第30話
『あ、宗清、衛星回線繋がるよ!どうする?』
ルーガヤの市街が見えだしたタイミングで、ヒマリが急に報告してきた。ルリエンナのヴェリティも同じことを報告してくる。
「ようやっとか!すぐ繋いでくれ!そんでブービー経由で日本に連絡する」
『でもめっちゃ通信料高いよ?だいじょぶ?』
「……背に腹は替えられんめぇ」
ぐぬぬと思いつつも許可する山永。まあ命あっての物種だ。
その直後。
――ピピッ。
『山永3曹、後方よりローター音』
「……?!」
車両とブービーのアラート。モニターを見るとヘリが見える。あのシルエットは……。
「……攻撃ヘリ?」
一目散にこちらに突進してくる。ハインドだ。どこからあんな骨董品が湧いて出たのか。
「……ッ!?」
攻撃の意志を感じた山永はハンドルを握って、アクセルを吹かせ右の路外に飛び出す。
――ドダダダダッッ!!――
撃ってきた。30mmの機銃だ。進路前方に
着弾。ガンガンガンと、掘削機械のような着弾音。どうやら警告射撃のつもりらしい。
「舌噛むなよ!!」
路外機動で思わず日本語が出る山永。
“Don’t bite your tongue!”
素早くヒマリがルリエンナに英訳する。
"Roger!"
不味いと山永は思った。避けた時点で次は狙いに来る。どうする。
「ッ……!」
ハインドがオーバーパスする。街まで目の前だ。利用して悪いが、市街地に飛び込むしかない。流石に民間人がいる中では撃てないだろう。路上に戻り、アクセルベタ踏み。猛然と街の入口へ急ぐ。
一方ハインドはすぐさま右へ反転し、ハーケイへとその首をもたげる。街の入口辺りでホバリングでヘッドオンになるかならないかの瞬間、今度も右へハンドルを切る。
――ドダダダダッッ!!――
路上に弾着。今度は案の定、致命射撃だ。だが街まであと少し。もう一度路上へ戻り、
「……ッシャァッ!!」
なんとかハインドの腹の下を通り抜け、街に入れた。しかし。
――ピピッ
『敵機反転』
「?!マジか、やる気か?!」
ブービーの警告と共に後方カメラに映る、回頭するハインド。諦めた雰囲気ではない。
「しつこかなァ!」
狭そうな路地に左折し、なんとか巻こうとする山永。ハインドは一度上昇し、ハーケイの位置を掌握しようとする。人通りが多少あり、気を使ってしょうがない。
『射撃注意』
その言葉の『しゃ』の辺りで既にさらに右折。土煙を上げながら、道路に穴ぼこを開けていくハインド。住民たちが悲鳴を上げながら建物に隠れる。ダメだ、コイツはイカれてる。山永はそう思った。民間人がいるのにも関わらず機銃を撃つなど、逃がす気は無さそうである。
"Luri!!"
"Yes!?"
"Drive it!!"
[運転しろ!]
"......?!"
一瞬だけ逡巡するルリエンナ。
「ハーケイ、オート!!」
『了解』
ハーケイに指示を出すと山永は後部へ移る。素早くルリがドライバー席へ。
「ハーケイ、ルリに運転!!」
『例外認証します』
“What are you doing?!”
[何する気?!]
山永は後部架台に載っているキソーへ滑り込む。ナノ用のチューブアタッチメント装着。
「ブービー、起動!高速立ち上げ!」
『了解』
各モニタに火が入る。その間もルリが右に左に路地を変え、なんとか機銃掃射から逃れている。
"Hey!! What are you doing now?!!"
[ねぇ!!何する気なの?!!]
ルリが怒鳴る。
"Run, Luri!! I'll do it!!!"
[逃げろ、ルリ!!俺がやる!!]
