非の打ちどころのない上司との関係

立入禁止

非の打ちどころのない上司との関係

「あなたのことが好きなの。LIKEではなくLOVEの方で」


 神藤奏。年齢は三十五歳。性別は女性。役職は課長。

 出世コースまっしぐらで将来有望、徳高望重、才色兼備、容姿端麗、温柔敦厚、沈着冷静、etc~。

 顔色を一切変えず、一ヶ月前に告白してきたのは紛れもないこのうえなく非の打ち所のない上司だった。

 私が彼女に対して知っている情報はこの程度たが、噂話はちょこちょこ聞いたりするほどの人物だ。

 ちなみに私と神藤課長とは、特にこれといって関わりが深いわけではない。

 だからこそだ。何故、私なんだろうか。不思議でならない。

 返事はいつでもいいと言われ、そのままずるずると一ヶ月経ってしまっているが、なんて返せばいいのか。

 このままなかったことにしてしまうか……。

 というよりも、そもそも告白なんてなかったのでは?

 だってそれ以来、課長からはなにもない。告白される前から特にあるわけでもなかったけど、告白されてからもないのだ。

 今まで、最低限といっていいほどしか関わってこなかったわけだし。

 …………よしっ。なかったことにしよう。

 ここ最近、残業続きで疲れていたんだ。非日常的な刺激を求めて見せた幻かもしれん。きっとそうに違いない。

 そうして私は、あの出来事は幻だったのだと頭のすみに追いやっていった。

 ちなみにだが、上司に告白された(幻だった)私のスペックというと。

 佐藤頼子。年齢は二十八歳。性別は女。役職は平社員。

 頼れる子と書いてよりこ。頼りになるかといわれれば微妙で、少し優柔不断だけどやるときにはやれる子だと自分では思っている。

 そして平凡。見てくれも平凡。十人中八人はそう答えてくれるだろう。

 はーい、ここテストにでますよー。なんて誰に言うまでもなく、脳内で騒がしくしながらパソコンに向き合い作業をしていると誰かからお声が掛かった。

「佐藤さん、時間があるなら少しいいかしら?」

 頭上からする声に「はい?」と顔をあげると、さっきまでというか、ここ一ヶ月間私の頭の中を占めていた課長がいた。

 隣のデスクの同僚が「神藤課長になら俺が頼まれますよ」とアピールをし始めれば、課長は「また今度、お願いするわね」なんて微笑むだけで。断られた隣人同僚君は瞬殺撃沈。どんまい、と他人事のように思っていたら課長が隣の同僚から私の方に向きなおってきた。

「資料整理と、整理ついでに今度使う資料もお願いしたいのだけれどいいかしら?」

 自分の必要な案件はすでに終わっていて、定時までまだ三十分程度ある。

 断る理由もないという事で「やらせてください」とお願いすると、じゃあついてきてと課長の後を金魚の糞のように目的地までついていった。

「この資料室になるわね。あと、これは明日までに欲しい資料で。資料整理といっても手が空いたときに誰かに頼んでるから、定時になったら上がってもらってかまわないわ。資料整理というより資料探しで終わってしまうと思うけどよろしくね。わからないことがあれば聞きにきて」

 用件をすらすらと的確に説明してくれるから、こちらが聞く事は少なくて助かります、なんて感謝を心のなかで述べながらもあとはやりますと課長に伝えればじゃあよろしくねと言って扉から出ていった。

 課長から、これといってなにか言われるまでもなくあっさり終わってしまった。

 やっぱり幻だったんだなと確信を経て、鼻唄混じりで課長がお望みの資料見つけますかと意気込んで探しだした。

 ……ひたすら探した。

 資料整理をと言っていただけあって、あちこちに資料があり大変だったけど、なんとなくそれっぽい資料はかためて置いてあったりして。同じような資料も整理したりした。

 探しながらも整理できた私偉い、と時計を見ると時刻は定時三分前になっていた。

「結構やった感があるな」

 課長のところに戻ってこの資料を渡したら帰れるなと思い、課長のデスクに行くと本人は席をはずしていて。

 あれ、と思い近くの人に聞こうと見渡すが、もうすでに帰り支度をして帰ってしまうところをすんでで一人捕まえて課長の居場所を聞くが、わからないの一言で終わってしまった。

