強盗

長万部 三郎太

強盗が来るなんて思わなかった

ある晩の遅く、町はずれにある小さなコンビニを外から伺う1人の男。

男は店内に客がいないことを確認すると静かに入り、隠し持っていたナイフを店員にちらつかせてこう言った。


「レジを開けろ。金をこの袋に詰めるんだ。急げ!」

「月末の集金を終えて、店にはお金がないんです」


店員は慌てて空っぽのレジを強盗に見せた。

確かにレジにはお釣り用の小銭しか入っていなかったのだ。


その時、店の前に1台の車が乗りつけた。


「しまった、客が来たか」


通報をおそれた強盗は、とっさに空いていた棚の下に潜りこみ息を潜めた。

しかし店内の様子がおかしい。


「おい、金を出せ! この銃が見えないのか?」


車で乗り付けたのは客ではなく二人目の強盗であった。一難去ってまた一難。

店員は先ほどと同じく、空っぽのレジを見せて事情を説明した。


「くそっ、この店はダメか!」


銃を持った強盗は早々に諦め、車に乗り込むとどこかへ逃げていった。

バツが悪そうな顔をして棚の下から出てきた強盗も、同じくどこかへ逃げ帰った。



強盗が去ると、店員はレジの下の引き戸から現金が詰まったカバンを取り出した。

そしてバックヤードの暗がりに目をやると、こうつぶやいたのだ。


「まさか、ひと晩に三度も強盗が来るなんて思わなかっただろうな」


視線の先にはロープとガムテで縛られた“本物の”店員が横たわっていた。





(すこし・ふしぎシリーズ『強盗』 おわり)

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強盗 長万部 三郎太 @Myslee_Noface

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