素早い指示出しにあの魔物を倒すスピード…

 あの強さがありながら学者…彼にできないものはないのでは?

 …それにかっこよく見えた…


「はっ…!」


 私は頭を振ってさっきの事を忘れてお風呂から出て髪を乾かしたりしてからリビングに戻るとちょうど夕飯が出来たぐらいだった。


「今日は私達で元気の出る食材を集めたのですよ。」

「土方の提案よ。」


 上原夫妻の言葉を聞いて私は土方さんの方へ顔を向ける。

 土方さんは私に「体を丈夫に。健康にする為に用意した。」と嬉しそうに語る。


「それじゃ、いただきます!」


 私が料理を食べ始めると誠也達もそれを見てから食事を始める。

 この時間が好きだ。

 今日は魔物と戦ったというのもあって新しい刺激を受けて…命のやり取りを直接感じ、こうして生きている。私は恵まれているのだと気付かされた。

  

 

 

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