第19話 次の日

──次の日、月曜日の朝。


ホームルーム前の教室には、少しだけ眠たげなざわめきが流れていた。


教室の入り口から入ってきた三津原さんに、自然と目が行った。


(……あれ?)


普段と変わらない落ち着いた表情。

だけど──どこか、ほんの少しだけ柔らかくなったようにも見える。


(……あんなことがあった後だから、心配だったけど……良かった)


俺がそう安堵した矢先、

その当人が、静かに机の間を抜けて俺の席に近づいてきた。


「あの、朝宮君……」


いつもと同じトーンの声。けれど、どこかだけ、緊張が混じっているように感じた。


「一昨日は……ありがとうございました」


「気にしなくていいよ。ほんとに、たまたま通りかかっただけだし」


「それで……放課後、少しだけお時間もらえませんか?

部活が終わったあとでも大丈夫なので」


「え? うん、別にいいけど……」


「な、なら……放課後、校門のところで待ってますね!」


そう言って、詩織さんはぺこっと頭を下げると、足早に自分の席へと戻っていった。


その背中を見送りながら、少しだけ、胸の奥がざわつく。


(……なんだろう)


何かを伝えようとしていた。そんな気がした。


「……詩織が、珍しいな」


隣で悠二がぼそっと呟いた。


「ん?」


「なんか動揺してたじゃん。詩織ってあんなに早歩きするっけ? なんかあったのか?」


「……ううん。特には」


とりあえずそう答える。


でも、嘘をついているつもりはなかった。

“特別なこと”なんて、まだ起きていない。

けれど、“特別になるかもしれない何か”は、確かに動き始めていた気がした。




 

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