守りたいもの
「戦うって・・?どうして。」
私は思わず、落ち込んで力が抜けてしまった。すると、檻を作っていた植物たちがどんどん枯れて消えていく。
「ほら、結局弱虫じゃない。おとめ座の力って自分の感情に左右される。そんな弱虫に教える情報なんてなにもないわ。」
私の周りに羊が集まり始める。触れたらくるみちゃんみたいに眠ってしまう。どうしよう。
その時。
「斬り捨て御免!」
白いヘビが羊にからまり、羊たちは消えてしまった。誰かと思えば、そこにはなおきくんが立っていた。私がどうして?とつぶやいた途端、あたたかい光が私を包み込む。落ちこんでいたのが気づいたら元気になっていた。
「ほのかさん、黙っていてごめんなさい。僕、へびつかい座の能力者です!お助けに参りました!」
「へ、へびつかい・・?」
私がぽかんとしていると、鈴原先輩が不機嫌そうな顔をして喋りだす。
「へびつかい座の力は、ヘビを使役でき、誰かの傷などを治す。私と対になる能力者。本当みんな私の邪魔ばっかり!!みんな、眠ってしまいなさい!」
鈴原先輩は怒り出して、図書室が埋まるほどの羊を呼び始めた。私の周りにいる羊たちはなおきくんがヘビで追い払ってくれているけれど、これじゃあ、キリがない。どうしよう。くるみちゃんを守らなくちゃ。私も再び植物を呼びおこし、くるみちゃんを守る檻を作った。
「鈴原先輩、やめてください!私達、戦って何になるんですか!!」
「・・・私は真実を守らなくちゃいけない。私が忘れたら、誰が覚えているというの。正直に話しても笑われて、そんなの嘘だと言われて。だったら、最初から話さない方がいい!」
「笑われるかどうかなんて、実際に話してみなければ分からないですよ!ほのかさんは人の話を聞いてすぐに馬鹿にするような人じゃありません!」
私に続いてなおきくんが言う。さっき話したばかりなのに、ここまで言ってくれるなんてなおきくんは優しいな。と思っていた時、小鳥のさえずりのような声が聞こえる。
「そうだよ、やめて。」
「やめて、めりの。」
どこからか二人の女の子が現れる。ひとりは天文部の制服を着ていて、もうひとりは文学部・・だけど見たことがない子だ。まさか幽霊・・?
「幽霊じゃないよ。私。だいじょうぶ、生きてる。」
「めりの、もうこれ以上、星座の力を使って私をいじめた子を眠らせたりおしおきしないで。それにこの子達は関係ない。」
「・・!! 星華、月華・・・。隠れててって言ったじゃない。なんで出てきたのよ!!」
「私達が、もういい、って思ったから。」
「十蟹先生が、いじめに関してはなんとかしてくれることになったから。」
いじめ・・?もしかして、天ノ川学園でいじめがあったの・・?鈴原先輩はその証拠集めに情報を集めて、学園内の出来事を記憶して、記録していたということ?
「信頼できる人だから、自己紹介、しておくね。私は鏡宮(かがみや)星(せい)華(か)。天文部。月華は双子の妹。めりのとはクラスメイトよ。」
「私は鏡宮(かがみや)月(つき)華(か)。ほのかちゃんと同じ文学部。でもずっと学校を休んでいたから、ほのかちゃんが知らなくて無理はないわ。私いじめに遭っていたの。」
月華先輩がいじめに遭っていたと話した時、私の考えがだいたい合っていたことが分かった。この学園でいじめが遭ったことも悲しいけれど、鈴原先輩が二人を守ろうと孤軍奮闘していたことを思うと胸が痛い。鈴原先輩が観念したという顔をして話しだす。
「星華、月華の言うとおりよ。私は月華がいじめに遭っているのを知って、証拠を集め始めた。学園内でおきた出来事は全部記憶、記録した。新聞部に入っているから情報はたくさん入ってくるし。でも、この学園でいじめなんかあるわけがない。と先生は誰も聞いてくれなかったわ。」
「けれど。いじめの犯人が星座の能力を持っていると分かって、十蟹先生も協力、監視してくれるようになった。十蟹先生は、かに座の力を持っているから。」
「月華、十蟹先生ばかりに頼っちゃダメよ。大人なんて忙しくて、いつ何をしてくれるかわからないのよ。私達が声をあげなくちゃ。」
「・・だから、めりのは無理をしすぎと言っているのよ。私はもう大丈夫だから。アイツを眠らせたり、こてんぱんにしたのは知っているから。私は明日から学校へ行くよ。」
「またあなたに何かあったら・・!!」
「その時はめりのが守ってちょうだい。それにほのかちゃんもなおきくんも湊くんもいるんだからなんとかなるでしょ?」
鈴原先輩は月華先輩と星華先輩に対して過保護だけれど、それだけ大事なお友達なんだよね・・?私も力になれたらいいのだけれど。
「あの、鈴原先輩、なにかお手伝いできること、ありますか・・?」
「・・えっと、めりのでいいわ。堅苦しいし。感情的になってごめん。」
「じゃあ、めりの先輩! アイツって誰なんですか・・?」
