第18話:代償

校庭を夢中で走り回っていたある日、息が切れて、脇腹が痛くて、立ち止まった。


あのとき知ってしまったんだ。

走るって、しんどいんだって。


そして知った瞬間から、走ることにはしんどさがついて回るようになった。


走ることに限らない。


声を出すと喉が枯れる。

好きになると苦しくなる。

生きていると疲れる。


楽しさの向こうにある代償が、歳を重ねるごとに増えていく。


楽しいはずのことが、先に「損得」や「疲労」や「結果」によって測られてしまうようになった。


昔はちがった。

ただ走ってた。

ただ笑ってた。

ただ夢中で転んで、泣いて、起きて、また走ってた。


あれはなんだったんだろう。


いま、楽しむたびにどこかで構えてしまう。


「あとで疲れるんじゃないか」

「後悔するんじゃないか」

「バカにされるんじゃないか」


得たものより、払うものの方が先に浮かぶ。


何かを得るには、何かを払わなくてはいけない。


そんなふうに世界ができていると知った代わりに、


あの頃のは、きっともう味わえない。

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