第3話 不倫者、条件を突きつける

「知らない場所で化け物に襲われたんです。気が立ってて当然でしょう…。申し遅れました、私、ガルド・ヴェルクと申します。ティアゼル王国の騎士団長を務めております」

「そう言って頂けると助かります。僕は蒼―――あの子は…ほら、ちゃんと挨拶」

「………綾乃」

「綾乃!」

「ハッハッハッ!構いませんよ!気の合うご夫婦ですなァ!」


 騎士団長のガルド―――さんの言葉に私たちは曖昧に笑うしかない。

 夫婦じゃない。恋人でもない。私たちは……友人だ。


「さて…ここはあなた方の知ってる世界ではありません。詳しい話は王都で行いたいと思っております。王にあなた方がいらした事も説明をしたい。ご同行願えますか?」

「条件がいくつかある」


 蒼が素直にはい、という前に私が口を挟むと案の定彼に呼ばれるが、ここは引けないため目を細めて彼を見る。それで察した彼は口を閉ざしたので、私は自分よりも40cmは高いガルドさんの前に立ち、見上げる。


「まず団長―――あなたは丸腰になってほしい。そしてその団長の武器を渡しに預けて」

「きっ…!貴様!ガルド団長を人質にとるというのか!」

「そうだ」

「この女こちらが下手に出てれば調子に乗って…!」

「黙れ。余計な口を開くな。条件をのめるかどうか聞いている」


 私が逆らってきた男を睨みつけると、怖気づいて引いている。


「綾乃殿、あなたは武器に頼らずとも十分お強い」

「こっちは来たばかりなんだ。使い方も発動条件も分からない」

「ふむ、一理ある。よろしい、私の武器を貴殿に預けよう」

「だっ、団長!?」

「みな従え。これは団長命令だ」


 このジジイは強い。武器を取り上げたところで、力の使い方も分からない私がどうこうできる相手ではない。それは相手も分かっているだろう。


 ―――私がかけた保険は、むしろ彼の部下たちにある。

 立場の弱い我々を快く思わないヤツがいた場合、私たちには切り札が必要だ。団長という偉いポジションの人間を手中に収めることで、僅かなりとも万が一の抑制にはなるだろう。


「綾乃殿は…強い人間だ」

「違いますよ、団長殿。私は弱いからこうして小細工をしているんです。強い人間というのは―――蒼のように人を信じられる人間だ」

「いえ。弱さを認めている人間も、またお強い。本当にいいご夫婦だ」


 何かを思い出すような、少し遠くを見るガルドさん。誰かに思いを馳せているのがわかり、私はそれ以上何も言わなかった。渡された彼の武器を受け取り、馬車に団長、私、蒼で乗り込む。

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