 ……えっ、まじか。

「まぁ、いっか」

 少しなら待っていようかなと思い、自席に座って椅子でくるくる回りながら課長を待つ。

 ……五分……十分……十五分。

「遅くね?」

 一体どこまで行っているのか。

 もう置き手紙だけして資料を置いて帰ろうと決意し、課長宛に置き手紙を書いていると聞いたことのある声に耳が反応した。

「あら? まだ残ってたの?」

 声の方を向くとやはり課長だった。

「資料を渡そうとしたらいなかったので少し待っていたんですが、なかなか戻らなそうなので置き手紙して帰ろうとしてたところでした。会えてよかったです。これ、頼まれていた資料になります」

 お願いします、と渡すとありがとうと受け取ってもらえ、任務は完了。

 さてさて帰ろうか、と自分のデスクに戻って支度をしていると再度声をかけられた。

「待って」

 はぁはぁ、と息をきらしながら私のデスクまで走ってきた課長。

 えっ、なにか間違えた資料でも、と色々な不安が一気に駆け巡ってしまうのは小心者だから仕方がない。

「なにか不備でもありましたか?」

 課長に聞くと違うとのことで。じゃあ、なんなんだと思い考え巡らせていると課長が口を開いた。

「あの、佐藤さんをご飯に誘いたくて。今日は駄目かしら?」

 まだ息も整わない課長からそう告げられた。

「へぇっ?」

 変な返事をしてしまった。

 いやいやいや、あれは幻だったはずだ。

 けど、今現在、私を誘っているのは課長だ。

 これは………………よしっ、断ろう。

「すみません、きょ」

「お昼の時、佐藤さん今日は用事がないって草壁さんと話してたわよね?」

 ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。

「……はい。行きます」

 課長のことは嫌いとか好きとかそういうのではない。

 正直に言えばよくわからないのだ。

 えっ、なに、種族が違う人ですか、ってくらいそれはもう神藤の藤を取って神と呼びたいくらいに己との違いがある人なのだ。

 課長の車に乗り、どこに向かっているのかわからない目的地に不安になりつつも、脳内で現実逃避をしつつ車内は無言。

 非常に気まずい。

 課長の車で走ること十分弱。

 着いたと言われ降りたところは……。

 うん。ちょっと待ってね。

 ……ここってさぁ。某有名なホテルですね。はい。そうですね、じゃないんだよなぁ。

 宿泊となると、私の給料ではヘタをするとそこそこブッ飛ぶくらいの値段だった気がした。

 ギギギ、と首がなりそうな角度から課長を見るが表情は至って普通。

「佐藤さんと行きたくて、お昼に連絡をしたらディナーの予約が取れたの」

 嘘。普通じゃなくてはにかんで照れていた。

「そ、うなんですね……」

 ぬぁぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃぃぃぃ。

 この人やばい。目の錯覚じゃなければ頬もうっすら染まっているように見えるし。

 告白の時なんて表情なんて変わってなかったじゃんかよ。

 顔がいいと余計に破壊力抜群じゃねぇか。

 顔面は武器だろぉぉぉが。

 本当になんなの?

