彼の長所なんてそれくらいだから。

少年はいよいよ旅に出る。さっきの魔法使いな幼なじみとの1戦で、やはり自旗前のユニットを下手に動かすべきではなかったなと後悔しながら。


村の出口。西の方面。大人の足で2日歩けばパミラの町。そのスタート地点。


そこの門番役である青年は、遠い平野のさらに向こうを顔を上げて見つめるようにしながら険しい顔をしていた。


「よう先輩。何か困り毎かね」


ツナギがそう声を掛けると、青年は顔を村の外に向けたまま口を開いた。


「エルフの商人さんがよ、まだ来ないんだよ」


「ほう。今日来る日?」


「ああ。昼までには村長ん家の前で荷馬車を広げて賑わっている時間なんだが⋯⋯」


週に2度程。町や近隣の村や集落で仕入れ品物を荷馬車に載せて、巡回商人をするエルフの夫婦がやって来る。


この村では手に入らない食材や日用品、薬品の類だけでなく、酒や菓子、嗜好品や玩具まで取り揃える。そのエルフが開くその日限りの臨時商店はワタの村人の生命線であり、数少ない楽しみであった。


ツナギもその商人エルフ夫婦とは、町でクソカードの仕入れを頼み込めるくらいの間柄。その2人がやって来るはずの方角は、今から自分が向かおうとする街道。


当然、村警備の職に就いた4つ年上のなじみにこう言われる。


「この村を旅立つ少年の記念すべき初クエスト。エルフ商人の無事の是非!だな」



村1番、地域1番。いや、地方1番。いやいや、いずれ大陸1番と言われる脚力と持久力に優れたショーが街道を走って確かめに行くのは最善の策であった。



ある程度整備された道の周りには、草原や森の景色が続く。途中何か所かあるギルドと共有しているキャンプエリアや歴史ある遺跡などもある。


その何処かに立ち寄っている可能性も考えながら、ショーは走り出した。


固められた土と砂。足を運ぶ旅にザシュッ、ザシュッと軽快な音が鳴る。山の向こうへと僅かに傾き始めた陽光による影にピッタリ着いていくように魔王と勇者の少年はひたすらに走っていく。


出発間際、警備兵が広げた地図で、念の為改めて辺りの地形を把握。ワタの村からパミラの町の間には、それほど険しいところはない。


エルフの商人は昔、とあるキャラバンの一員として長い間旅をしていたともツナギは本人達から聞いていた。


戦闘力も経験もある、単純に町からの出立が遅れてしまっただけだと信じたかったが⋯⋯。


「ソイルシールド!!」


「ルミア、危ない!!」


「キャー!!」


村を出てからしばらく。平原を抜けて小さな丘を上がったところ。ツナギが少し息を切らしながら目をこらしたその先に、探していたエルフの2人はいた。

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