〈短編〉雨音がくれた手紙
夕砂
雨がくれた手紙
ダンボールのふたを開けると、湿気を含んだ紙の匂いがした。
引っ越しは、思っていたよりもずっと骨が折れる。
荷造りをしているうちに、いろんな感情まで詰めなおすことになるから。
外では、朝からずっと雨が降っていた。
どんよりと重たい雲が空を覆って、光の気配はどこにもない。
まるで、今日の私の心を映しているみたいだった。
畳まれた服の奥にしまってあった小さな封筒を見つけたとき、一瞬だけ時が止まった。
ああ、そういえば──
これ、最後にもらったんだった。
置き忘れていた気持ちが、雨に混じってふわりと立ち上がる。
「読むのは、いつか気が向いた時でいいから。」
遠い記憶の中、そんなふうに言ってた気がする。
その“いつか”が、今日だったのかもしれない。
封を切ると、少し掠れたインクと、見覚えのある文字。
──空ってさ、不思議だよな。
晴れる気配なんてまるでなくても、
それでも、いつか勝手に青くなる。
人の気持ちも、そうだったらいいのにな。
俺は、あのときもっと何かできたのかなって、今でもたまに考えるよ。
好きだけじゃ、どうにもならないことってあるんだな。
でも、できるなら…戻れたらって、思ったこともあった。
たぶん、今もどこかで思ってる。
でもきっと、もっと合う誰かがいるんだろうな。
悔しいけど、本当なら、いいことだよな。
元気で、またな。
p.s. 雨が止んだら、空は少しだけ軽くなるぞ。
窓の外では、雨が静かに降り続いていた。
灰色の空はまだ重たいままだけど、
なんとなく、その向こう側に光があることを信じてもいい気がした。
彼も、あのときこんなふうに
言葉にならない痛みを抱えてたんだ。
私は気づかないふりをしていたのかもしれない。
いや、気づいていたのに、怖くて見ようともしなかった。
荷物を詰める手が、少し止まったまま。
でも、心は静かに前を向き始めていた。
「……元気でね。」
小さく呟いた声は、雨音にすっと溶けていった。
〈短編〉雨音がくれた手紙 夕砂 @yzn123
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます