第1章 7度の失敗と8個目の世界
第5話 8個目の世界へ
また、失敗した。
気がつくと、俺は真っ白な世界――神域へ戻っていた。色も影も存在しない、あの静謐な空間。そこは、神と再会する場所であり、自分の敗北を突きつけられる場所でもあった。
これで7つ目。7つの世界を、間接的とはいえ滅ぼしてしまった。
あといくつの世界を壊せば、俺は誰かを救えるのだろうか。
「……もう、諦めますか?」
背後から、変わらぬ優しい声が届いた。振り返ると、そこにはいつもの神の姿があった。どこか中性的で、どこまでも透き通るような存在。俺が何度失敗しても、その表情は変わらない。
期待に応えられていないというのに、責めることもなく、ただ穏やかな笑みを向けてくる。
それが、どうしようもなく辛かった。
眷属として力を授かりながら、何も救えなかった。何も残せなかった。そんな自分が惨めで、情けなくて――息をするのも苦しい。
「大丈夫です。あなたは……よくやっています。たとえ結果が出なくとも、私は決してあなたを見捨てません」
うつむき、唇を噛みしめたまま、俺は拳を強く握る。白くなるほどに力を込めた手に、ふと温もりが触れた。
神が、そっと俺を抱きしめていた。あの白い世界で、確かに感じる体温。心の奥に静かに沁みていく、やわらかい熱。
気づけば、強く握りしめていた手が、ゆっくりとほどけていた。
「世界を渡るたびに、あなたは確実に強くなっている。……今回の失敗は、あなたが強くなりすぎたがゆえのこと。けれど、その“代償”をどう乗り越えるべきか、もうあなたは知っているはずです」
「……本当に、俺に世界を救うことが……できるんでしょうか」
その問いは、自分の弱さをさらけ出すようで怖かった。でも、口にせずにはいられなかった。
神は微笑んだまま、はっきりと答える。
「できます。あなたが、折れずに、まっすぐ進み続けることができるならば」
その言葉に、論理も根拠もなかった。けれど、不思議と胸に届いた。
過去の失敗。7つの世界に背負った後悔。そのすべてが、俺の中に確かに刻まれている。
――それでも、もう一度立ち上がろう。立ち直る理由なんて、今は小さくても構わない。
「……行きます。もう一度、やってみます」
「決意が固まったようですね」
神が抱擁を解くと、目の前に扉が現れた。淡く光るその扉は、次の世界へ通じる入口。俺は迷わず歩み寄り、銀のドアノブに手をかけた。
回す。軋む音。光が、隙間から漏れ出す。
やがて全開になったその瞬間、眩い光が視界を覆い、目を開けていられないほどの輝きに包まれた。
「……頼みましたよ、田中湊。私たち神は直接、世界に干渉することができません。だから、あなたに託すのです」
その言葉を背に、俺は光の中へ足を踏み出す。
次の世界こそは――きっと、救ってみせる。
この手で。
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