 私ごときと行きたいが為に予約を取ったとか。

 昼の時に用事がないと聞いて、私を誘うよりも先に予約を取るとか。

 しかも盗み聞きまでしてたとかさぁ。

 脳内で全力疾走をしていたら、自然と息が切れてきた。

「やっぱり、その……嫌だったかしら。佐藤さんの好みがわからなくて……。今流行りのスポットを聞いたらここだって言われたから。いきなりこんなところにきて引いたかしら?」

「イエ、トッテモコウエイニオモイマス」

 おーい。課長に変なこと教えたやつ出てこいやぁ。

 儚げ美人も様になりますね。じゃなくて思わず片言になってしまったわ。

「よかったわ」

 嬉しそうな表情をするから、これ以上なにも言えなくなってしまい、大人しく課長の後をついていった。

 エレベーターに乗ったのはいいのだが二人きりで。

 元々関わることすら少なかったために、話題も浮かばぬ。車内でもそうだったけど。

 今日のディナーはいくらするやつなんだろうか、と考えを巡らせていたがふと思い出したことが……。

「課長、すみません。手持ちの額が少なくてですね。また後日返しますので……」

 寂しすぎるし恥ずかしすぎる。

 社会人にもなってお財布に千円しか入ってないとか。

 出来るならカード支払いは避けたい。

 だって翌月の請求を見るのも怖いし。

「そんなこと気にしなくて大丈夫よ。今日は急に誘ってしまったし、佐藤さんにはいつも助けてもらってるから。今日はそのお礼もかねてということで私に任せておいて」

 ねっ、なんて何ともいえない圧に返そうとした言葉は呑み込むことに。

 けどなぁ、なんて思っていると課長が言葉を続けた。

「佐藤さんがそんなに気にするなら、私からのお願いも聞いてもらえるかしら?」

「なんでしょうか」

「そのね。課長じゃなくて名前で呼んでほしいの。私の名前、わかる?」

「へえっ?」

 またもや変な声が出てしまった。のと同時にエレベーターが目的地階に着いてしまった。

 なんとも間が悪いのかいいのか。

「さぁ、降りて行きましょ」

 課長はそう言うなり、先にエレベーターを降りていってしまった。

 課長のあとをこれまた雛鳥のようについていき、慣れない場所と課長に緊張しながらのディナーが始まってしまったのだ。

 料理はコース料理を頼んでいたらしく、ワインは課長がスマートに頼んでくれていたのはいいんだけど。

 問題は私がワインを飲んだことがないことだ。

 変な汗が出てくるのをなんとか止まらないかなと考えたものの、一度吹き出した汗を止めるのは容易なことではなく。汗のことを考えると逆効果だと気づき、課長に話題を振ることにした。