私が思わず声に出す。しかし、めりの先輩も月華先輩も星華先輩も怯えたような顔をしている。
「アイツはね・・ごめん。今は言えない。待ち伏せしてたけど今日は違ったみたいね。」
「私達、ふたご座の力でも、かなわない。」
「ひとつだけ言えるのは、たまに夜の学校に来ている、ということ。」
アイツというのが口に出せないくらい怖い相手なんだ。私達もアイツとしか言えない人と戦うことになるかもしれない。そう思うと私も身震いする。
「今日はもう帰りましょ。月華も明日から学校へ行くなら、星華と離れちゃダメよ。」
「うん。分かってる。ありがとう、めりの。」
くるみちゃんの意識も戻り、私達は離れないように図書室をあとにした。めりの先輩たちと別れて、私達も校門へ向かうと、校門の前でムスっとした顔で湊くんが待っていた。
「稲荷さん・・? なおきくんが駆けつけたからよかったけど、なんて無茶なことを。」
「な、なんてもないよー? 湊くん。」
「無茶もなにも。同じ星座の能力者だから力を使ったことくらい分かるよ。僕はあのあと部長に呼ばれちゃって、足止めされたから、なおきくんに行ってもらったというわけ。」
「湊くん、ほのかちゃん、大活躍でしたよ!!」
満面の笑みでなおきくんが言うと、湊くんがなおきくんの頬を軽くつねっていた。湊くんは笑っているけれど、面白いから・・じゃないよね?一息ついたあと、くるみちゃんが私達を車で送ってくれることになった。湊くんとくるみちゃんも交えて詳しい事情を話す。
「なるほど。鈴原先輩はいじめられていたお友達のために学校の情報を集めていたんだね。」
「そうなの。そして、同じ星座の能力者がいじめの犯人みたいなんだ。しかもすっごく強いの!」
「いやあ、僕達でかなう相手なんでしょうかね?夜となると祖母が口うるさくなるので、夜は避けたいところなんですけれど。」
「え? なおきくんもおばあちゃんが厳しいの!? 私のところもそうなんだよお。って、いけない。今日帰りが遅くなる理由伝えてない!」
「はい! 自分もそうでした。まずい・・。」
「分かりましたわ! 霜村さん、なおきさんから順番に送ってくださいな。」
霜村さんというのは、くるみちゃんの専属メイドさん。運転だけじゃなくて家事や身の回りの準備までなんでもこなしちゃうんだって。霜村さんはなおきくんから家の場所を聞いて、あっという間になおきくんの家まで着いた。地図も見ないで口頭の説明だけで・・すごい。
「今日はありがとうございました! おやすみなさい! ほのかちゃん、お互いおばあちゃんに怒られちゃいますね、あはは・・それじゃあ!」
なおきくんはどこか名残惜しそうに家に入っていった。そのあと、なおきくんのおばあちゃんの雷が響いているのがよく分かってしまった。なおきくんのおばあちゃんって元気いいね・・。
「それでは次は稲荷様をお送りしますね。」
霜村さんはクールなんだけどハンドルを握った途端、別人にみえる。くるみちゃんいわく、ハンドルを握ると性格が変わってしまうタイプなんだとか。くるみちゃんは携帯電話を取り出して、私に差し出す。
「いなほちゃん。お家に電話してくださいな。」
「あ、ありがとう!くるみちゃん!」
私は先に家へ電話をした。あれ?なおきくんにも電話渡しても良かったのに?・・幸いお母さんが出たから良かったけれど、次からは事前に伝えてほしいって。そりゃそうだよね。暗くなると心配になるよね。次から気をつけよう。電話をしている間に私の家に到着。玄関前でお母さんが待っていた。
「くるみちゃん、今日はありがと!巻き込んじゃってごめんね。大丈夫?」
「大丈夫!よく眠ったから元気いっぱいですわ!それじゃあまた明日学校で。」
私は車を降りて、玄関に立っていたお母さんに抱きつく。お母さんも私を抱きしめてくれた。
一方その頃。車内では・・。
「瀬名さん、いなほちゃんに手を出してなんのおつもりかしら?」
「古坂さん、僕はそんなつもりはないんだけど。」
車のエンジン音だけが響く。霜村さん、くるみ、湊だけが残る車内はとても緊迫していた。外灯とほんのわずかに光る車内だけが照らしていて、お互いの顔はよく見えない。
「とぼけないでくださいな。瀬名さんがいなほちゃんを慕っているのは見ていて分かります。ですが!能力者だからといって最近距離が近すぎでは?」
「ふうん。古坂さんも稲荷さんに対してベタベタしすぎじゃない?電話だってなおきくんに貸そうと思えば貸せただろ?稲荷さんだけにいい顔するのは良くないよ。」
くるみと湊の口論が響く。お互い譲る気はない。
「・・とんでもないところにいるな、私は。」
霜村さんがぼそっとつぶやいたが、二人には聞こえていなかった。
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