第2話 新たな教室、新たな出会い

入学式を終えた後。

新しく割り振られた教室、1年2組に新は向かった。

教室にはすでに数人の生徒が集まっていて、

新しいクラスメイトたちは、早くもそれぞれグループを作って談笑していた。

地元の中学校から進学した生徒が多いこともあり皆知り合いと集まりながらも新しいコミュニティを作っていた。

そういう意味では地元の外から進学した新にとっては入りにくい空気を感じるだろう

言うなればボッチだ

自分の席を見つけたためひとまず座り……幸運にも窓側だった為グラウンドの桜を眺めていた。

そのとき──

「なあ、君。ここ初めて見る顔だな?」

不意に声をかけられた。

振り向くと、

黒髪で優しそうな雰囲気の男子生徒が、ニコッと笑って立っていた。

「宵宮悠二(よいみや ゆうじ)、って言うんだ。よろしく!」

そう言いながら、悠二は自然な仕草で手を差し出してくる。

「あ、朝宮新(あさみや あらた)だ、よろしく!」

新も慌てて握手を返す。

短い間だが孤独を感じ緊張していた心が、少しだけほぐれた気がした。

「君、ここの中学じゃなかったろ?知らない顔だからさ。」

「ああ、うん。ちょっと離れたところから、部活推薦で来たんだ。」

「へえ、すごいな!運動ができるんだ?」

悠二の人懐っこい笑顔に、新も自然と笑みを返していた。

「サッカー部だったからね」

「お、てことはチームメイトになるな、新」

話をしているうちに二人は、まるで旧知の友人のように打ち解けていった。

そんな中、新はふと思い出した。

──桜の下で出会った、あの少女のことを。

(……そうだ。あの時、声をかけておけば……!)

このチャンスを逃したくなかった。

「なあ悠二、ちょっと聞いていい?」

「ん?なんだ?」

「今日、グラウンドで見かけたんだけど……

 銀色っぽい髪で、すごくきれいな子、見なかった?」

悠二は、ふっと小さく笑った。

「……あー、心当たり、あるかも。」

その顔には、何かを理解したかのような面白そうな表情が滲んでいた。

「たぶん、もうすぐ来るよ。うちのクラスだから。」

(本当に!?あの時の子が、同じクラスに……!)

「ほんとに!?」

思わず声が弾む新に、悠二は苦笑しながら肩をすくめた。

「まあ、焦んなって。

 ……ほら。」

悠二が顎で示す先。

教室のドアが、カラリと音を立てて開いた。

そこに立っていたのは──

春風を纏ったような、あの少女だった。

清楚に制服を着こなし、

白亜麻のロングヘアを揺らしながら、

彼女は静かに教室へと足を踏み入れてきた。

教室にいる生徒たちが、一瞬だけざわめきを潜める。

誰もが、彼女の存在に自然と目を奪われた。

(──本当に、同じクラスなんだ)

新は、胸の奥が高鳴るのを抑えられなかった。

少女──三津原詩織は、

知り合いを探すかのようにあたりを見て、こちらに気がつくと近づいてくる。

(もしかして俺を探して)

新がこれから起きることに対する期待に胸を膨らませていると

「よ、詩織。また同じクラスだな」

三津原は顔を上げ、にこりと微笑んだ。

「そうみたいですね。また一年間よろしくお願いします、悠二君」

「こちらこそ。しかし、驚いたな。まさかまた一緒とは」

「ふふ、私もです。小学校からずっと一緒ですものね」

「まあな。腐れ縁ってやつか」

悠二は冗談めかして笑った。三津原も小さく笑い返す。

「ひどい言い方ですね。でも、また頼りになるクラスメイトがいて、心強いです」

「お互い様だ。何かあったら遠慮なく言えよ」

「ええ、その時は頼りにしますね」

二人の間には、長年の付き合いならではの、気安くも穏やかな空気が流れていた。

(え、悠二と三津原さんのこの近さ……まさか既に付き合って)

「あ、こいつは朝宮新。

 サッカー部だったらしいから意気投合してたんだ。

 新、こいつは三津原詩織。

 俺の幼馴染だ」

悠二が彼女、三津原詩織を紹介してくれる。

「あ、朝宮新です。

 よろしく」

「ああ、グラウンドにいた。

 三津原詩織です。これから一年よろしくお願いしますね」

三津原は軽く微笑む。

その後、友人に呼ばれそちらの輪に入っていった。

詩織が離れたあと、隣で悠二が、ぼそっと話す。

「言っとくが、詩織と俺は付き合ってないぞ。

 俺、彼女いるし」

「はえ!?」

「お前、わかりやすいな。」

悠二が笑いながら肩に手をおいてくる。

新は顔を真っ赤にして、言葉を失った。

──こうして、朝宮新の「運命」は、

静かに、でも確かに動き始めた。

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