「ワインを飲んだことなくて。課長はワインや他のお酒はよく飲まれるんですか?」

 出だしとしてはいい感じでは、と課長の様子を伺う。

「かなで」

「へぇっ?」

 またまた変な声が出たまま、課長と視線を合わせるともう一度「かなで」と言ってきた。

 ハッ、と思い出したのはさっきまでの会話で。

「課長のお名前ですね。では、失礼して……その、奏さんでいいですか?」

 そうお伺いをたてると、華やいだように笑う課長もとい奏さんがいた。

「私も佐藤さんのことを、名前で呼んでもいいかしら?」

 次は逆にお伺いをたてられて、どうしようか迷ったが。

「お好きに呼んでください」

 そう返すのが精一杯だったが、課長ではなく奏さんが俯いてしまって表情が伺えない。

「あの、」

 声をかけようと発した言葉と共に上げられた顔には、恥じらいというか照れというか、見ているこっちが照れるのではとなるような雰囲気と表情で。

「頼子さん」

 あざとく、というか奏さんはきっと理解してやってはいないだろうが、首を傾げて若干の上目遣い気味な雰囲気と頬の染め具合の顔面破壊力で私はノックアウト寸前だ。

 なんて言葉を返したらいいのかわからず、フリーズしてしまう。と同時にソムリエさんらしき人がワインを注ぎに来てくれた。

 わーい。助かったぁ。ソムリエさんありがとー、と心の中でそれはもう盛大に感謝をしておいたよね。

 ソムリエの人が詳しく説明してくれていたけど、私にはわけわかめで。右から左へと全て流れていってしまったために何一つ覚えていない。

 けど、奏さんが選んでくれたワインがすごく飲みやすくて美味しかったのは覚えておこうと思った。

「その様子だと、頼子さんのお口にも合ったみたいでよかったわ。ワインについて詳しいわけではないの。けど、私もこのワインが飲みやすくて好きなの」

「そうなんですね」

「そうね」

 ふふふ、と上品に笑う奏さんを見ながらなんかうちの上司凄いなと改めて認識した。

 その後は、コース料理もどんどん運ばれてきて。不安視していた会話も、全く問題ないくらいスムーズに進んでいたし良き。

 穏やかに最後のデザートまで終わり、いい時間になる頃には私も多少酔っ払ってしまっていたが、奏さんに醜態を見せることはなかったし大丈夫だなと安心したくらいだ。

 そう思ったが……。

 えっ、なにこれ?

 お支払も奏さんが済ませてくれたまでは何事もなく。エレベーターに乗る前も普通だった。が、乗ったとたんに壁ドンをされてビビってしまった。

 少しだけ「ひぃ……」と声にも出てしまったくらいだ。

 ちかいちかいちかい。

 人との距離感大事。日常でこんなに近い距離は滅多にないくらいに近くて、口臭が気になってしまう。

 課長からはなんかいい匂いがするから気にならないけど。問題は私の方だ。

「…………まだ名前で呼んでて」

「ぅ、あ、はい」

 耳元に唇をつけながら話すなよぉと思いながらも、この壁ドンの原因は課長呼びに戻した結果だったとは……。

「わかりましたから、ちょっと離れてくれませんか?」

 軽く、課長じゃなくて奏さんの肩を押すと簡単に引き下がってくれて若干拍子抜けな感じがしてしまったけど。

「えっ、あの……なんで泣いてるんですか?」

 奏さんの顔を覗き込むと静かに泣き出していた。

 えー、泣く要素どこにあったかな。私にはわかんなーい。

 けど、泣いてる時も綺麗だな、と思ってしまった。私の場合は、ぐちゃぐちゃになって見るに耐えない顔になってしまうからなぁ。そう考えながらも、ハンカチで涙を拭いてあげていればポーンっとエレベーターが目的階に止まった。

「えっ」

 ちょっと待って。今このタイミングでエレベーターが止まっちゃうのよろしくなくなくなくない?

 誰かに見られたら気まずい。非常に気まずい。確実に私が泣かしてる構図だし。

 そわそわしていると、エレベーターのドアが開いた瞬間、手を掴まれてあれよあれよという間にホテルの一室に。

 えっ、なにこれ?

「あの、奏さん……」

 完全に理解不能になった頭では考える余裕などなく。

 部屋を見渡して、この部屋電気ついてないくらーい、としか感想がなかった。唯一、今日はお月さまの光がピッカピカに輝いていてくれたことに感謝する程度には部屋の中はなんとなく見ることが出来たくらいだ。

