1-6 夜道、面影を追って

仕事帰り、買い物袋を片手に、ユイはゆっくりと歩いていた。

イヤホンもつけずに、ただ、

頭の中に流れるのは――

さっきまで思い出していた“あの夏”の記憶ばかり。


「ペンダント付けて出勤とか、恥ずかしいよね」

あの夏のテーマパークでもらった"思い出のハートアローペンダント"

戻れないと分かっていても、なぜか妙に心地よい気分に浸ってしまう。


文化祭の告白。

照れたリョウの顔。

断られたあと、自分がどんな風に笑っていたか。

それらすべてが、なぜか今日になって、急に胸の奥をざわつかせてくる。


「……やり直せたら…いいのにな」

 

 夜道を歩くヒールの音が、いつもよりも冷たく響く。

駅前の人通りの中に、ユイはぽつんと取り残された気がした。


そのとき――


目の前をすれ違った後ろ姿に、胸が一瞬だけざわめいた。


制服姿の男の子。

どこか懐かしい背格好と、横顔。


(……うそ、まさか)


思わず、駆け出していた。

無意識に、叫んでいた。


「リョウくん……!?」


人ごみの中で振り返る彼――

その顔は見えなかった。だけど、ペンダントと同じ光が、彼の胸元で一瞬だけ揺れた気がした。


足元が、ぐらついた。

階段にかかる段差にヒールが引っかかり、バランスを崩す。


「――あっ……!」


重力に引っ張られるように、体が前に傾く。


その瞬間、ユイの胸元で、アローのペンダントが一瞬強く光を放った。


視界がゆがむ。

人の声が遠のいて、周囲の音が、ノイズのように変わっていく。


「……え……?」


不意にこぼれた声は、困惑と混乱を含んでいた。


何が起こっているのか、身体も思考もついてこない。

ただ、光がすべてを塗りつぶしていく。



気づけば、ユイの身体はもう、あの夏の教室へ向かっていた。

始まりのようで、終わりのような、“再会”の季節へ。

 

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