村外バトルは胸躍りますわね!

荷馬車を守るように立ちふさがる2人。向かい合うのは、大豚の魔物。この辺りでは、遭遇すること自体は珍しくないが様子がおかしい。


普段は薄い桃色である皮膚が今は真っ赤で酷く興奮した様子。常に4本足を使って移動するはずの魔物が今は立ち上がり、岩のように大きな体つきで2人と1頭を見下ろしていた。


丘の斜面をツナギは急いで滑り降りる。


単体ではかなり臆病なはずである大豚の魔物は鼻息を荒くさせたまま、そのまま突進。


向かう先は、荷車に繋がれたままの栗色の馬。それを守ろうと魔法バリアを張って無防備になったエルフの夫人。


それを見越したかのように豚らしくない急転換で夫人に向かっていった。夫の叫びを聞き、咄嗟に避けようとしたが間に合わず、体は風に吹かれた木の葉のように軽く吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。


魔物は衝撃で動けない夫人に向かってもう1撃。丸太のような腕を振り上げ、力いっぱいに振り下ろしたところに、剣を構えたツナギが割って入った。


「ふーっ、間に合った⋯⋯おらよっ!」


旅立ちの日とはいえ、早くも本日2度目の出番。ガシリと若干歯ぎしるような衝撃を感じらながらも、骨素材の剣は大豚の腕を受流すように防いだ。


「⋯⋯ワタ村の⋯⋯ツナギくん⋯⋯」


滑らかに輝くような金髪。地面を撫でるように乱れた髪の毛の向こう側からうっすらと開いた青い目がショーの姿を見た。



「数少ないエルフのお知り合いなんだぞ!よくもやってくれやがって」


攻撃を受け流しながら、身を反転させ、そのまま反撃に移行。盾の真ん中。やや突起めいた丸みのある部分で、ツナギは回転打撃。自分の体重と回転スピードを合わせ、大豚の頭部横へとクリーンヒットさせた。


巨体が揺れ、草花が生い茂る地面をへこませながら膝を着いて怯んだ。


「旦那さん!今のうちに!」


「ああ!」


少年が危険を顧みず作ってくれた隙。少し茶色掛かった濃い金髪の男性。愛する夫人の腕を取り立ち上がらせた。


2人はツナギと大豚の方へ顔を向けながら馬の手綱を掴んだ。積んでいた荷物のいくつかが転がり落ちる程、強く馬を誘導し、少し遠くの位置へと移動した。


そうする間に大豚は立ち上がる。興味は完全にツナギただ1人。立ち上がれば小さき存在になる人間は、いつの間にかグルグルと辺りを走り回っていた。


今朝の毒蛾に対する成功体験がツナギの足を動かす。盾や剣の上からとはいえ、まともに食らえばひとたまりもない。となれば動き続けるしかない。


脚力と持久力を生かして、ひたすらグルグルと走り回り、目を回させて混乱させるか。体勢を整えた夫人に魔法で援護してもらうか。


そんな算段だったのだが⋯⋯。




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