 さっきまで泣いていたはずの奏さんはというと、無事に泣き止んでいてなにより。

「この部屋って」

「万が一に備えてとっておいたの。あわよくば頼子さんを酔わせて、その……色々と介抱させてもらえたらいいなと思って」

「………………」

 なにこの人。

 えっ、ちょっと待って。今なんて言った。

 さっきまで泣いていた人の発言なのかちょっと怪しいぞ。

 奏さんの表情を見ると困った様子に、私も困るよなぁと思いつつ、奏さんの手の中からカードキーを取り、とりあえず部屋の明かりを付けることに成功した。

「目、赤くなってますね」

 最初に目にしたのは部屋よりも奏さんの顔。泣いていたせいで目の辺りが赤かった。

 これは冷やしておかないと腫れてしまうだろうと、洗面所に向かうが体は動かず。

 それもそのはず。後ろから奏さんに抱きしめられているからね。というより、もっと危機感持とうぜ私。

 車では不安がっていたのに、今では着いていくだけの危機管理ゼロ人間になってたぜぇ。

 しかも、今は抱きしめられてるぜぇ。

 そう思うのに、別に嫌悪感もなにもない。

「奏さんって、私のことどれだけ好きなんですか?」

「………………」

 暫くの沈黙のあと、奏さんはゆっくりと口を開いた。

「すごく好き。下心でホテルの部屋をとるくらいに……」

「あの時の返事はまだしてませんけど、無理やり連れ込もうとしたんですか?」

 奏さんの腕の拘束をといて向き合うと視線を逸らされた。

「だって……。待ってても返事は来なかったし、このまま無かったことにされるくらいなら、私のことを忘れないようにすればいいのかなって」

 今、目の前にいる人は本当にあの課長なのかと疑ってしまう。

 だってあまりにもポンコ……じゃなくて残念すぎる。

 連れ込みなんてもはや……。

 それよりも、無かったことにしようとしてたことはバレていたらしい。それはそうだろう。

「まぁ……それはすみません。正直、奏さんのことを好きか嫌いかはよくわからないので返事をしかねてました。いまだに分からないんですよね、今までそこまで関わってないですし、好きになられる要素がないと思うんですが……」

「頼子さんが気づいてないだけで、好きになる要素はたくさんあるわよ。これでも気にしてもらえるようにアピールもしてきたんだもの」

 急に鼻息がかかりそうなくらい得意気に言われて、若干引いてしまった。

「例えばどういうのですか?」

 引いてしまったが、どんなアピールをされていたのか気になる。

「昼食の時に近くの席に座ったり、休憩の時にお茶入れたり、あとお菓子も添えてみたりとか。あとは近くで会話を聞いてたり……」

 あれやこれやと奏さんが話してるのを聞きながら、ふと思ってしまったことが一つだけあった。

「軽くストーカーみたいですね」

「そんなことな……あるかも?」

 目の前で慌て出す奏さんは戸惑ったままで、自身の頭を抱えてしゃがみこんでしまった。

 ぶつぶつ言いながらもしゃがみこんでしまったままで、私もしゃがみこんで覗くと、これまた静かに泣き出していた。

 ここ最近というか、今日だけで奏さんの印象がかなり変わってきてて、この状況に笑えてきてしまう。

「なんでまた泣くんですか?」

 笑いを堪えながら、とりあえず聞いてあげることに。

 自分もなかなかの性格だよなぁ、と自覚して反省はしているつもりだ。

「だってぇ……。私、気持ち悪いって思われたぁ。頼子さんに嫌われたらどうしよぅ……」

 うぐっ、ひぐっ、と嗚咽が混ざるくらいの本泣きになってしまい、落ち着くまでよしよしと頭を撫でてあげることに。

 ようやく落ち着いた頃にはもう終電もなくなってしまった時間で、もう仕方がないかと観念することに。

「お酒も飲んだし、今日はもう終電もないので奏さんの希望通り、ホテルに泊まらせていただきます」

「…………私は帰るからあとは好きに泊まって」

「いやいや、お酒飲んでますし。奏さんが予約したんですからいてくださいよ」

 帰る支度をしだした奏さんを引き留める。

「……こんなやつといて気持ち悪くない? 嫌じゃない?」

 奏さんの表情は必死で、いつもの自信がある表情ではなくなんか新鮮だ。

 あぁ、無駄に顔がいい人は本当にずるいよなぁ。

「奏さんのポンコツ具合は充分にわかったので大丈夫です。ここで、私に手を出したらどうなるかわかってると思いますし」

 うんうん、と頭がもげそうなくらいに縦に振っている奏さんを見て、今まで堪えてきた笑いを我慢できるわけもなく吹き出してしまった。

「なんで笑うの……」

 不貞腐れながらも奏さんの表情はさっきよりも穏やかな気がした。

 こうして無事(たぶん)に初めてのお食事会は終わったのだ。


 それから二ヶ月後、告白の返事はいまだにしていないけれど、奏さんとは食事に行ったり休日には出掛けたりもしている。

 ハイスペックでポンコツな上司と私の恋物語はきっとこれから……なはず。たぶん。きっと。


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