部活見学

「結局、鈴原先輩いこーる面倒な人っていう印象で終わっちゃったなあ。たぶん、悪い人じゃないんだけど・・。」


鈴原先輩は学園のことをなんでも知っている。だったら、学園の生徒に宿る星座の能力のこともきっと知ってるよね。記録して、記憶もしているなら、証拠もあるだろうし。

鈴原先輩と普通にお話したかったなあ。聞きたかったなあ。大河も様子がおかしかったし、なんだか心配。


「大河も元気なかったんだよね。いつも一緒にお昼食べてるから、そばにいるのが当たり前になっていたけど、大河がいないお昼は静かだったなあ。」

帰ろうと、ゆっくり廊下を歩く私の横を猛スピードで何かが通った。

「いなほちゃん!いなほちゃん!!」

私の前にはくるみちゃんが立っている。というかくるみちゃん走るの早いなあ。こんなに早かったっけ?とりあえずお話だけ聞こうかな。

「なあに?くるみちゃん。」

「今度こそ!大スクープですわ!! 鈴原先輩と誰かが生徒がいなくなった学校をウロウロしているという情報を手に入れましたの! これは放課後に帰る生徒から証言を得ていますから、問題ない、はずっ!!」

くるみちゃんこんなに元気いっぱいだっけ?私もおかしくなったかな・・?とりあえず話を続けないと。


「生徒がいなくなった、ということは夜の学校?」

「夜かは分かりませんが・・。帰りが遅くなったときに鈴原先輩がウロウロしていたのを見た、と。すごく気になりません?」

「でも予定もなく帰りが遅くなるのはなあ・・。この間は保護者会があったから何とかなったけど、帰りが遅くなる理由が浮かばないよ。」

「瀬名くん!!瀬名くんは弓道部に入っているでしょう?部活の見学をすれば帰りが遅くなっても!理由になりますわ。」

「な、なるほ・・どぉう!? 湊くんのところに寄るの・・・?だ、大丈夫かな?」

「私といなほちゃんで見学申請をしておきましたわ。さ、いきましょ。」

くるみちゃんにぐいぐい引っ張られながら、私達は弓道部の活動場所である弓道場へ向かった。そこには湊くんをはじめとした部員が練習に打ち込んでいた。湊くんが私達に気づいたようで、こちらに駆け寄ってくる。弓道着姿の湊くん、やっぱりかっこかわ・・素敵だなあ!!

「稲荷・・さん? 部活には入ってなかったよね?どうしたの?」

「えっとー・・。くるみちゃんと見学に来ました。」

「そっか。静かな雰囲気だから、喋りづらいと思うけどごゆっくり。」


湊くんが去ったあと、あれ?誰かと喋ってる。ちょっと耳を傾けてみようかな。えーっと・・男の子で、メガネかけてる・・なあ。

「ははっ、湊くんが誰かとおしゃべりなんて珍しいですね!今まで女の子と話したがらなかったですし。噂の護衛ってあの子かな?」

「まあね。なおきくん、それ以上触れたら怒るからね。」

「いやあ、勘弁してくださいよお。さ、練習に戻りますか。」

文学部では見かけないから、天文部の子かな?私は練習している湊くんともう一人の男の子をボーっとしながら眺めていた。その周りには湊くんのファンがいたけれど、らしくない大河とくるみちゃんと一緒にいて疲れている私には眼中になかった。

「まあ、あなた、筋が良いじゃない!」

「小学生の頃やっていまして・・・。」

「弓道部入らない?」

くるみちゃんは実際にやってみたらしい。

筋が良くて、先輩達に褒められている。

私、握力が弱いから弓道は難しそう・・。いいなあ、くるみちゃん。

湊くんももう一人の子も上手だし、なんか場違いかも・・。


—キーンコーンカーンコーン・・・。


「それでは本日はここまで!お疲れ様でした!!」

「お疲れ様でした!!」

終わりのチャイムが鳴って、道具の片付けが始まる。


「あっという間だったなあ。そしてみんなかっこよかったなあ!」

湊くんを見られたのは満足。でも自分の力不足を思い知らされたみたいでちょっと複雑。

「おつかれ。稲荷さんは、稲荷さんでいいんだからね?またあとで。」

湊くんが通りかかって囁く。やっぱり心の中を読まれているんじゃ・・。もう一人の男の子は私の前で止まった。

「こんにちは!僕、辰巳なおきっていいます!天文部で湊くんと同じクラスで弓道部なんだ。君たちは?」

「私、稲荷ほのか。文学部です!私の友達が湊くんと知り合いなの。なおきくん、よろしくね!」

「古坂くるみと申します。ほのかちゃんとは同じクラスですの。以後お見知りおきを。」

「そっか、よろしくおねがいします!はあー、湊くんもお話できる相手が増えてなおきさん嬉しいぞ!」

なおきくんが我が子の成長を喜ぶように嬉し叫んでいる。途中で我に返ったようで、更衣室へ向かっていった。


「天文部の子って結構面白キャラ多し・・?」

「あら?瀬名くんは面白キャラなんですの?」

「ち、違う・・もん。鈴原先輩とかなおきくん。」

鈴原先輩とか・・と言いかけて思い出した。そう、鈴原先輩!みんなが帰ったあとの学校にいる鈴原先輩!!どこかにいないかな?弓道場から見える校舎を見渡すと、図書室に続く渡り廊下に桃色の三つ編みが揺れるのが見えた。鈴原先輩だ。


「くるみちゃん!図書室に先輩発見だよ!」

「本当ですの?急ぎましょ!」


私達は大慌てで弓道場をあとにした。そして、図書室に向かう。

図書室の景色は星空になっていて、羊たちがぷかぷかと浮かんでいる。

その羊の上には、鈴原先輩が乗っていた。


「あら・・?稲荷ちゃん。見てしまったのね。」

「先輩!教えて下さい。星座の力のこと!! 記録も取ってて記憶もしてるんだから、知ってますよね!」

「ふぅん。ある程度知ってるんだ。じゃあいいわ。私、鈴原めりのが持つ星座の力はおひつじ座。羊を使役することができるの。そして。その羊に触れた相手を眠らせることができるのよ。私は例外だけど。」

くるみちゃんに一匹の羊が触れた。可愛いと撫でていたけれど、その瞬間、くるみちゃんは倒れ込んでしまった。

「大丈夫。眠っただけ。・・私の意思に関係なく、相手を眠らせることができる、といったでしょう?稲荷ちゃんも羊には用心することね。」

「じゃあ、その羊さんが入らないように・・」

私は乙女座の能力を使って、木の檻を作った。

「・・でも、これじゃあ、鈴原先輩とお話ができないよ。」


「私とお話?なーにおかしなことを言ってるの?どうせ、私が持っている情報が目当てなんでしょ?それ以外のことはどうだっていいんでしょ?」

「星座の力のことは知りたい。でもそれ以前に鈴原先輩がどうして学校のあらゆる出来事を記録しているのかが知りたい。忘れたくないことがあるから、って私、聞きました。そこまでして必死になることってなんだろうって。」

「・・誰にも、話したくない。話したところで、信じてくれない。だから、心にしまい込むことにしたの。それでも話してと言うのなら。」

鈴原先輩の周りに更に羊が溢れてくる。

「私と戦いなさい! どうせ、稲荷ちゃんが眠って私の勝ちになるのは見えているけど!」

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