第20話 桜の下の少女の決意
──放課後。
サッカー部は今日は早く終わったこともあり未だ聞こえる部活の声がまだ響く校舎の向こうで、坂道の影がゆっくりと長く伸びていた。
校門の近く、門柱の陰で待っていたのは、制服姿のままの三津原さんだった。
風に揺れる白亜麻の髪が、夕暮れの光を柔らかく反射している。
「……ごめんなさい。急に呼び出したりして」
「ううん、俺は大丈夫。っていうか、そんなに改まると逆に緊張する」
俺が苦笑まじりに言うと、三津原さんも少しだけ目元をゆるめて、小さく笑った。
「……少し、歩きませんか?」
「うん」
並んで歩く帰り道。
しばらく、沈黙だけがふたりの間を流れていた。
けれど、それは気まずさではなくて、
きっと、三津原さんが言葉を探している時間なのだと、わかっていた。
やがて、彼女がぽつりと口を開いた。
「……私、小さい頃に両親を亡くしてるんです」
その言葉は、まるで風に紛れるように静かで。
けれど、はっきりと俺の胸に落ちた。
「交通事故でした。まだ小鞠は、幼稚園にも通っていないくらいの頃で……
その日、突然、家に結花さんが来て、私にこう言ったんです。
“詩織ちゃん、落ち着いて聞いてね。お父さんとお母さんが、車の事故で──”って」
三津原さんの声が、かすかに震えていた。
でも、彼女は立ち止まらず、続けた。
「……怖かった。でも、それ以上に、小鞠の泣き顔が怖かった。
私が泣いたら、きっとこの子も泣いてしまうって、そう思ったら──泣けなくなったんです」
ゆっくり、彼女は歩みを止め、木陰のベンチに腰を下ろした。
俺も、黙って隣に座る。
「それからは、結花さんに助けてもらいながら、ふたりで暮らしてきました。
結花さんは家にきて一緒に暮らそうと言ってくれましたけど私は皆で過ごした家を手放したくなかった。」
「ここに誰か人が入るだけでも私達が皆で過ごした記憶が薄れてしまいそうだったからってわがままで結花さんにはたまに見に来るという条件でふたりで過ごしてました。
生活費も結花さんのお店のお手伝いをする代わりに結花さんに出してもらうという感じで
あの時の結花さんの顔は今でも覚えています
……気づけば私は……“姉だから”って、自分に言い聞かせてばかりで。
何があっても平気なふりをするのが、当たり前になってたんです」
三津原さんの手が、ぎゅっと制服の裾を握る。
「人に頼るのが、怖くなってました。
悲しみも、怒りも、心の中に閉じ込めて……誰にも見せたくなかった。
それを見せてしまったら、壊れてしまう気がして
大切な人を作ったらまたいなくなってしまいそうで……」
「……三津原さん」
「でも……あの日、倒れそうになったとき。
朝宮君が、名前を呼んでくれて──
ああ、私、やり終えたって思ったんです。自分の弱さを隠さなくても、受け止めてもらえたって、この人は居なくならないって」
視線を落としたまま、けれどその声は確かだった。
「だから……ありがとう。私、あのときから少しずつ変わろうって思えました」
ゆっくりと顔を上げた彼女の目は、どこまでも真っ直ぐで、けれど少しだけ潤んでいた。
「朝宮君。これから、私……ちゃんと人に頼れるようになりたいんです。
……だから、もし、よかったら。もう少しだけ、私のそばにいてもらえませんか?」
俺は言葉を返すのに少しだけ迷った。
でも、心の中ではずっと前から、答えは決まっていた。
「うん。もちろん。俺でよければ、何度だって呼んで」
三津原さんは、ゆっくりと微笑んだ。
それは、強がりでも、作り笑いでもない。
今の彼女が、自分の足で立って向き合おうとしている、その証のような笑顔だった。
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はじめまして
作者のアルタイルです
普段何も書かない人が何を書くのかと言うと・・・ストック無くなりました。
作品紹介でも話していましたがこの作品は自分がTRPGで作ったNPCが「普通の何も無い世界で生きていたらどうなったんだろう」というIFから幸せになって欲しいという想いを込めて作った小説ですので趣味全開ということもあり更新はまばらになるかもしれないですというか仕事が忙しいこともあり余計です・・・
ですが三津原詩織というキャラは私の作ってきた中で一番のお気に入りのキャラですのでこのキャラの魅力を皆さんにも知っていただけるように頑張ります。
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