第2話 不倫者、討伐隊と出会う

 二人で顔を見合わせても疑問しか生まれない。どうしようかと途方に暮れていると、また奥から何かの気配。先ほどの投石―――になるのか分からないもののせいで、少し疲労が押してきているが、どうにかしなくては。


「そっちに行ったか?!」

「いや、こちらには見当たらない…!」


 人がワイワイと聞こえてきて、先ほどの化け物ではないと安堵する。


―――だが、人も信用ならない。化け物よりはマシだという程度だ。

いざという時は―――臨戦態勢を整えていると、話をしていた人たちがこちらに姿を現した。


「君たちは…?」


 甲冑を着た男たちがゾロゾロとやって来る。彼らの手には剣やら槍やら物騒な物があり、私は、さらに警戒心を強める。


「あ、僕たち気付いたらここにいて……」

「蒼。人を信頼するなと口うるさく言ってきたのを忘れたの?」

「だって二人でここにいても分からないじゃん」


 そう正論を返されてはぐうの音も出ない。

 ついでに蒼に「石捨てて」と言われてしまえば従う他なく。その辺に石を転がしてから両手を挙げて降参のポーズを取る。


「気付いたらここに…?もしや異世界からの……いや!今はそれよりもフェンロゥズがこちらに来なかったか?!」

「フェン……何て?」


 ちんぷんかんぷんな単語が出てきて、思わず聞き返すと男たちは「巨大な狼のようなモンスターだ」と大きさを身振り手振りで教えてくれる。


「あ…多分それなら、綾乃が……この子が倒し…ました?」


 蒼がそう補足すると男たちはギョっと驚いた顔を見せてから、ひそやかに騒ぎ出す。「討伐隊でも歯が立たなかったのに…?」とか「まさかそんな」とか何やら戸惑っている様子。


「皆、静かに」


 先頭にいた男が一言発せば騒がしかった周りは一斉に口を閉ざす。どうやら彼がこの率いている男たちの長らしい。

 甲冑の顔を覆うバイザー部分を上げて、ようやく顔が見えた。堀の深い整った顔をした40代後半近い男だが、私の知る男たちとは違い威圧感がある。


「フェンロゥズの魔核がそこにある。彼女が倒したとみて間違えないだろう」


 今日は知らない言葉ばかりだし、知らない場所だし、化け物出てくるしで脳がついていかない。もうこちとらヘロヘロだし家に帰りたい。男の視線の先には、人の顔サイズはある黒と紫がかった禍々しい球体が転がっている。


「解析班!」

「は…はい!」


 何か勝手にやってるけど、もう手下していい?

 私、こんなに両手を挙げることがないから疲れてきちゃったんだけど。


「かっ…解析完了です…!た、確かにフェンロゥズの魔核ですが……!魔力数値が通常の3倍はあります…!」


 その言葉にまた一同がどよめく。ちょっと本当に分からないから、解析班じゃなくて解説班を呼んできて?

 そんな事を思っている私の心が伝わったのか、隊長っぽい人が「手を下してください」と急に畏まってきた。


「え…ああ、ありがとうございます?」


 とりあえず事を荒げないように指示に従うと男はこちらを見定めるようにジッと見てくるから、それが不快になりつい睨みつけてしまう。


「綾乃、睨まない」

「…だって」

「悪い人たちではないと思うよ」

「……能天気さんめ」


 私の不機嫌さをいち早く感じ取った蒼に窘められて、渋々と睨みつけるのをやめると隊長さんが「ふむ」と何かに納得した。


「あなた方は気付いたらこちらに?」

「はい。自分の家で眠っていたはずなのですが…」


 私が口を開くと喧嘩腰になるというのを理解している蒼が、私に変わって事のあらましを話してくれる。気付いたらココにいた事。フェンロゥズという化け物が急に襲ってきた事。私の投げた石が炎を纏った事。


 それらを上手に嘘偽りなく答えるから、彼らが悪人だった時どうするんだよ…と思いながら黙って聞いておく。―――いざとなったら、私が。覚悟を決めていると「綾乃」と少し強めに呼ばれてしまう。


「何もしてないけど」

「余計な事考えたでしょ」

「……ハァ。はいはい、分かりましたよ…大人しくしてりゃいいんでしょ」

「すいません、あの子ちょっと気性が荒くて」


 お前は私の保護者か。と心の中でツッコミを入れると隊長さんは豪快に笑う。

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