ナノ投与開始、後部ハッチ解放。完璧に開くのももどかしい。出れると判断した瞬間、山永は道路上に飛び出した。奴に目にもの見せてやる。
――彼の戦いが始まった。――
「ブービー、レコンランチ!」
『レコンランチします』
いつもどおり目を出す。まずはあの野郎にご挨拶だ。リンクを装弾盤に乗せ、槓桿を引く。M-2キャリバー
――ズドドドッッ!!――
12.7mmを叩き込む。下部に当たった。だがハインドの下っ腹はムダに頑丈だ。特に損害は与えられない。しかし、
――ガンガンガンガン!!――
来た。反撃の機銃がこちらを向く。その時点でこっちはダッシュで横起動。そうそう、ワイの相手はオイぞ。素早く建物の影の路地へ。そのままツーブロックほどダッシュし民家の屋根に飛び乗る。たん、たんとツーステップで屋根の端まで滑るように移動、そして射撃。
――ズドドドッッ!!――
またヒット。だが意に介した様子はない。腹ん立つほど頑丈な奴め。
短連射すると直ぐに屋根から飛び降り、さらに走る。なるべく車両から離れるように。
バタバタというローター音と共に、またしても高く飛び上がる。そう、なるべく頑丈な部分を盾にしつつ、高い位置でこちらを探そうとしているのだ。だとすればあの状態では叩き落とせない。やるとしたら
――ガンガンガンガンガンガン!!――
見つかった。今いる位置は隠掩蔽物が少ない。ダッシュで隠れられる建物へ移動する。相手も高度を上げると集弾率が下がるようだ。至近弾で土や砂を浴びるが、命中弾はない。ふと向こう側にこの町にしては高い、4階建ての建物が見えた。あそこだ。あそこに向かう。
「ふっふっふっはっはっは!」
小気味よく、全力で。
跳躍、着地、射撃、制圧。
制圧射、狙撃、誘導、防御。
そして、侵攻。推して推すべし。それがAMIの鉄則。
無敵の鎧を身に纏い、無双の槍を抱える最強の歩兵。ならば、ただの歩兵より遥かにその存在価値を示さねばならない。
またしても建物の屋根に登り単連射をしようとした時、レコンたちの画像で明らかにホバリングするハインドが見えた。ブービーがアラート。
――ピピッ
『警報、制圧射注意』
「……??!!」
――ガシュガシュガシュガシュガシュゥゥゥゥッッ!!――
しびれを切らしたのか、S-8ロケットポッドを発射してきた。あんイカレめ、こんな市街地で、狂っとる。
周囲で爆ぜるロケット弾。こんな民家の建屋などひとたまりもない。
一瞬で屋根が崩れて踏み外し、地べたへ仰向けで落着。
「ごはっ!!」
思い切り背中から落ちた。クソ痛ぇ。ナノが痛覚制御していなかったら息が出来なかったかもしれない。もうもうとした煙が彼を覆い、無数の瓦礫が荒れ狂う。
全身を金槌でめっためたに叩れるような衝撃。
為す術などない。だが、それでもここから抜け出さなければならない。
死ぬわけにはいかないのだ。彼の任務はまだ終わっていない。
このくそったれが、ルリ達の尻に食いつく姿など化けて出ても見たくはない。
鼓膜が破けんばかりにがんがんと爆裂音が響く。
彼は装甲を打ち鳴らす瓦礫を払い除けるように腕を振った。肘を地べたに叩きつける。
反動で仰向けからうつ伏せへと体が転んだ。
急がねばならない。後背の装甲は薄い。5.56mmに数発耐えられる程度だ
腹に抱え込むように右足を引き上げ、あらん力で地面を蹴り衝ける。
火薬が仕込んであるかのように、つま先から爆発的なエネルギーが噴出し、体を躍動させた。
俺を瓦礫の雨から叩き出してくれる。
「……まだ終わっとらんぞ」
眼の前に先程目標にした4階建ての建屋。
……こいやクソボケ。オイはここぞ。
ハインドの奴は、ロケットの弾着で巻き上がった土煙のせいで俺のことを見失っている。わざと目立つように射撃。キャリバーの鬨の声。
――ドドドドドッッ!!――
気付いた。
(来い来い来い来い!!!)
今度は猛然と低空で突進してきた。待っとったぞ。フルパワーでコンクリートの建物にジャンプ。バルコニーに飛び乗ったあと今度は屋上の階段に飛び移り屋上へ。
奴は30mほどの低高度で、機銃を撃とうとしている。構造上、こっちが高いところにいると撃てなくなるのだ。建物が15mほどある。ここからさらにジャンプすれば……。
ハインドがこっちより先に機銃を撃とうとする。
その時、テールローターに火花が散った。
「……?!」
二回、三回とさらに火花。すると見る間に安定を失い飛び方がもたついていく。あれでは機銃の照準もうまく定まるまい。
「……んぅぅん!!」
フルパワーで屋上からジャンプ。この高さならキャノピーもよぉく見えるぜ、クソ野郎。腹いっぱい食わせてやる。
――ドドドドドドドドドドッッ!!――
弾道計算支援を受け照準、ジャンプの頂点付近で十連射。圧倒的集中力のせいで射撃がゆっくりに感じる。十の弾道が吸い込まれるようにキャノピーへ。
――ガン、ガガンガガガン!!――
キャノピーに血飛沫が広がる。コントロールを失い一回転するとそのまま地上へ墜落。
――ガシャァァン!!――
大空の覇者は、見るも無惨な鉄くずにその姿を変える。
ザマぁみろ雑魚が。
20m下へ落下した衝撃をなんとか受け身で受け止めながら着地。いってぇ。思いっきり背中打った。それにしてもなんでハーケイがここから見えんだ?
ルリはハーケイに運転を任せ窓から体を乗り出しながら、車内にあった20式小銃で移動しているハインドのテールローターを撃ち抜いていた。ヴェリティの支援があったとはいえ狂気の射撃精度だ。しかも3発、命中させている。恐ろしい集中力である。車内に戻り、無線で呼びかける。
“Sergeant! Respond! Yamanaga!!”
[軍曹!返事して!!山永!!]
ルリの必死の呼びかけに、
"......Luri, I'm alive."
[ルリ、生きてるぞ]
声が、聞こえた。
“......Idiot......Idiot...! Please...don’t scare me like that!”
[……ばか……バカ……!お願いだから……あんな心配させないで!]
言葉が途切れる。強張っていた彼女の声が、ようやく緩む。
"My bad..."
[わりぃ……]
怒鳴るでもなく、泣くでもない。
ルリの握っていた銃の力が、遅れて抜けた。
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